第6話 エスカレートする要求
マウスがでかすぎて思う様に操作ができない。
キーボードの入力も手が小さくなったせいで、入力ミスが多くてチャットすら遅い。
結果、パーティは全滅。仲間からはブーイングの嵐で平謝りする結果となった。
そんな状況でギルドの長、ギルドマスターのぴちょん様から秘密の個別チャットが来た。
【ぴちょん様】少し話がしたい。ボイチャに繋げるがいいか?真面目な話だ。
【ぴちぴち鮎】わかった。
ボイチャはプレイヤー同士で音声通話できるシステムだ。
まじめな話は文字だけでは伝わりにくいからこういう時は声で話すのが一番だ。
『もしもし、聞こえるか』
『うん」
『ん…声変わったか?まぁいいか』
そう言われてハッとした。なんか自然に会話を始めてしまったが、相手は元の俺の声を知っているんだった。後輩との電話といい、俺はこんなドジばっかりだ。あぁっ、今すぐ切りたいっ。どうやって言い訳をしようか。
『今日のあのプレイはなんだ、中途半端な気持ちでやるならギルドを抜けてもらうからな。デスペナが辛いのはお前も同じだろ。俺はお前を次期ギルドマスターにしたいと思っているんだぞ』
デスペナというのはゲームのキャラクターが死んだときのペナルティ、今まで頑張って貯めた経験値が一定量減ってしまうので、普通は死なないようにプレイする。ギルドマスターが何事にも真面目に取り組むのは知っているが、その性格が今、俺に突き刺さっていた。
『あのね、実はお兄ちゃんが休止するから、私がアカウントを借りてるの』
『え?お、女の子??』
どうだ?完璧な言い訳だろ。しかも口調まで女子風にしてみた。
『ボイスチェンジャーじゃないんだよな?できたら自撮り写真を送ってくれないか?』
まぁ、それくらいは良いかと思って、モニターのゲーム画面を背景にスマホで写真をとって送った。ちょっとぶかぶかだがちゃんとパーカー着ているし、上半身だけなら年齢も特定できないだろう。
ちなみにネットゲーム友達とはディスゴッドというアプリで交流をする。匿名で写真の共有や通話もできて便利だからだ。
『なんだ、随分と可愛いな。別アングルもう一枚、もう一枚だけ貰えないかな、でも、随分子どもっぽいが何歳なんだ?』
歳はあえて答えなかった。まぁこれまでお世話になっていたのだから別アングルも送ってあげた。
『事情は分かった。だが、中の人が違う事を言わないのは良くないぞ、プレイヤースキルが足りていないなら尚更だ。この事をギルメンに説明していいか?デスペナで怒ってるやつらがいるんだ』
『あの、悪いのは私だから、直接謝らせてほしい。皆をボイチャに呼べないかな』
責任感からの言葉だったが、これが悪手だった。俺の素性に興味を持った人達がそこから質問攻めを始めて、仕舞にはもっと写真が欲しいと言われたので、それに応えた。
『マウスを握ってる写真が欲しい』『指ちいさっ』
『全身の写真がほしい』『素足素足!』
『うなじ見せて』『えっっっ』
『膝裏の写真希望っ』『ええっすねええっすね』
『パーカーの下が気になる』『太もも細っ』
喜ばれる事にいい気分になって撮影がどんどんエスカレートしていくのを止められなかった。
こんな幼体を見て何が嬉しいのやらだ。可愛いのは認めるがな。(ドヤァ)
だが、パーカーの下はヤバイかった。普通は短パンでも履いているから、そこを期待されたんだと思うが、下着を履いてないから太ももまでのアングルで我慢してもらった。
これ位でのことで皆がデスペナの事も忘れてくれたのは良かった。
だが、言葉でちやほやされて調子に乗っていたのは否めない。
『おへそみたい』
奇妙なフェチだなとおもいつつ、まぁ最後にヘソくらいはいいかと思って、パーカーを
ガチャ
「ただいまぁ」
バサバサバサッ
笹原さんが帰って来て持っていた荷物を全て落としてしまった。
傍から見れば俺は下半身を露出させて写真を撮っている変態と言われても言い訳のしようが無い。
その事に気が付いたのも、まさにこの瞬間だった。
「ななな、なにをやってるんですかー!」
『親フラきたー!』
※親フラ=親フラグ、通話中に親の声が入り込んだり映像配信中に親の姿が映った時の事をそう呼ぶ。所謂ネットスラングだ。
「あ、ちょっと、いまボイチャ中」
「何を言っているんですかっ、兎に角ちょっとそこに正座してください」
説教が始まりそうだったので、こっそりとボイチャを切った。
流石にこれ以上ギルドのメンバーに聞かれるのは恥ずかしい。
それ以上に本名を呼ばれるのが一番マズイ。
「とりあえず、撮影した写真を全部見してください」
大人しくロックを解除してスマを差し出した。
なんか、めっちゃ怒ってる。笹原さんて怒るんだな…。
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