第26話 ほわほわわわわ

 ほわ、ほわわわわわわっ

 ほわわわわ、ほわ、ほわわわ~~~!!


 何!?何!?

 どういう風の吹き回し?


 寝ていたらほっぺにちゅうされた。

 これって歩さんが戻って来たって事じゃないよね?

 何なの?本当に何なの?

 すごく心臓の音が鳴り響くよ?あゆむちゃんに聞こえるくらい鳴ってるんだけど、大丈夫?近所迷惑になってない?


 寝たふりのままやりすごしたけど、も、もしかしたら、起きたら口ちゅーしてくれたのかな?

 今起きる勇気を私にください!!

 誰でもいいーからっ。


 って、そんな勇気があれば、今頃歩さんと一夜を共にしてたーっての。

 もたもたしてるうちに、女の子になっちゃうし。

 本当に私の勇気不足は目に余るっ。


 ううう…。



 小一時間後──



 冷めた。

 さっきまでの盛り上がってた気分はすっかり冷めてしまった。


 ほっぺちゅーをしたあゆむちゃんは、しばらくは余韻で喜んでいたように見えた。

 変な動きをしたり踊ったりと、普段からは想像がつかないような動きばかりしていた。

 問題はその後。

 我に戻ったのか個人用のパソコンに向かってゲームを始めた。


 まぁ私が寝ていると思っているから仕方ない事かもしれないけど、インナーヘッドフォンを使っているせいか、完全にゲームの世界に入り込んでしまっている。

 その事に若干の疎外感と苛立ちを感じている。


 好きな人が自分に目もくれずにゲームに没頭する後ろ姿を何もせずにただ指をくわえて待っていることはできるか?


 否。


 私は欲が出ているかまってちゃんになってしまったのか、何かしたいという衝動が止められなかった。


 今、私が一番したい事。

 それは、あゆむちゃんをうしろからひっぺたを左右にひっぱる事!


 慎重に、気づかれないように、そっとほっぺを……。


 ああ、でも痛いのは駄目。

 引っ張るなんて私にはできないっ。

 仕方がないんので、行き場のない指でほっぺたを左右から突いた。


 ぷにっ


「きゃああああああああああああ」


 ガタガタガタッ



 え、あの、そんなに驚く?

 あゆむちゃんは慌てふためき、ベッドに潜り込んでしまった。


「彩月ちゃん…?」

「はい、彩月です…。ねえ、ゲーム画面が灰色になっちゃってるけど、もしかして」


「あああああああああああああああああああああああああ」




 キャラクターが死んでしまって、経験値を失った事に大声をあげ、そして愕然、さらに茫然となる。

 あゆむちゃんが我に返るのには、そこから五分ほどの時間が必要だった。

 それほどショックだったらしい。


「もー、彩月ちゃんきらいっ」

「だから、ごめんなさいって」

「心臓が飛び出ちゃうくらい、すごいびっくりしたんだからね」


 あれ?もしかして…。


「それくらいで驚いてて大丈夫?このマンション幽霊が出───」

「きゃああああああああああ」


「え…そこまで?」

「やだ、幽霊やだ…」


 ふたたび震えながらベッドに潜り込んでしまった。


「出ない、幽霊なんて出ないよ。冗談だから」

「本当…?」


 まぁ噂があるのは本当だけど。



 このあと、めちゃくちゃ怒られた。

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