第27話 巻き込まれた潤井さん

 笹原さんと話した翌日、俺は麦村の家を訪ねる事にした。

 その為に朝の会議の後、2時間の外出手続きを行った。その時間で行って戻って来るつもりだ。


 一ノ瀬の家と近ければ同じ日にこなしていたのだが、全く逆方向なので日を分けた。本来であれば定時後に会いに行くべきなのだが、休み過ぎの件を上司から指摘されて仕方なく日中に行く事になった。


 一ノ瀬といい、麦村といい、俺にどれだけ迷惑を掛けたら気が済むのやらだ。


 まぁ、一ノ瀬は姉の件で迷惑をかけていたし、仕事でも有能だから全然構わない。


 麦村は土日を入れれば今日で六連休になるんだぞ。

 俺だって、俺だって休みたいのに、あいつは超えてはならない線を越えようとしている。


 そう、1週間まるまる休みというサラリーマンの夢の達成だけは絶対許さない。


 まぁそんな冗談はいいとして、麦村はまぁまぁ仕事はできる奴だ。

 一ノ瀬は規格外と言う感じなので比較すると可哀そうなのでやめておく。


 麦村はネットワーク関係に強く、社内のインフラは彼が一手に引き受けて整備している。そういう意味では一ノ瀬とは違う方面で有能な奴だ。噂では昔はハッカーでやんちゃな事をしていたらしいが、今では綺麗に足を洗っているし、後ろめたい事はしてないと言っているので、そこは信用するしかない。


 通常の仕事面だけを見ても、麦村レベルの人間をもう一度育て直すとなると、結構な大変だ。だから見捨てる訳にもいかない。社内インフラの事を考えれば尚更だ。とはいえ遊ばせている程、ウチの会社は裕福でもない。


 悩みがあるなら聞いてやるし、俺に出来る事があるのなら解決してやるつもりだ。

 女に困っているのなら俺の姉を紹介…はやめておくか。一ノ瀬と同じ轍を踏んではいけない。

 とはいえ、一ノ瀬クラスの異変が起こっていれば俺に出来る事は少ない。


 まぁそんな事は早々あり得ないだろう。

 ただの風邪に決まっている。コロナにかかっているという可能性も十分にある。


 事前にスマホのメッセージアプリで連絡をとって、家に行く事は連絡した。

 その返事は『わかった』の一言だけだ。


 もう一週間近く直接会話していないせいか、声すらだ。


 兎に角、今日は声を聞くだけでも良い。

 元気があるならそれでいい。元気がないなら病院まで引きずっていくだけの話だ。

 コロナにかかっている場合は、引きずる事も出来ないのだが、その場合はどうしたらいいんだろう?




 アパート・セトルアルフィー101号室──

 ここに麦村が住んでいる。

 随分とボロいアパートだが、麦村はそれがまた風情があっていいと言ってた。

 隣の声は丸聞こえでリモート会議中でも隣人の声が時々聞こえる程だった。だがそれがいいというのだが、俺には全くわからない話だ。



 ブー


 チャイムを鳴らすとなんだか古臭いブザー音が鳴った。

 中からの反応はない。

 まさか俺が来ると言うのに寝ているという訳か?いい度胸だ。


 しかし、鍵を開けてもらわないと話も出来ない。

 俺はダメ元でドアノブを捻ると、ドアが開いた。

 不用心だ。


 そう思いつつ、中を覗くと何もない部屋がそこにあった。


 隣の住人が出て来て俺に話しかけてくる。


「あのう、転居される方ですか?」


「いえ、俺は──」


 何しに来たんだ?








 ブーブッブブブッブーブッブブブッ



 タイミングを計らうようにスマホのバイブが振動した。

 笹原さんからの着信だ。

 昨日の今日で早速連絡が来るとは、今度は何を信じろというんだろうか。


 ピッ


『はい、潤井です』

『潤井さん!大変なのっ!あゆむちゃんが、あゆむちゃんが家出しちゃいました!』


『は?』

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