第3話「人質」
ヌアル平原の奥に入り口が存在する、月影の森。
鬱蒼と生い茂る木々、月明かりと鉱物が幻想的な雰囲気を生み出すその森に足を踏み入れたアルドは、最奥部で男の子と魔物を見つけ、足を止めた。
「お前だな」
大きな緑色の図体、石の武器を持ったアベトスは豪快に笑う。
「やっと来たか。待ちくたびれたぜ!」
「アルド兄ちゃん!」
アベトスは、アルドのもとへ走ろうとした男の子の首根っこをつかまえる。男の子は必死に抵抗するが、力で敵うはずもない。
アルドは剣を抜き、構える。
「その子を離せ!」
「それはできねぇなぁ」
「……目的は何だ?」
「ふん。話がわかるじゃねぇか。
オレは今、力比べにハマっていてな。付き合ってもらうぜ」
「力比べ……?」
アベトスは石棒を振り上げ、咆哮する。
「……と見せかけて、やっちまえ、お前ら!」
「兄ちゃん、うしろだっ!」
男の子の言葉を受け、アルドは素早く背後を振り返る。
背後に迫っていたゴブリンは三体。一番近くにいたゴブリンの攻撃を間一髪で躱し、剣で一閃。
アルドはうしろに跳躍し、距離をとって、瞬時に体勢を立て直す。
残った二体のゴブリンは、不意打ちに失敗したこと、あっという間に仲間が一体倒されたことに驚き、あとずさる。
アベトスは舌打ちをし、男の子を睨みつけた。
「ったく、余計なことしやがって。今度邪魔したら食っちまうぞ!」
「ひぇっ」
アルドとゴブリンたちは両者動かず、どちらかといえばゴブリンたちの方が逃げ腰に見える。
「おい、お前ら!何してる!」
「だって、こいつ、オレたちより強い……」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで早くやれ!こっちには人質がいるんだ!」
アベトスが男の子を持ち上げ、宙吊りにする。
「うわぁっ!助けて、アルド兄ちゃん!!」
ゴブリンたちとアベトス、両方を視界に捉えたまま、アルドは活路を見出せずにいた。仮にゴブリンたちを倒せたとして、人質に危害を加えられれば本末転倒だ。
かといって、アベトスに切りかかれば背中ががら空きになる。
「くっ……、どうすれば……!?」
その時、アベトスの背後で空間が歪んだ。
アルドは目を見開く。
「あれは、時空の穴……!?」
忽然と現れた時空の穴に、一同の目は釘付けになる。
と、穴はすさまじい力で周囲のものを引き寄せ始めた。
「なっ、なんだ、これは……!?」
「わあぁぁぁっ!」
アベトスが男の子を捕らえたまま吸い込まれる。
男の子を連れ去られたままでいるわけにはいかない。アルドはアベトスたちを追いかけ、自ら穴の中へ飛び込んだ。
ゴブリンたちは我に返ると、一目散にその場から逃げ出す。
周囲に誰もいなくなった森の中、時空の穴がひとりでに閉じた。
× × ×
時空の穴を通ってアルドが降り立った先は、AD1100年、エルジオンのエアポートだった。
着地し、素早く周囲を見回す。左手は道が途切れて行き止まり、右手にしばらく行けば移動のためのカーゴがある。
先に着地していたアベトスがアルドに気づき、男の子を小脇に抱えたままカーゴの方へ走り出す。どうやら人質の男の子は気を失っているようだ。
アベトスを追って、すぐさまアルドも駆け出した。
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