第50話 後水の本領
そもそも性別が変わってしまった俺は兎も角として、
結果、必然的に運転をするのは
後水は運転するのが好きみたいで、喜んで引き受けてくれた。
「捕まらない程度に飛ばしますんで、後の座席もちゃんとシートベルトしてくださいっす」
「わかった」
「いま、相手の位置は高速道路に乗って北に向かって移動している」
「そっち方面、いま結構な雪が降っている筈だけど、この車大丈夫だろうか」
「この車のタイヤってスタッドレスみたいっすから、大丈夫でしょ」
「車に乗るまで殆ど時間無いのにそんなところまで分かるのか」
「まぁ、こう見えてもオートバッカスでバイトしてたっすから、それくらいは余裕っすよ」
降雪状況では誘拐犯の車のタイヤ次第ではすぐに追いつける可能性がでてきた。
今の内にメッセンジャーアプリでぐるぐる太陽に連絡とる事にした。
『犯人が移動を始めた、今車で追跡してる、現在高速道路の──道を北上中』
『一応後を追いかけるが下道に降りたら教えてくれ。同僚に頼んで網を張れるかもしれない、だがお前は捕まるなよ』
『助かる』
「警察が網を張ってくれるかもしれない、スピード違反で捕まるのだけはやめてね」
「わかったっす!姐さん!」
「姐さん?」
「え、その呼び方嫌っすか?潤井の姐さんにしましょうか?」
「もう、姐さんでいいよ」
後水から急にやくざの下っ端臭が出て来た気がする。
そのうち俺もドスをもって指示するようになるのだろうか。
そうこう言っている間に高速道路に乗り、一気に加速し始めた。
「えっと、スピード出し過ぎていない?200km超えてる気がするんだけど」
「あ、この区間は大丈夫なんっすよ。県境なのとオービスがないんで、ただ単に速度を出したいだけの奴らには人気なんっすよ」
「この先、降雪があるらしいぞ」
「そうみたいっすね、だからこそ今の内って事っす」
グンっと加速された感じがした。
スピードの表示を覗き込むと、250kmと表示されている。
後水の表情に余裕はなかった。
ハンドルを握る手にかなりの力が入っている事がわかる。
単に走りを楽しんでいるのか、救出の為に精いっぱい頑張っているのかは判別できないが、いまは感謝しておこう。
後でうまい飯でも奢ってやらないとだな。
かなり離れていた距離がだいぶ近づいたと思った頃、誘拐犯の車がサービスエリアに入った。
最早誰も追いかけてきていないと判断したんだろう。
この事をぐるぐる太陽にも連絡し、可能であれば取り押さえると言っておいた。
取り押さえた後の事を任せたい。
会った事は無いけど、警察の知り合いがいるというのは本当に便利だな。
「次のサービスエリアに入ってください、誘拐犯も入ったみたい」
「わかったっす。丁度雪でスピード出せなくなったんで、止まってくれて助かったっすね」
「そういえば、この先はチェーン規制の表示が出ていたな、もしかしてチェーンを装着しているのかもしれないな」
サービスエリアへの到着時間の差はだいたい10分くらいだ。
できれば戻ってきた所を取り押さえる事が出来ればいいのだが。
俺たちがサービスエリアに到着した時、既に吹雪き始めていたが誘拐犯の車はすぐに発見できた。
だが、車内に誰も乗っていなかった。鮎を連れてサービスエリアの施設に入ったとしか思えない。
後水は車で待機、俺と潤井さんで探しに行って可能であればそこで取り押さえる。俺達が誘拐犯に遭遇できず、すれ違った場合は後水が戻ってきた所を取り押さえるという作戦を取った。
吹雪いている中、俺達は位置情報だけが頼りなのだが、気温の低下と共にスマホの電池が心もとない。
俺は最悪の事態を考えながらサービスエリアの施設に向かった。
施設に入ろうとした時、後水から潤井さんに電話がかかってきた。
『そういえばなんっすけど、ここのサービスエリア、一般道から徒歩で出入りできるんっすよ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます