第25話 かっこいい→好き?

 居眠りしてたみたい。

 彩月さつきちゃんの膝枕、やわらかくてきもちいい。


「あ、あゆむちゃん起きた?」

「うんっ」


「ここどこ…?」

「喫茶店、あゆむちゃんが好きなお店だよ」

「ほんとだー…。あっ、潤井うるいくんもう帰ったの?」

「うん、潤井さんは帰っちゃった。あゆむちゃんによろしくだって」


 そういえば、潤井くんが彩月ちゃんに言い寄らないように警戒していたのに、どうしてねちゃったのかな。

 だいじな話だったのにっあゆむのばかばかっ。


「よければ、飲み物のお代わりでも如何いかがですか?サービスしますよ」


 そこに現れたのはこの喫茶店のマスター。

 優しいおじいさんといった感じので親しやすく、人柄も相まってこのお店は人気があった。

 だがこのコロナの影響で最近では客が少ない。

 それでも営業を続けているのは、これが最後に残った生きがいだからだと、マスターは一ノ瀬に語った事があった。

 だが、当のあゆむちゃんはその事を覚えていない。


「あ、ありがとうございます」

「ありがとー」


「コーヒー、砂糖一個にミルクたっぷりだっけ」

「うんっ」


「それと、よければこれも一緒にどうぞ」

「わーい、クッキー大好きー」

「あ、ありがとうございます」


「元気のあるお子さんですね」

「ええ、でも預かっている子なんで、実の子どもじゃないんですよ」


「そうなんですか、あまりにも仲がよろしいのでてっきり…。おっと、これは失礼でしたかね」

「いえいえ、可愛すぎてもう親子でもいいかなって思うくらいの気持ちにはなります」

「ははは、それにその歳からコーヒーを飲むというのも珍しい」

「ええ、ここのコーヒーが好きみたいですよ」

「そうよね、あゆむちゃん」


「うんっこのお店大好きっ」

「はっはっは。これは嬉しいですね、それではこのお店を畳む訳にはいきませんね」

「応援しています」

「ありがとうございます、ではごゆっくり」



 マスターを目で追う彩月ちゃんをあゆむちゃんは見逃さなかった。

 確認の為、ヒソヒソ声で問いかける。


「(ねぇねぇ、彩月ちゃん、どうしたの?)」

「(あ、なんでもないよ。ちょっとマスターがカッコイイなって思ってね)」

「(マスターのこと好き?)」

「(うん、結構好きよ?それがどうしたの?)」

「(なんでも…ない)」


 彩月ちゃん、あんな感じの人が好きなんだっ。

 やっぱり私じゃだめなのかな。

 女の子同士ってやっぱり変なのかな。


 私じゃダメなんだ───



 ◆ □ ◆ □ ◆



 おうちに帰ってすぐ、彩月ちゃんは寝ちゃった。

 すごくしんどそうにで、すごく悩んでそう。

 なにか元気づける方法はないかな。


 困った時は麦村君に相談してみよう。


『好きな人が元気がないの、どうしたら元気づけられるかな』

『お前たちの関係なら、そんなの一発やってれば元気になるよ』

『まだした事ないけど』

『だったら尚更じゃないか。早めにやった方がいいよお互いの為に』

『わかった、一発ちゅーしてみる』

『がんばれ』


 彩月ちゃんにそっと近づいてみても、やっぱり起きてこない。

 しんちょうに、おこさないように、そっとほっぺに。


 ちゅっ



 きゃあぁぁ。一発ちゅー決めちゃった。

 キスだけど、これで元気になるのかな。

 慣れたらもっと元気になるのかも。


 効果があったらしてあげよっと。

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