第15話 森にて1
目の前で綺羅綺羅と反射する髪が眩しく、今のローにとっては邪魔以外の何者でもなかった。
「貴様、昼寝の邪魔をする気か。」
青々とした草が自然の絨毯となって生い茂っているこの場所はローが一番好んでいる場所で、陽がよく照っている今日のような日は特に絶好の昼寝場所となっていた。
枝から溢れる陽の光は暖かく、時折吹き込んでくる風がちょうど良く涼しい。日向ぼっこには最適な環境だ。
ところが、先程からアヤメの白金の髪がローの眼裏を痛々しいくらい刺しており、とてもじゃないが寝ていられない。
「自分も似たような毛のくせに」
「貴様がとやかく言える身分ではないだろう」
アヤメは文句を聞き流しながらふわあとだらしなく口を開け大きく欠伸をする。
部下の目を盗んで抜け出してからもうすぐ半刻。そろそろ戻らないと問題だということはアヤメもわかっていた。
しかし、理解していてもどうにも体が動かないのでしょうがない。
「大人しく寝ているだけなんだけど」
「そこにいるだけで有害だ、その髪は」
「そこまで言うか」
日の光を一身に浴びて光るアヤメの髪がふわりと絹糸のように柔らかく風に揺れた。
『有害』とまで言われた自分の髪を一房つまみ目の前に翳して見つめる。
白杏は忍(しのぶ)民である。闇に紛れやすいようにその血を受け継ぐ者は目や髪の色が黒に染まっており、今は農業や養蚕を生業としているが、その昔は暗殺や情報収集といった隠密が主だったという。
「黒のほうがかっこいいよねー。きりっとして」
「能天気な頭だな」
興味なさそうにくぁと欠伸をする狼にアヤメは首を傾げる。
「…ローの色も良いと思う」
「世辞を貰いたいわけではないわ」
じゃあなんだと言うのだ。その言葉の本意がわからず曖昧な返答に口を開きかけ、やめる。狼は既にゴロンとアヤメに背を向け眠る体勢にはいっており、これ以上会話に付き合う気はないようだった。
「……」
緩やかに上下する毛玉をひとしきり睨んだ後、ため息を一つ吐きアヤメも倣って横になった。
涼やかな風が木々の間を通り抜け、葉を揺らす。青くさい草の匂いと少し水で湿ったような香ばしい土の匂い。
アヤメに故郷の記憶はほとんどない。
あるのは微かな断片のみ。
物心ついた頃にはすでに兄に手をひかれて白杏の地を踏んでいた。
まあいっかと目を閉じる。
胸いっぱいに空気を吸うと森に溢れる精霊の気配が感じ取られた。
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