第22話 月曜日さん「来ちゃった」

 ウェルカム月曜日さん!


 普段は来てほしくない月曜がこんなに待ち遠しかった日はなかった。


 朝から、仕事用のパソコンを立ち上げるあゆむちゃん。

 どう対処するつもりなのかと思っていると、案の定お願いしてきた。


「彩月ちゃん、会議お願いしていい?」

「いいけど、どうして?」


 これは意地悪で言ってるんじゃないの。

 男性声で会議に出ないといけない理由を知りたいだけ。

 『以前が男だったから』だったら嬉しいんだけど。


「男性声の方が強そうだから?あれ?なんでだっけ…あれ…」

「あー、そうそう私がいつも担当してたよね。思い出したよー」

「う…うん」


 一瞬、怖かった。

 記憶が変な事を自覚した時、どうなるのか気になっていたけど、やっぱり避けた方が良さそう。聞いてみたいとは思っていたけど、以前は男だったとか、年齢を聞いたり、両親の名前とか。


 私はボイスチェンジャーを使って会議に参加した。

 セリフは随時、あゆむちゃんがメモに書く。


 書いてる最中は私が「あー」「そのー」と言った感じに間を取れば大丈夫のはず。


『おはようございます』

『『『おはようございます』』』


 会議は4人だ。

 本当なら麦村さんが参加している所、今日も体調が悪いと連絡があったとリーダーが発言した。

 リーダーの名前は潤井蓮司うるいれんじといい責任感は人一倍ある人らしい。


『では、いつもの順番に、今日の予定をお願いします』


「(ねえ、いつもの順番って?)」

「(私は最後だよ、わすれちゃった?)」

「(ごめんごめん)」


 しばらくして私の番が回って来た。


『では、最後』

『あ、音声聞き取りづらかった。次誰だっけ』

『お前だよ、一ノ瀬』

『悪い悪い、じゃあ今日の予定は─』


 予定については事前にメモを渡されたので、それを読むだけでいい。

 さらっと朗読して予定申告終わり。


『それでは、本日も宜しくお願いします』

『『『お願いします』』』


 朝会が終了した。

 意外と何も疑われる事なく、すんなり終わった事に拍子抜けした感じがした。


「おつかれさまーありがとー」

「あはは、これくらいいくらでも手伝うよ~」


「あのね、どうして一ノ瀬って呼ばれたのかな」

「あゆむちゃん、お仕事では一ノ瀬って名前でお仕事してたよ」

「そっかぁ、うん、そうだよね…。あ、あとは私が仕事するね」


 あゆむちゃんが少し混乱している。メンタル崩壊しないよね?大丈夫よね?

 それにしても収穫はあった。

 会社で一ノ瀬歩って存在が確認できた。


 じゃあお隣の人ってどういう存在?会社として歩さんの現住所どういう認識?

 会社はどう認識しているのかな?一ノ瀬歩さん宛の郵送物は何処に届くの?私物はどうなったの?


 気になる事が多すぎる。


 昨日の指輪や喫茶店で思い出した事とかから、歩さんが戻る可能性もゼロじゃないと信じている。

 しっかりしなさい彩月っ、ゆっくりでも前に進む事が大事よねっ。


 その日、お仕事をするあゆむちゃんを観察していた。


 タイピング速度が早い。

 頭の回転が速いから、タイピングに迷いがないからかもしれない。

 私が文章を読む速度よりも早いせいで、読み切る前に次のドキュメントの作成を始める。


 こんな人がリーダーについていない事に疑問が出て来た。

 麦村さんに聞いてみよう。


 私のスマホのメッセージアプリから麦村さんに連絡を取った。


『麦村さん、こんにちわ、一ノ瀬さんのお隣の笹原と申します』

『おや、鮎から聞いたのか?はじめまして。もしかして噂の彼女さん?』

『はい、付き合う事いなりました。噂が何かは知らないですが』


 あゆむちゃんには麦村さんと直接話す事の許可は貰っていた。

 当の麦村さんがどう反応か不安だったけど、杞憂だったみたい。

 まだ顔も見てないし声も聞いていない。一体どんな人なのかな。


『そうか…。鮎にもついに彼女が(涙)ありがとうな鮎をたのんだ』

『はい、それはもちろん』

『それで、何か用があったのでは?』

『歩さんってかなり仕事ができる方みたいなのですが、どうしてリーダーをやらないのですか?』

『言っていいのか迷う所だが、実はゲームの時間を確保したいからリーダーをしたくないらしい』

『そうなんですね(汗)』

『鮎は絶対に残業をしない。それでも普通の社員よりも3~4倍の仕事をする。だから多少の小言を言われる事はあっても会社から文句を言われる事はないよ。安心していい。鮎は有望株だから』


 あゆむちゃんが有能なのは歩さんの頃からだったんですね。

 それにしてもゲームの為に…って子どもみたいな所、ちょっと可愛いかも。

 私もあのゲームちょっとやってみようかな?


『話は変わりますが、麦村さんは大丈夫なんですか?今日もお休みですよね?お見舞いに行きましょうか?何でしたら歩さんには内緒でもいいです』

『男の部屋に一人で来るもんじゃないよ、危なっかしい』

『でも、麦村さんは歩さんを裏切るような事はしないでしょう?』

『そうだけど、今日はもう寝るから来るなら明日以降にしてくれないか?』

『わかりました。そうします、それでは』


 出来たら会って話したかったけど、今日は無理みたい。

 早く会って話したいなぁ。

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