第31話 消えたあゆむちゃん4

【2話分読み飛ばした人向けあらすじ】

 元彼が脅迫に屈した彩月ちゃんに体を求める。丁度その頃、隣部屋では丹波天地(ゲーム中では炭酸電源という名前)があゆむちゃんを拉致しナイフで脅迫し、いかがわしい写真を撮り、さらに服をひん剥こうとしていた。

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「やっぱり天使は服を着ちゃいけないよね」


「やだ」


「あまり動くとナイフが刺さっちゃうよ。痛いからうごかないでね」


「やだ」


「ほうら、綺麗になった」


「やだ…やだ…」





 ピンポーン


「また隣の女か?しつこいな…。賢い鮎天エンジェルちゃんは変な事したらどうなるかわかるよね?ここで無事に平穏に暮らしたかったら、押し入れから出てこないでね」


 また、押し入れに閉じ込められちゃった。

 押し入れの中は真っ暗な世界。そこに隙間から少しばかり光が差し込み声も聞こえる。


「はい、何の用ですか」

「あのー、友達の子どもがココに居ると思うんですけどー」


 彩月ちゃんとは似ているけど違う声がする。


「いいえ、うちにはきていませんよ。なんでしたら、部屋の中を見られますか?まぁ入るのが嫌ならそこから声を掛けてみては?」

「じゃあ遠慮なく~、おじゃましま~す」


「え、あ、ちょっと」


 その声のすぐ後に、押し入れが開けられ真っ暗な世界が突然明るくなった。


 押し入れを開けたのは金色に染めた髪が徐々に頂点から黒く戻ろうとしているのがプリンに見える高校生にも見えそうな女性、その目はクリッとしていてまるで宝物を見つけた子どものように輝いていた。


 そして、その人はあゆむちゃんを見つけた瞬間、満面の笑みを向けて「もう大丈夫だよ」って言っているように感じる。


 だが、その後ろにはナイフを振りかざしている男が居た。

 あゆむちゃんは咄嗟に「後ろ危ない」と叫ぶと、その女性も大声で叫んだ。



御国みくにさん、お願い!」



 バァアアンっ



 ドアが勢いよく開き、一人の警察官が銃を持って突入して来た。

 丹波の視線もそちらに釘付けになり、振りかざしたナイフが止まった。


 拳銃の前に怯んだ丹波は、そのままバランスを崩し転倒する。


「どうして僕の幸せの邪魔を─」


 そのセリフを言い終わる前にそれは起こった。

 丹波の持っていたナイフは転倒した拍子に宙を舞い、そして丹波の…。




「南無…」

「すまないが、あゆちゃんを笹原さんの部屋に連れてってくれないか、さすがに見せられない」


「わかった。あゆちゃんって言うんだね、ちょっと暫く目を閉じててくれないかな?良い子だね。寒いから私のコートを着せてあげる。ぶかぶかだけど我慢してね引きずってもいいからね。自分の部屋に行ったら着替えられるかな?そっか、偉いね」



 隣のドアには鍵がかかっていなかった。

 あゆちゃんを玄関まで届けてお別れした。


 一緒に来てくれないのかと懇願されたが、「私は会う権利がないから」と言って立ち去ってしまった。


 気まずい一瞬が始まろうとしている。

 喧嘩の原因が彩月ちゃんにあるとはいえ、今は無事に帰れた事が嬉しい。

 あゆむちゃんは、嬉し涙を流しながら部屋のドアを開いた。



「彩月ちゃん、ただい…」


「やっ」


「なんだよ、これからって時によぉ」


 下着姿を恥ずかしがる彩月ちゃんだけが目に入っていた。

 二人は何をしていたのか。あゆむちゃんにはまだ理解が出来ていない。


 パンツ一丁の男の裏拳があゆむちゃんの顔を直撃し、吹き飛ばされる。


「いやああああああああああああああ」


 男はぐったりするあゆむちゃんを気にも掛けず、そのまま彩月ちゃんを押し倒す。

 だが、彩月ちゃんは抵抗し肘打ち、パンチ、張り手とボコスカ殴る。


 ついには男も手を上げてしまう。


 パァン



 その音と同時に、彩月ちゃんは大人しくなり、小さな声で「あゆむちゃん、あゆむちゃん」と繰り返す。


 相手が大人しくなった事に良い気になり、ブラを外したその時。

 背後から別の男の声がした。


「俺の女に─」


 その声に思わず振り向いた瞬間、強烈な拳が男の顔面を捕らえる。


「手を─」


 男が腕を振り上げきった時、彩月ちゃんは嬉し涙があふれ出した。


「出すなー!」


 男の体は宙を舞い、そして顔面から床に落下する。

 あまりの顔へのダメージと突然何処からともなく現れた男に本能が警鐘けいしょうを鳴らした。

 コイツに関わってはイケナイ。

 自分の服を拾い上げて部屋からパンツ一丁で逃げ出した。



 そこに残った男性は、いまにも弾けて破けそうなコートを着ていた。

 コート以外には何も着ていないのだから、一見すれば変態にも見える。


 だが、彩月ちゃんにとっては夢にまでみた相手だった。

 彩月ちゃんは自分が服を着ていない事も気にせずに抱きつく。



「歩さんっ、お帰りなさい」


「ただいま、彩月さん」

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