あゆむちゃんは今日もはたらく

第23話 潤井さんの勘は鋭い

　その日の夕方。夕会が終わる時にリーダーから呼び止められた。

『一ノ瀬は話があるから少し残ってくれ』

　まさか話しているのが本人じゃない事がバレた？

「（ねえ…、もうバレたとかないよね）」

「（わかんない）」

　大人しく、待っていると会議は二人っきりになった。

　息を飲む。何を言われるだろう？

『一ノ瀬…、お前なにかあったか？』

『なんでしょう？何もありませんが』

『会議中に別の声がする気がするんだ』

『マイクを変えたせいかもしれないですね、調子が悪いのかもしれない』

『そうか、あと、質問に対して間があるのが変なんだが、いつもはこう即答していたような』

『気のせい…では？』

『まぁそれはいい、実は後水（うしろみず）からお前に彼女が出来たと聞いてな』

『後水（うしろみず）？はぁ、まあそれは事実です』

『確認するが、彼女はそこにいるか？』

『居るけど？』

『ちょっと代わってくれないか？』

　こっそり咳払いをして、普段の声に切り替える。

　このタイミングであゆむちゃんはトイレに行ってしまった。

　仕事の話じゃないから大丈夫かと思って笹原として話を続ける。

『はい、変わりました笹原です』

『初めまして、潤井蓮司（うるいれんじ）と申します』

『あ、初めまして。それでどのような御用でしょうか』

『一ノ瀬もそこにいますよね？』

『いえ、先ほどトイレに』

『そうですか。実は一ノ瀬はプライベートの話をひた隠しにする癖がるんですよ。ご存じですか？』

『いえ、知りませんでした』

『ですが、笹原さんの事を肯定し、交代までした。それがありないんですよ』

『何が言いたいのですか？』

『あなた何か隠していますよね？まぁ、まだ漠然とした勘ですが』

　そうだ、これはチャンスかもしれない。

　事情を説明して、それで秘密を共有できれば…。

　信じてもらえるか。それだけが問題。でもあゆむちゃんの記憶や知識がその証明になれば…。

『わかりました。今からでも直接会えますか？』

『ええ、では待ち合わせ場所は─』

　あゆむちゃんを連れて待ち合わせ場所に向かう途中、警察官が目についた。

　別に後ろめたい事は無いはずなのに、少し動揺する。

　今の時点であゆむちゃんの戸籍がどうなっているわかからない以上、警察に目を付けられるのは避けたい。

　そんな私の気も知らないで、警察官は私に近づき、声を掛けて来た。

「こんにちわ、今このあたりのパトロールを強化している最中なのです」

「ご苦労様です」

「実は女児用パンツで眼鏡を拭く男性が現れたという変な事案が起こっていまして、どうかお気を付けください」

「眼鏡を拭いているだけなんですか？」

「それだけみたいなんです」

「聞くだけでサブいぼが立ちそうです、そんな人早く捕まればいいのに」

「それが少し難しいんですよ。直接何かしている訳ではないせいで、法的には該当する刑罰がないんですよね。ですが問題が起こる前にどうにかしたいと思っています」

「頑張ってくださいね」

「あ、もし不審者を見つけたら私に連絡をお願いできますか、私は─」

　警察官の名前は御国仁助（みくにじんすけ）。ご丁寧に携帯の電話番号まで教えてくれた。

　普通、警察がそんな事する？

　さらにその警察官はあゆむちゃんをすごく気にしている様だった。

　実はこの人も変質者だったりしないよね？

　私の直感が囁いた、この人ヤバイ。