第5話 好きな人(1)

 先生と出会ったパン屋さん、ここがおそらく先輩の家だ。

 どうすればいいか分からなかったので閉店間際のパン屋さんの方に入り、事情を説明してお家にあげて貰った。胸のざわめきは気づけば鼓動へと変化し、耳元で心音が響く。

 このドアの先には保健室の先生がいるかもしれない……。

 息を飲むようにしながら先輩のお母さんの後ろをついていくしかなかった。学校ではシャンとした背中がソファの上で丸くなっているのがわかる。こちらに反応した先生と目が合った私は「こ、こんばんは」と急いで挨拶をする。

学校の外で先生へ挨拶するなんてなんか変な感じだ。

先生は私の顔にピンときた顔をして「あぁ、君は! 久しぶりだね。どうかしたの?」とこちらに歩いてきた。

 いつもの白衣を着てる先生が部屋着を着ている。ラフな格好を見るのは子供以来だ。



「先輩のお見舞いに来ました」


「なるほどね、部屋に案内するよ」



 先生の後ろ姿を歩きながら、胸に引っかかった疑問を問う。



「あの……先生と先輩ってどういう関係なんですか?」


「あれ? 言ったこと無かったっけ? 弟だよ」



 先生はなんの曇のない笑顔で振り向く。衝撃的な発言に私は驚きを隠せなかった。



「そうなんですね! 知らなかったです!」


「あはは、タイミングなかったからね。はい、ここだよ」



 そう言って先生はコンコンと先輩の部屋をノックした。



「はーい」



 聞きなれた声が中から聞こえてくる。

 ガチャッ。先生がそのままドアを開けた。



「え!」


「突然すみません! お見舞い来ちゃいました……」


「めっちゃ部屋着なんだけど、恥ずかしいじゃん」



 バイトの制服を着こなす先輩の部屋着姿……!ㅤダボッとしたスウェットが可愛い!



「全然大丈夫ですよ! 無理して欲しくないですし、このまんまでいてください」


「ごめんねこんな格好で……、それと来てくれてありがとう」



 やっとニッコリした先輩の笑顔に私も自然とつられた。元気そうで一安心だ。



「そうだ! 私、バイトでお世話になってる日頃の感謝を込めてクッキー缶を作ったんです。それで先輩の分持ってきたので、治ったら食べて欲しいです」


「ありがとう。いただきます」



 私の手からラッピング袋が先輩に渡る。それを見る先生が



「美味しそう!ㅤいいなぁ」



 と嬉しいことを言ってくれた。それに対して



「先生には学校であげますね」



 と言うと、子供のようにやったー!ㅤと先生が喜んだ。



「兄貴はしゃぎすぎ。俺病人なんだけど」


「なんだよー。今元気じゃん!」



 など兄弟仲良くしている姿を見れたところで、長居しても申し訳ないのでお暇することにした。



「お邪魔しました! 先輩早く治してくださいね!」


「来てくれてありがとう!ㅤ気をつけて帰ってね」


 

 こうして、会いたかった人に会えて幸せな気持ちで帰宅した。私の鼓動はずっと高まったままだった――。




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