第28話 消えたあゆむちゃん1

 あああああああ、どうしようどうしようどうしよう。

 そ、そうね、こんな時は潤井さんに連絡を入れましょう。

 おちつけー、私。おちつけー。


『はい、潤井うるいです』

『潤井さん!大変なのっ!あゆむちゃんが、あゆむちゃんが家出しちゃいました!』

『は?…落ち着いてください。一体何があったのですか』

『それがっ、ちゅっとしてぷにっとして死んでおこって叱られて朝黙って昼に出ていっちゃったんです』


『え…っと、すみませんよくわからなかったので、もういちど』

『ですからっ、ちゅっとしてぷにっとして死んでおこって叱られて朝黙って昼に出ていっちゃったんです、すぐに戻って来ると思ったのにすぐに戻らなくて、心当たりも無くてそれでどうしたら』


『落ち着いてください、とりあえずそちらに行きますから、あの喫茶店に行きますから落ち着いて待っててください。着いたら電話しますね』


 ツー、ツー、ツー


 どうしようどうしようどうしよう。

 潤井さんがくるまでに出来る事は…。


 そうだ、あの警察官の人っ。

 いや、でも、うーん、大丈夫かなぁ。

 逆に危ないような…。


 もしかしたら交番で保護しているかも知れないし、掛けてみるしかっ。


『はい、御国みくにです』

『あの、以前お会いして電話番号を教えてもらった笹原ですが』

『ああ、あの時の。どうかなさいましたか?』

『私と一緒に居た子どもが行方不明なんです、見ていませんか?』

『え、あゆちゃんがですか?』

『え?あ、はい』

『少し前にマンション前で座り込んでいる所を男性に声を掛けられて、手を繋いでマンション何に戻っていくのを見たのですが、てっきり父親かと』

『いえ、父親は居ないので、それってどんな人でしたか?』


 その特徴はお隣の丹波さんと一致していた。

 出て行ったと思ったらお隣に居た?

 知り合いだった?殆ど話していないはずなのに?

 兎に角、一度行ってみればわかる。


 部屋を出ようとドアを開けた時、私の部屋の前では梶君がチャイムを鳴らそうとしていた。


 一瞬頭が真っ白になった。


 どうしてこの人が私の部屋を知っているの?

 違う、呆気にとられている場合じゃない。


 ガンッ


 開けたばかりのドアを勢いよく閉めようとしたが、その一瞬で梶君がドアの隙間に足を挟み閉めるのを阻止する。


「いたたたたたた、痛いだろう」

「何の用?忙しいから帰って」

「いや、同級生に聞いて回ったら住所がわかったからさ、近くに寄ったから来てみたんだ」

「そうなの、こんにちわ、そしてさようなら、足抜いてさっさと帰ってくれない?」

「いやいやいやいや、折角だからお茶くらい出せよ。それにあまり騒いでいると近所迷惑じゃねぇ?」


 うう、今は隣に行きたいだけなのに、そうなると梶君が入ってくる。


「本当に急ぎのい用事があるんだけど」

「だったら、ついてくよ。そのあと部屋に入れてくれる?」


 仕方ない、そのうち潤井さんが来ると思うし、それまでの我慢かな。

 それより優先は、お隣の確認。



 ピンポーン


 隣の部屋のチャイムを鳴らすと、不機嫌そうに丹波さんが出てくる。


「あの、ウチのあゆむちゃんがこちらにお邪魔していませんか?」

「いいえ、うちにはきていませんよ。なんでしたら、部屋の中を見られますか?まぁ入るのが嫌ならそこから声を掛けてみては?」


 ドアを大きく開け、廊下が続く先の部屋のドアが開いてる。

 手前に二つあるドアはお風呂場とトイレなのでドアが開いていなくても声を掛ければ聞こえる筈。

 居ないなら入って探し回るという事をすると家探しみたいになって失礼かも。

 私は言われた通り、声を掛けてみた。


「あゆむちゃーん、居たら返事してー」


 物音すら立たない。

 見たと言うのは御国さんの勘違いとか、たまたま丹波さんに似ている人だったかもしれない。


「ご迷惑をおかけしました」


 私は諦めて自分の部屋に戻った。


「いやあ、用事って隣かよ。って言うか一緒にくらしてたチビいなくなったの?」


 イラッ

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