第46話 父と母とその娘

 なにかいい夢をみた。

 男に戻れた俺が、彩月さんと愛し合う夢。

 彩月さんが積極的に騎乗位で激しく乱れていた。

 その姿は綺麗としか表現のしようがなかった。


 現実だったらどれだけよかっただろうか。

 いや、夢で終わらせてはいけない、いつか絶対、現実にするんだ…。


 というか、こんな夢を見る俺は欲求不満なのかもしれない。



 さて、昨日の続きで今日も自分の部屋探しだ。

 一緒に行く為に麦の部屋に行くと、更に隣の潤井うるいさんの部屋に連れ込まれた。そこで、改めて話があると言う事だ。


「今日も笹原さんは一緒じゃないんだな」

「なにか今日は一人でいたいらしい、朝食も摂らなかったよ、やっぱりあんなところ舐めるから体調悪くなんじゃないかなぁ、麦はどうなんだ?」

「笹原さんにもされたのか…。って、そんな事で悪くなるわけないだろ…」

「それで、なんで潤井さんが付いてくる気でいるんだ?」

「土日のどちらかでデートするって予定を潰されたから付いていくんだよ。悪いか?」


 指を絡めて手を繋ぐ二人───。

 麦は真面目に向き合う事を選んだと言う事か。

 どうせ、あんなことをした後、ムラムラして潤井さんのところに行ったんだろ。

 なんせ近いからな。


「仲のよろしい事で…」

「俺ら結婚する事にしたから」


「?」


 前向きに考えるにしても展開が早すぎて話が呑み込めなかった。

 一応、麦と潤井さんは真剣な表情をしている。


「結婚する事にしたから」

「大事な事だから二度言いましたってかよ、何言っているんだ?戸籍上男同士だろ?ん……麦、まさか」

「まぁそういう事だ、あれから偽戸籍作ったんだ。名前は麦村蘭むぎむららんにしたよ、なんと生き別れの妹だなんという運命!まぁすぐに苗字は変わるけどね」


 さらっとアブナイ話をしやがる。

 捕まっても知らないからな…。


「んー……、まぁ、おめでとう、って言っとくわ」


「「ありがとう」」


「そうだ、鮎にも戸籍が必要だと思うんだよね」

「あ、ああ、まぁある方が良いわな」

「それで考えたんだが偽装じゃなくて、本物の戸籍をつくらないか?」

「どうやって?」

「俺が産んだことにする。父親は潤井さんだ」

「……うん?そんなんで今から戸籍を作れる…と?」

「そうだよ。なんだかんだあって戸籍を申告できなかった事にすれば可能なんだよ」

「じゃあ、これから二人の事はなんて呼べばいいんだ?パパとママか?」


 二人が同時に幸せそうに微笑み合う。

 呼び方なんてどうでもいいと言う事だ、つられて俺も頬が緩む。

 そうして、ここに奇妙な関係の親子が出来上がってしまった。


 でも、できたら俺は元の姿に戻りたいんだけどな。


「ん?ちょっと待て、戸籍が出来るって事は…まさか…」

「小学生からやり直しだな、父兄参観は俺にまかせろ」

「断る!断じて断る!小学生からなんて嫌だぞ、俺は嫌だからなっ」


 子どもに混ざって九九からお勉強とか何の苦行なんだよっ、普通に嫌に決まっている。

 それに仕事はどうなる?潤井さんだってそれくらいわかっている筈だ。

 平日昼間に学校に行けば、間違いなく仕事の時間が減る。

 その分の給料は誰がくれるんだよ!


「まぁまぁ、近所でも噂されているんだよ。学校に行っているのか?とか、仕事はほら、夜にやればいいだろ?」

「夜はゲームの時間だ、プライベートの時間は何人なんびとたりとも侵すべからず!絶対に嫌だ!」

「じゃあ、近所からグチグチと言われる笹原さんを無視してゲームするという事か?終いにはどっかの団体やらが来て安否確認させろとか言い出すんだぞ。義務教育を受けないってのは虐待の一種でもあるだろ。その汚名は誰が着るんだ?」

「うっ……彩月さつきさんを盾にするとは卑怯な……」


 潤井さんが勝ち誇ったように腕を組む。これが本当のドヤ顔だと言わんばかりの表情で論破したと思っている。

 その問題は、俺も薄々は感じていた。

 1年程度ならまだどうにか言い逃れ続けれるだろうが、2年、3年となると周辺から不思議がられ、ついには行政が介入するだろうと思っていた。

 その時に、戸籍すらなければ、どうなるだろうか。考えたくもない。

 言う通りにするが正しいのだが…。


「そうそう、鮎もそろそろ、自称を変えたらどうだ。俺っ子も一部には需要があるが、子どもの中じゃ目立つぞ」

「麦こそ先に変えればいいじゃないか。20歳前後の俺っ子の需要は5歳前後の俺より少ないぞ」

「俺…私はそのつもりだよ、まだ慣れていないんだ、癖だな」


「俺は普段はそのままで行くよ、子どもの中に混じった時だけ変えるよ。メタい話、自称が被りすぎると誰が誰だか」

「おい」


「それに、元に戻ってほしいと願う人が居る限り、自称も口調も変えるなんてできないよ」


「そっか、好きにしろ」


「それで?仕事はどうするんだ?学校に行き始めたら、会議の参加は絶望的だぞ」


 俺の疑問は恐らく大した事ではない。

 この二人なら、もう答えを出している。

 その答えは、どうやら潤井さんが教えてくれる様だ。


「それについては、俺に考えがある」

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