第20話 会いたくない人

 送られた指輪が薬指で光っている。

 幸運の総量があるって聞いた事があるけど、本当にあるのかもしれない。

 いい事があれば悪い事もある。そう、私が幸せな気分に浸っていた時、あの人はそれを打ち消すように現れた。


「あれ?笹原さん?笹原さんだ、お久しぶり~」

「え、あ、梶君?背が伸びた?」


 相手の名前は梶圭吾かじけいご、大学に居た頃の友達。

 最後に会ったのは5年間も前。

 そう、私が一番会いたくない相手。


「伸びてないよ。それより、その子、笹原さんの子ども…じゃないよな?」

「ちがうわよ。親戚の子どもよ。今、一緒に暮らしてるの」


「お兄ちゃん、こんにちわ」

「こんにちわ、挨拶できて偉いねぇ。圭お兄ちゃんって呼んでね」

「うん、圭お兄ちゃんって彩月ちゃんとどういう関係なの?」

「おお?いきなり核心ついてくる?それはね、お兄ちゃんたちはね、学生時代に付き合ってたんだよ」

「そうなんだ~」

「ちょっとっ、そんな事言わないでよ」


 将を射んとする者はまず馬を射よって言うけど、梶君はそういうつもりなのかあゆむちゃんと話をつづける。さっさと去ればいいのに。


「お名前なんていうの?」

「あゆむです」

「男の子みたいな名前だね、でも全然可愛いな」

「お兄ちゃんもかっこいいですね」

「お世辞が言えるのか、それとも本心かな?本心なら将来結婚してあげてもいいんだけど?」

「お世辞だよ?」

「ぷっ…振られて…ぷぷぷ、あははは」


 私の笑いのツボが収まった頃、あゆむちゃんはトイレに行くと言って少し席を外した。そのタイミングを待っていたかのように、梶君は私の手を両手で握り見つめてきた。


「なぁ、俺達、やり直そう」

「私達の関係はもう終わったでしょ。体を許さないからって浮気したくせに何言ってるの」

「あの時の女とはすぐに別れた、やっぱり俺にはお前が必要なんだ、だから、な?」

「やめてよ、それにあの時貸したお金、まだ返してもらってないんですけど?」


「ただいまー。トイレの場所わかんなかったー」

「あ、じゃあ連れてってあげる。じゃあね梶君、さようなら」


「あ、ああ、

「ばいばーい」


「(ちっ、ガキが邪魔しやがって…)」



 ◆ □ ◆ □ ◆



 私は彩月さつきちゃんが好き。

 この好きってたぶん恋人になりたいって好き。


 でも女の子同士って変だよね。

 告白したら変な子って思われそうで言えない。


 私の感情が『好きな人には指輪を贈るもの』って言ってた。

 感情が意見するって変なの。

 でも、それはきっとすごく大事な事。


 貯金はある。

 じゃあ買うのは簡単。

 お店にいってカードで─。


 え?カードが使えない?

 じゃあ現金で買う?

 な~んだ、やっぱり簡単っ。


 指輪あげたら彩月ちゃん、泣いちゃった。

 でも嬉しいのに泣いちゃうって変だよね。


 たべもの屋さん選んでたら彩月ちゃんのお友達と会った。

 お話し中にちょっと私が離れたら、あの人、彩月ちゃんに迫ってた。

 胸がもやもやして気持ち悪い。

 すごく、あの人から嫌なかんじがする。


 すぐにもどって、二人を引き離しちゃった。


 最後に「んべーっ」ってやってたったの。

 そしたら、すっごい睨んできた。怒ったかな。

 それくらいで怒るって単純っ。ざまぁだよ。きっもちいいー。


 彩月ちゃんも嫌な気分になったみたいだし、私が守らなきゃ。


 絶対、いつか本当の家族になるの。

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