─────────────旦和解するまで

第38話 雪で隠す物

 それは麦村に一ノ瀬が素朴な質問をした事が切っ掛けだった。


「部屋の鍵ってどうなってるんだ?」

「それがな、明らかに高そうな鍵に代わっていたよ。鮎の部屋の鍵を見た事があったからすぐにわかった」


「じゃあ、以前の麦の部屋って今は誰が住んでいるんだ?」


 俺の口座から今月の家賃が7万2千円も引き落とされていた、そこから疑問に感じて確認をしていた。

 というか住んでいないのに家賃が引き落とされるのに納得がいかないからだ。


 さらには元々の俺の部屋の鍵が見知らぬ変わった形の鍵に代わっていた。

 と言う事は俺の部屋がどこかに現存するという事だ。


 あの部屋には200万の現金を保管しているからだ、正直に銀行に預けていればよかった…。



 そうして、俺達は麦村の住んでいた部屋に行く事にした。


 電車で揺られながら考える。

 俺が年頃の女子になって彩月さんを愛し続けれるのかという事。

 俺には自信があるが、彩月さんはどうだろうか。

 親からの結婚を強制される圧力が強まる中、いつまで独身で居続けれるのか。

 両親にすれば孫の顔が見たいと言うのは判るし、俺だって子どもは欲しい。


 つまるところ、現状のままの関係をいつまでもずるずると引きずる訳にはいかない。三十路手前という焦りから、他の男に取られる前に俺がどうにかする必要がある。


 上手い事、話が進めばいいのだが、この幼女体ではな。



 そんな答えが出ない考えをしている内に車内に差し込む光があまりにも眩しい事に気が付く。

 窓から外を見ると辺り一面、真っ白になっている事に俺は心を奪われた。



「雪だー!」

「ちょ、何?びっくりした、車内で騒がないでくれ、子どもかよ」

「雪っ雪だよ、今年初めて見た、しかも凄い積もってる!あぁ、ウチの方でも降らないかなぁ…」

「やめてくれ、暖房代がかさむだけだ」


 すっかり忘れていたが麦村の住んでいた場所は盆地になっていて、雪が良く降る土地だった。

 雪を見て疼く子ども心に俺はあがなう事ができなかった。

 いいじゃないか、今は子どもなんだし。


「麦、お願いがあるんだけど」

「何だ?」

「雪遊びしたいから、手袋買って?」

「おまっ、目的忘れるなよっ、何しに来たと思っているんだ!」

「し、しーっしーっ、静かにっ大人でしょ」

「コイツ…」


 騒いで注目を浴びる俺達だが、周りからはどう見られているのだろう。

 親子?姉妹?親戚?それとも歳の差百合カップル?


 その答えの一つを意外にも俺の隣に座るおばあちゃんが教えてくれた。


「仲の良い姉妹だねぇ、でも、雪遊びをするなら雪隠せっちんには気を付けるんだよ」

「雪隠?ってなあに?」

「漢字で雪で隠すって書くんだけどね、雪遊びをしている子どもを、何処からともなく『遊ぼう、遊ぼう』って声でいざなうんだけどね、相手がどこにいるかわからないのさ、そうして探している内に、どこか見知らぬ所にい連れていかれるって、神隠しみたいな物さね」

「その消えた子どもって帰れたの?」

「さぁねぇ、帰って来たって話もあれば、帰って来なかったって話もある、中には十年後に同じ姿で帰って来たって話もあるくらいさね、だから遊びすぎて両親に心配かけないようにするんだよ」


 おばあちゃんは次の駅で降りてしまい、それ以上の事は判らなかった。


「麦はさっきの話、知っていたのか?」

「ん、ああ、まぁ、ね」

「結構怖い伝承があるんだな」


「というか俺は少々驚いたよ。雪の降らないトコに住んでいると知らない物なんだなってな」

「知らない事がそんなに変か?」

「くれぐれも、他の誰かに『雪隠が怖い』とか言うなよ」

「どうして?」


「雪隠ってトイレの事だからだよ」

「はっ??」

「からかわれたんだよ、小さな子が『トイレ怖い、トイレ怖い』っていうのも可愛いだろ?そういう事だ」

「ま、まじかぁ、、あんのババ…」


 おっと口が悪い。


「つまり雪国ジョークか」

「そうゆこと、お前が雪で浮かれているからそうなるんだよ」

「え?俺が悪いの?」

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