湯治に行く、ならば【天正16年10月中旬】




 紅葉が舞い散り、日に日に風が冷たさを増していく。

 冬の気配をはっきりと感じた日に、寧々様直々の手紙が届いた。

 その雪のような白の料紙に記された文面は、たった数文字。




 

 帰 っ て き な さ い 。





 力強い筆致に、圧を感じる命令だった。






「厄介なことになったぞ」



 日暮れ前の、与四郎おじさんの屋敷の客間。

 突然寧々様の手紙を片手に訪ねてきた石田様は、お茶請けの落雁を食べながら言った。



「へ? 厄介?」


「お前の不在があらぬ噂となって、

 都を飛び交っているのだ」


「えぇ……?」



 それまたなんでだ。

 ちゃんと私の代わりを務められる、御化粧係の侍女団を丸ごと置いてきてあるのに。

 寧々様はもちろん竜子様もご承知のこと。

 上位の側室方にもきちんと休業宣言をしてきた。

 寧々様の私用を仰せつかって、しばし遠出をしてきますって。

 城奥の人々に不審を感じさせる余地なんて、無かったと思う。

 だから、大した問題が起きることはないはずだが。

 つい眉を寄せてしまう私に、石田様はめんどくさそうに口を開いた。



「浅井の一の姫様がな」


「お待ちください」



 両手を石田様に突き出して、言葉の先を制する。



「嫌な予感がするんですが」


「安心しろ、その予感は大当たりだ」



 安心できるかぁっ!!!

 ちゃ、茶々姫様が何したのよ?

 あの可愛くて、そこはかとなく怖い茶々姫様が、私の帰還要請に関わってるってどういうこと。

 もう、めちゃくちゃ怖いんですが!

 裾を蹴る勢いで立ち上がる。

 これ以上、話を聞きたくなさすぎる。



「わっ!?」


「最後まで聞け、馬鹿が」



 逃げ出しかけた私の小袖の裾を、石田様が膝で踏みつけた。

 酷い! 裾が割れかけた!

 振り向きざまにぎろりと睨むと、わざとらしいため息で迎え撃たれた。

 


「浅井の一の姫様がだ、

 紅葉狩りの最中にお泣きになったそうだ。

 お前が二度と城奥に帰らぬのではないか、とな」


「はぁぁぁぁ!?」



 茶々姫様、何やってんの!?

 唖然としてしまった私に、石田様が説明してくれた事の次第はこうだ。


 三日前、都の某寺院で寧々様主催の紅葉狩りがあった。

 とは言っても、大々的なものではない。

 在京、在坂の大名衆の奥方を持て成すための定例パーティーだ。

 そういうわけで招待客は、主要な大名衆の奥方数名に、秀吉様の側室数名のみ。

 少人数で終わりに近づく楓を眺め、甘いお菓子を摘みつつ、楽しいおしゃべりに興じる。

 



 たったそれだけのパーティーの最中に、参加していた茶々姫様が泣いたのだ。


 


 理由は言うまでもない。

 私だよ。紅葉の鮮やかな色で、私を思い出したらしいよ。

 まあ、困った人だけど、なんだか可愛い感性だ。

 隣に座っていた摩阿姫様も、困った茶々様って感じで苦笑気味に慰めたそうだ。


 それが、かえって悪かった。


 仲良しの摩阿姫様に甘やかされて、茶々姫様の涙腺が決壊。

 止める間もなく、泣き出したのだ。



『ずーっと与祢が城奥にいなくて、

 茶々、寂しいわ』


『与祢、どこに行っちゃったのかしら?』


『まさか……どこかへ輿入れしてしまったの……?』


『もう、茶々は与祢と会えないの?』


『そんなの嫌! 嫌ぁぁ……っ!』



 はい、あとはお察しの通り。

 切り上げ終了した紅葉狩りの直後、都に小さめの激震を走らせる結果となりました。

 注目の人物がいつの間にか行方不明って、最高のゴシップだもんね。

 私の動向を窺うような問い合わせが、各所から寧々様に殺到しているそうだ。

 臨月も近い竜子様のお世話で、めちゃくちゃ忙しいこの時期なのにね! 

  

 もう……言葉にならないよ……。

 茶々姫様が、そんな最悪のタイミングで泣いちゃうとか。もう、もうね。

 織田侍従様しっかりと茶々姫様の面倒見てあげてよぉっ!

 コスメの新作にうつつ抜かしてないでさぁ!?


 どっと疲れて敷布の上に腰を下ろす。

 できれば横になりたいくらいだが、まだ無理だ。

 お茶をため息ごと飲んで、ふたたび口を開く。



「私が堺にいることは、

 まだどなたにも知られてないんですか」


「幸いにしてな」



 バレているのは、八月の終わりに伏見にいたことまでらしい。



「が、早晩突き止められるであろう」


「ですよねえ」



 伏見の船着場からの行き先なんて、大坂か堺の二択だものね。

 タイムリミットは目の前だ。思ったよりも余裕がない。

 寧々様も、待てて後数日だとおっしゃっていたそうだ。

 なのですみやかに荷物をまとめて、バレる前に帰って来いと。



「もう少し、お側にいたいのに」


「紀之介を巻き込む気か?」



 じろりと睨まれて、返事に詰まる。

 私が堺にいることが世間に知れれば、すぐ紀之介様を看病していることも芋づる式に知られてしまう。

 病にまつわる忌まわしい噂に苦しめられた紀之介様が、また別の噂で苦しむことになりかねない。

 それだけは絶対に避けたいことだ。



「無念だろうが、諦めろ」



 私の肩を石田様が軽く叩く。

 珍しくわかりやすい労わりに、がくりと私は項垂れた。

 ちくしょう。石田様すら優しくされる事態なんだな、これ。



「明後日には出立するぞ」


「はい……」



 零れ落ちそうな息を留めるように、口元を両の手で覆う。

 茶々姫様、怨みますよ。

 めちゃくちゃ怨みますからねーっ!?







◇◇◇◇◇◇






「与祢姫」



 名前を呼ばれて、我に返る。

 紀之介様の襟を直していた私の手が、止まっていた。

 やらかした。軽く血の気が引きかける。

 口籠もるように謝って、恥ずかしさで目を逸らす。

 背けかけた頬が、まだかさついた手に包まれた。

 柔く誘導された先に、心配そうな紀之介様がいた。



「今日はぼんやりとしているね。

 調子が良くないのかい?」


「いえっ、その、そんなことは」



 気遣いを含む問いを、ぱたぱたと胸の前で手を振って否定する。

 調子が悪いわけではない。私は今日も、元気そのものだ。

 ただ、ね?



 寧々様から帰還命令が出たので、明日堺を立って聚楽第へ帰ります。



 その一言が、まだ紀之介様に告げられずぐずぐずしているだけだ。

 いや、朝から言わなくちゃって思ってはいるんだよ。

 朝の支度が終わったら、朝ご飯が終わったら。

 せめて、道三先生の定期診察が始まる前までには。

 そんなふうに、ずるっずるに引き伸ばしまくっている。

 ほんっとなさけないな、私……。



「ならばいいが、無理はしないでくれ」


「はい……あの、紀之介様」



 意を決して、頬を包む紀之介様の手を握る。

 このままじゃだめだ。勇気を出さねば。



「何かな」



 優しく目を細めて、紀之介様は聞く姿勢を見せてくれる。



「……その、ですね」



 やっぱり無理! 言い出しづらいっ!!

 喉元寸前で別れの言葉を潰して、ひきつりかける頬を緩める。



「お具合がまた良くなって、

 よかったですね!」


「ありがとう、君のおかげだよ」



 嬉しげに言う紀之介様に抱きつきながら、情けなさを噛み殺す。

 同席している石田様の目が痛い。

 朝からずっと、さっさとしろや、と時々視線を投げられている。

 石田様から紀之介様に伝えるという提案を、断固拒否したせいもあるのだろう。

 いつにも増して、石田様は私に凍てつくような眼差しを送ってくる。

  


「ど、道三様!」



 視線から逃げるように、処方箋を書いている道三先生に話を振る。



「なぁーにー?」


「これほど快復なさったのだから、

 そろそろ紀之介様はお役目へお戻りになれそうでしょうか」



 適当にそれっぽい質問を投げてみる。

 紀之介様は十全にお仕事ができなくて、内心悔しい思いをなさっている様子だ。

 できたら、お仕事に関するドクターストップを緩和して差し上げてほしいのだけれどね。



「んー、そうやなぁ」



 手を止めた道三先生が、助手を務めている丿貫おじさんをチラリと窺う。

 診察道具を片付けていたおじさんも手を休め、道三先生を見つめ返した。

 しばらく、老人二人は目で何か相談し合う。

 おもむろに丿貫おじさんが口を開いた。



「もうひと声、ほしいところやな」


「もうひと声?」


「病をな、もう少々叩いとく方がええと思うわ」



 なあお師匠っしょさん、と丿貫おじさんが道三先生を呼ぶ。

 道三先生の白筆のような眉が、片方持ち上がった。



「せやな、再発したらつまらへんよ」


「承知しました、

 今しばらく養生を続けます」



 道三先生の言葉に、紀之介様は頷く。

 でもその表情には、残念そうな色がほんの僅かに覗いている。

 どうにかして差し上げたい。そんな気持ちが湧いて、胸がざわつく。



「養生の期間、縮められないの?」



 思わず、ざわつきから生まれた言葉が口をつく。

 ガツンとよく効いて、復帰を早くする特効薬か治療方法はないのだろうか。

 縋る気持ちで道三先生と丿貫おじさんを見上げる。

 必死な私に何を思ったのか、難しい顔で腕組みをした。



「あるなしやったら、あるんやが」


「あるのね! やった!」



 だったらその治療法でいいじゃん!

 食い気味、前のめりになってしまう私に、道三先生は苦笑気味に頷いた。



「湯治や」



 一瞬、隣の紀之介様が身を固くした。

 有馬温泉で酷い目に遭ったことが、よほどトラウマになっているらしい。



「有馬でやないで、

 やるんやったら別の湯でや」


「……さようで」


「本来は、効くもんなんやよ?」



 皮膚疾患や戦傷治療においては、湯治は定番療法なのだと丿貫おじさんが言う。

 まあね、入浴自体は健康に良いもんね。

 お風呂はいいよ。適切に汗や汚れを落とすことで、体の衛生状態を適切に保てる。

 湯に浸かると血行が良くなって、体が温まることで新陳代謝が高まる。

 副交感神経も優位になるのでリラックス効果が高いし、疲労回復効果も抜群だ。

 私は可能なかぎり、毎日お風呂に入っているよ。

 清潔な白い肌とサラサラで良い匂いのする髪は、元令和の人間として絶対に譲れないポイントだ。

 そこそこな贅沢品だとはいえ、私の生活する場ではありふれたものでもあるしね。

 だからいつも堂々とバスタイムを楽しんでいます。

 周りに潔癖症疑惑を持たれても気にしない。気にしないんだったら。



「でも湯治場って、有馬以外にどこがあるのかしら」



 私が思いつく範囲だと、紀州和歌山牟婁の湯白浜温泉兵庫丹後の城崎の二つだけだ。

 どちらも比較的近場だから、立地的にはちょうど良い。

 ただ、紀之介様の症状にどれほどの効果が望めるかまではわからない。



「肌の病といえば、草津なんやけどねえ」


「草津って、あの草津の湯よね?」



 耳に覚えがある地名に、思わず聞き返してしまう。

 せや、と道三先生は顎に指を添えつつ頷いた。

 草津温泉、もう湧いてたんだ。知らなかったわ。



「ただの掻痒から質の悪ぅい腫物はれもんまで、

 体の表面の病には効果てきめんなんえ」


「古来より有名な湯治場やし、お勧めしたいところなんやけどな」



 丿貫おじさんが口ごもる。珍しく歯切れの悪い発言だ。

 草津温泉に重大な欠点でもあるのだろうか。あの硫黄臭か、距離の問題あたりかな?

 じっと見つめて言葉の先を促すと、おじさんはため息まじりに肩をすくめた。



「草津の湯があるんはな、

 上野国は沼田に近いんや」


「よりにもよって沼田か」


「ぬまた?」


「真田が領有を主張している沼田だ」



 さなだ。耳に覚えるキーワードだ。

 弾かれたように、細い眉をしかめる石田様を見上げる。

 真田って、この時代だとあの真田幸村の真田だよね。

 幸村って草津温泉と縁があったんだ。初めて知ったわ。

 静かに驚いていると、おや、と紀之介様が顔を覗き込んできた。



「与祢姫は真田殿のことを知っているのかい」


「お名前だけ。

 えっと、真田幸村、様でしたよね」



 名前の他は、真っ赤な武装で派手に戦った人ってことしか知らないです。

 正直に答えた途端、紀之介様がお顔を背けて肩を震わせ始めた。

 わ、笑われた!? 私、おかしなこと言ったかな!?!?



「君も間違えて人の名を覚えることがあるんだな」


「え、え? 違うんですか?」


「当代の真田は、

 真田安房守昌幸殿だよ」



 誰だ、その人。幸村の親戚とかか。

 きょとんとしたら、石田様が呆れたように横目で見下ろしてきた。



「馬鹿、それでも寧々様の女房か。

 甲斐武田旧臣の有名どころくらい覚えておけ」


「……はぁい。

 それで草津の湯が真田様の領地であることに、何か問題が?」



 聞いた途端、刺さる視線の温度がさらに低くなった。

 なんで!? 石田様、平常運転だけど酷くない!?

 助けを求めて紀之介様の袖を掴む。

 紀之介様は苦笑が抜けきらない表情で説明してくれた。



「真田殿はね、北条家と所領を巡る諍いを抱えているんだ」


「北条とですか」


「その諍いの地が沼田と言えば、わかるかな?」


「あっ」



 そりゃだめだわ。

 一触即発の地の側で湯治なんて、落ち着いてできるわけがない。

 紀之介様のおかげで、やっと理解できたよ。

 草津温泉はだめだ。効能がとびっきりでも、とびっきりの紛争地帯の近所なのだから。

 羽柴の生え抜きの家臣である紀之介様が、気楽に行っていい場所じゃない。

 


「箱根の湯もええんやが、

 こっちはまるごと北条さんとこやしなあ」


「ままならへんねえ」



 顔を見合わせてから、道三先生と丿貫おじさんは天を仰ぐ。

 お手上げじゃん。湯治計画が最初っからつまずいちゃってるよ。

 どうしたものかな。今もやってもらっている、ハーブを使った薬浴を続ける?

 薬草やハーブのバリエーションがマンネリだ。効き目もゆったりなので、療養期間を縮められる気がしない。

 本当に、どうすればいいんだろう。



「草津の湯と似た湯は無いの?」


「似たようなとは、どのような」


「臭気とか、色とかよ」


「草津の湯と似ている湯なら、

 薬効も似ているのではないか、ということやな?」



 そうそう、ジェネリック草津の湯みたいな温泉みたいなの!

 よく似た泉質や効能の温泉が、都合良く畿内あれば紀之介様も行きやすいはずだ。

 勢いよく私が頷くと、おじさんはこめかみに指を当てた。道三先生も、深い眉間の皺を指先でなぞる。

 知恵を探るような仕草とともに口を引き結ぶ二人を、私と紀之介様は息を詰めて見守る。

 そんな張り詰めた沈黙が、突如裂かれた。

 


「ある!」


「石田様!?」



 突然大声を出した石田様が、食いつくように道三先生ににじり寄った。



「曲直瀬殿、草津と同じく臭う湯が肌の病に効くのだな?」


「硫黄の臭いやで、治部さん。

 そういうん、知ってはるの?」


「ならば、覚えがある」



 道三先生に、石田様の細いおとがいが深く頷いた。


 

「まことか、佐吉殿」


「ああ、もちろんだ。しかと覚えがある」



 半信半疑のように訊ねる紀之介様にも、石田様は明るい顔で肯定する。

 本当に心当たりがあるらしい。

 良い意味で肌がざわっとするような感覚が体に走った。



「急ぎ湯治の手筈を整えるぞ」



 こうしてはおれぬ、とばかりに石田様が立ち上がる。

 その立ち姿が、未だかつてなく頼もしく見えた。

 よかった。石田様の優秀さは折り紙付きだもの。

 ぱぱっと段取りをして、紀之介様を湯治に送り出してくれるに違いない。

 これで私も安心だよ。心に憂いなく聚楽第に帰れ、



「では行くぞ、粧の姫」


「へっ?」



 体が浮く。視界がぐるんと変わる。

 紀之介様と、目が合った。

 あれ? 唖然として座っている紀之介様よりも、視線の位置が高い。

 ぽかんと見上げてくる道三先生や丿貫おじさんも、ずっとずっと下にいる。

 え、え? 何これ? 何??



「治部様っ、何をなさいますか!?」



 控えていたお夏の悲鳴で、意識がはっきりする。

 あっ、担がれてる。

 私、俵担ぎにされてる。石田様に。

 えっ? 誘拐!?!?



「おっ、下ろしてっ!」


「暴れるな、馬鹿め」



 いっったぁっ! お尻を叩かれた!!

 わりとされていない力加減に、涙が出そうになる。



「与祢姫!」



 痛みで抵抗を止められた手が、力の強い手に掴まれた。

 紀之介様だ。担がれた私の手を掴んで、取り戻そうとしてくれる。

 引っ張られてちょっと痛い。けれど嬉しい。

 わけがわかんなくて、紀之介様の名を呼んで泣く。



「おい紀之介、粧の姫を離せ」


「それはこちらが言いたい、佐吉殿。

 与祢姫に無体をするな」


「無体ではない、運ぶだけだが」


「運び方が無体なんだ!」



 やり方があるだろう! と、紀之介様が怒りを含んだ声を張り上げる。

 石田様はむっと唇を尖らせた。

 なに、その不満顔。こっちがその顔をしたいくらいなんですけど!?



「では丁重に運ぶ」



 渋々といったふうに、石田様は私を普通の抱え方で抱え直した。

 どうだと胸を張りそうな勢いの石田様に、紀之介様は頭を抱えた。



「佐吉殿、そういうことではない。

 それでよくないんだ」


「どういうことだ?」


「前触れもなく与祢姫を連れ去ろうとして、

 問題が無いと思っているのかい」


「だが、急を要する事態だ」



 拐かしではない、と言い切って石田様は鼻を鳴らす。



「それにちょうど良いのだ。

 明日にはこいつを堺から連れ出す予定だったからな」


「なんだって?」



 ちょっと、結局石田様が伝えちゃうわけ!?

 意表を突かれたせいか、紀之介様の手が緩む。

 タイミングを図ったかのように、石田様は私から紀之介様を引き剥がした。 

 


「おい粧の姫の侍女、

 お前は後から荷物をまとめて来い」



 歩き出しつつ、石田様は固まっているお夏に命じる。



「は?」


「案じるな、姫の護衛は連れて行く」


「案じます!

 どこを案ぜずともよいと思われますのっ!」



 髪を振り乱して首を横に振りながら、お夏は石田様の袖に取りつく。



「我が姫様を、どこへお連れになるおつもりですか!?」



 血走る双眸が、石田様を睨む。

 だがさすがというか、石田様は鬼気迫ったお夏にも怯まない。

 不機嫌そうな口を、ため息交じりに開いた。



「大和だが」


「「「「「は?」」」」」



 石田様を除く全員の、間抜けた声がハモる。

 大和……って、奈良? だった、よね?




 ……あをによし?


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