第24話 ぶっちゃけてみよう

「それを、俺に信じろと?」

「はい、あゆむちゃんに、本人と確認できる質問をしてみてください」

「まぁ、そこまで言うなら、それじゃあ───」


 昨日、立ち寄った喫茶店で私達は待ち合わせた。

 もちろん、何もかもぶっちゃけて洗いざらい言ってもあゆむちゃんが歩さんだと言う事を信じてはくれなかった。

 でも馬鹿にしているのかと怒ってもおかしくない所を、落ち着いて聞いてくれた。それで、あゆむちゃんに質問をして確信を得てもらおうと言う所まできた。


「って、えらい眠そうだが大丈夫か?」

「え、あ、あゆむちゃんお願い起きて、もうちょっと頑張ってっ」

「うん…。頑張る…」


 潤井うるいさんは完全に疑った状態で虚ろ虚ろとしているあゆむちゃんに質問をする。


「一ノ瀬の初体験の相手は誰だ?」


 え?仕事の話聞かないの??


「潤井さん…」


 は???え、もしかしてこの人?ホモ??一ノ瀬さんの初めてってそういう??

 えええ、そういう人、初めて会ったかも、って一緒の職場だからオフィースラブ?

 しかもホモ。


 随分ハードな経験すぎない?

 え、歩さん、女の人、好きよね?

 あれ?私、聞いてよかったの?プライベートの事嫌がるんじゃなかったっけ?

 えーとえーと、でもどっちも好きでも私は…っ


 あ、男の人を好きだから、女の子になっちゃったとか…。

 ええええ、そんな、やだ。それは嫌っ。


「下の名前は?」

「ひとみさん…(むにゃむにゃ…)」


 え?あ、別の人?

 あー、よかった一ノ瀬さんがホモじゃなくて。

 って、この人どうしてそんな事まで知ってるのよ。


「どうかしましたか?笹原さん、顔が赤いですよ」


 ちょっと意地悪に微笑む潤井さん。

 うう、疑ってごめんなさい。


「なん……、のことです?」

「すみません、一ノ瀬の最初の相手って俺の姉なんです。男好きでね…いい年こいて結婚しないから試しに紹介したら、まあ一晩共にしてそれっきりですわ。一ノ瀬には犬にかまれたと思って忘れた方がいいと言ったんですけどね、まだ覚えているって事は他に女の経験ないんでしょうね」


「それで信じてもらえるんですか?」

「ええ、信じますよ。とりあえず仕事は出来ていますからね、それに一ノ瀬は会社にとって欠かせない存在です。朝夕会は何か理由を付けて俺と個別にやりましょう。他のメンバーが絡む時だけ笹原さんが協力してもらえませんか?まぁ、周りが騒ぎだしたら正直に明かすしかないですね。その時までに説得する方法を考えておきます」


 それから郵送物がある場合は私の部屋に送るよにお願いした。

 一ノ瀬さんの部屋に別の人になっている事も説明しすると、深く考えはじめた。


「素人考えですが、一つの可能性として聞いて頂きたいのですが─」


 潤井さんが言うにはパラレルワールドの話の中に経過はどうであれ結論が同じになると言う説があるという話だ。別の言い方をすれば物語の辻褄をあわせるように舞台に補正が生じるという事。

 今回の事に合わせてると結論として『歩さんが私の親戚である』という結論がある場合、経緯や舞台がそれに合わせた補正された。

 その補正は急激に起こりそうな物だけど、記憶を保持している私のせいで補正が不完全に進んでいるんじゃないかって話。その補正の事を過去改変、今の状況を不完全過去改変と潤井さんは言っていた。

 過去改変が完了すれば一ノ瀬歩と言う存在はなくなり、みんなが一ノ瀬歩の事を笹原歩と認識するのではないか。

 だから、いつかはその変化を受け入れる覚悟をした方がいいかもしれない。


 でも私が一ノ瀬歩を忘れない限り、一ノ瀬歩という存在の命綱は切れていないと思っていいかもしれない。


 荒唐無稽な話でも、歩さんが女の子になった事や、その隣人の話、私の母親の認識の変化とかあり得ない事が起こっているのだからどんな可能性も否定はできないと思った。


 そういう忠告じみた話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る