第29話 消えたあゆむちゃん2

【注意】不快な表現を含みます。ゲスいのが嫌いな方は読み飛ばしてください。

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 真っ黒でねっとりとそしてどろりとした感じ。まるでコールタールそのもの。

 それが今、私が梶君から感じる印象。


 後ろから抱きしめて言ってくる言葉の全てに苛立ちを感じる。

 背後に当たる膨らんだ感触は、まるで発情期のペットくらい鬱陶しいものでしかない。

 この人がどうしてここまで神経を逆なでするのか理解できない。


「なぁ、この前も言ったけど、今からでもやり直そう」

「私達の関係はもう終わったって言ったよね?」

「でも、子どもを預かるくらい寂しかったんだろう?その寂しさを俺が埋めてやるって言ってるんだよ」

「要らない、私にはあゆむちゃんが居ればいいから」

「何いってんの?そのガキもいなくなって動揺してるのは誰だよ?俺ならそんな心配かけない」


「…というか、なに後ろから勝手に抱き着いているのよ、離れてよ」

「ま、わかったわかった。でもお茶くらい入れてくれるんだろう?」

「はいはい」


 とりあえず、居間に戻り水で薄めたお茶を入れた。

 さっさと帰れという意思表示。といってもこの人には通じないと思うけど。


 梶君の事は噂には聞いていた。

 就職もしないでスロットに通っていたとか。

 そのせいで借金が徐々に膨らんで行き、当時の彼女にたかり続けた結果、振られてしまった。

 そんな感じで泣かせた女は三人も居る。


 ちなみに、私が貸したお金は五十万円。

 せっせとバイトして貯めたお金だった。あれが無くなったおかげで就職するまで随分苦労したのを覚えている。

 そういう意味じゃ別れる理由になった浮気相手の女の子には感謝していた。


「用ってそれだけなの?」

「ああ、そうそう、用は別にあるんだ。というかお茶菓子も出ない訳?」

「出ないわよ。甘い物嫌いだったでしょ」

「いやあ、まぁそうだけど、気持ちの問題じゃん?」

「それなら要らないでしょ。さっさと本題を話す」


「はいはい、まぁ用ってのはあのガキの事なんだけどさ」

「あゆむちゃん?」


「あれ、親戚の子じゃないよね?」

「何のことよ…」


「俺、聞いちゃったんだ、お前、幼女好きロリコンなんだって?」

「あ?好きだけど?男の子もすきよ?それがどうかしたの?」


「いや、聞いたのはそういうレベルじゃない、お前の妹があの年の頃に事故にあってから─」

「五月蠅いわねっ、妹の話はよしてよ!」


「それで思ったのよ。本当に親戚じゃないのなら、誰の子なんだ?ってね。で、調べた」

「へぇ、それで?誰の子だったの?」


「それがさ、戸籍がないんだよ。驚いたね、無国籍!いやぁ、善良な一般市民の俺としては通報せざるを得ないかなぁってね。親が誰かってのは明らかにするべきだと思うんだよ。そうだろう?」


 なかった…?

 と言う事は、一ノ瀬さんの戸籍が現存しているはず。

 と言っても、それを証明する方法はないから、実質は無国籍と同じなのかな。


「あら~?沈黙は肯定と思っていいのか?いや、でも俺ってば優しいからさ、黙っててやってもいいんだぜ」


「代償は…なに?」

「代償って脅迫してるみたいで嫌だなぁ。言ってるじゃん、寄りを戻そうってさ。そうだ同棲しようよ、三人で暮らすのもいいよな?あのガキに俺らの仲の良さを見せつけてやろうぜ。ガキにのも燃えそうじゃない?」


 一緒に暮らすのだけは絶対ダメ。

 騒がれても面倒になるだけだから、お金を渡せば今だけでも出て行ってくれるかな。 


「とりあえず、まぁ今は、しようぜ」


 そう言って彼は私の肩に手を置いた。

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