第36話 突撃、隣のお姉さん

 小一時間前───


 隣部屋、丹波って奴の部屋に行こうとしたが既に表札が無くなっていた。

 あの事件は無かった事になったのか、それとも部屋ごとのかはわからない、ただ空室になった訳ではなさそうだ、電気メーターが超絶元気に動いている以上は誰かが住んでいる。俺の部屋が無くなったくらいだから、あり得ないとは思わないが、本当にこれはどういう状態なんだろうな。そして丹波とあの二人はどうなったのか…。


 好奇心から息をのみドアをノックする。

 チャイムは届かないんだよ。


 コンコン


 ガチャ


「こんにちわ」

「…新鮎ちゃん?」


「はい…はい?」

「まぁ入って」


 出迎えて来たのは髪の長い女性。

 廊下を通って部屋に入った瞬間、俺は異様な臭いに包まれた。


 端的に言えば臭いっ。超臭いっ。

 だけど、なんだこれ、変な気分になる。


「あの、麦村の知り合いですか?」


 新鮎なんて呼称は一度しか見た事がない。対面で呼ばれる事に至っては初めてだ。


「う、うん、そんなところ…かな」


 部屋を見た渡すと、既視感を感じる。

 どこかで見た事がある部屋ってもんじゃない。


 部屋の中に並んだ三台のパソコンと、部屋の端にあるラックサーバに押し込まれたサーバ達。

 3台のパソコンは兎も角、ラックサーバがある部屋なんて一人しか知らないぞ。


「ここ、麦村の部屋ですよね?麦村はどこに?」

「え、おでかけ…かなぁ」


「じゃあ、お姉さんは誰なんですか?麦村どういう関係ですか?コミケ仲間ですか?彼女…はあり得ないか」

「なんでそこまで言い切るかな、俺だって女友達の一人や二人…は居るんだぞたぶん」


「って、お前まさか麦村本人か…」

「どうして、そう思うんだよ、普通はそうは考えないだろ…ってまさか」

「ああ、俺が一ノ瀬歩本人だからな」



 ◆ □ ◆ □ ◆



「んで、この部屋すげぇ臭いんだけど、これ、なんの匂いなんだよ」

「いやぁ、実は女になってからオナってしまって、マジ気持ち良くてやめられない」

「つまりこれ、エロ女くさいって事か、ちょっと換気しよう変な気分になる」



「あの、寒いんだけど。そろそろ閉めないか?」

「いや、この部屋の匂いほんとヤバイから、暫く我慢しような。まさか一週間ずっとヒトリでやってたのか?」

「そうだよ、やめれないんだよっ。おかしくなってしまいそうなくらいなんだ。いっそ誰かに抱かれたいと思うくらいに」

「ヤリマンになるのはいいけど、ちゃんと避妊はしろよ?その状態から妊娠したら完全に笑えない話になるからな」

「そういうのがあるから出来ないんだよっ、ゴム付けてしてくれるような律儀な人が簡単に俺に手を出してくれるか?そんな人がいるなら土下座して頼みたいくらいだ。いっそ鮎でもよかったんだが、お前がそんなんじゃな」

「幼女で悪かったな。ん…?俺でも良いって事は、潤井うるいさんでも良いって事か?」

「ああ、あの人なら真面目そうだから、いいかもしれない、それに迷惑かけている分を許してくれるかな?ついでに仕事を減らしてくれると嬉しいんだけど」


 ほほう?それなら、ウィンウィンの関係になれるんじゃないか?

 まぁ俺だけが幸せになるのも悪いからな、幸福は分け与えないとだ。

 まぁ、関係を持ったその先がどうなるか知らないけど。


「んで、その服はどうしたんだ?」


 麦村が今着ている服は、サイズピッタリの女性物。白ワンピにピンクのカーデガン。どこかで見た気がする服だが…。


「見てわからないといは、まだまだだな、これはな劇場版F■■■/■■のヒロインの着ていた服だ」

「あ、ああ、あれか、まだ見てないんだが、あの人色んな服きてなかったか?」

「まぁ、その中の一着な」


「んで、それ買ったのか?」

「いや?自分で作った。コミケ仲間の女の子にコスプレで着てもらうんだよ、結局自分で着てるケド」

「そうなのか、じゃあ下着も?」


 ペラッとめくると、男物のパンツが目に入る。なんかすごい残念な感じ。

 体は女なんだろうけど、オカマのスカートの中を覗き込んだ気分。

 うげー。


「やめろよ、なんか恥ずかしいんだよ」

「いや、女物をつけろよ」

「いやいや、俺が女物の下着を持ってるわけがないだろ」

「それならはかない方がマシだぞ、それじゃあブラは…、って服から輪郭が浮かび上がってるゾ。ああ、それ生地すこし薄めなのか。それならいっそ絆創膏でもはっとけ」


「えーと、一応確認するけど、元々男が好きだったってわけじゃないよな?」

「違うに決まってるだろ!今はちょっと、この新感覚におぼれているだけだ、一回ヤたら落ち着く…と思う」


「もう一個確認だ。この部屋、つい最近まで俺の部屋があった所だったんだが気づいてるか?」

「は?」


 慌ただしくも外に出て確認して、戻って来る。


「本当だ、コレどうなってんだ」

「そもそも、お前の借りていた部屋のバストイレはセパレートだったか?廊下はあったか?」

「あ、ああ、確かに違う、だが気づいてなかった、どういう事なんだ?」

「まぁ、詳しい事はまた話すよ、それよりも大きな問題があるんだ」


「(ごくりっ)その、問題とは?」


「隣に、今、潤井さんが来ている」

「わかった、頑張って誘惑すればいんだな」


「協力するぜ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る