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その後、瑞希は航平と一緒に母親を病室まで送り届けた。今日は何年かぶりに母親としゃべり、たくさんのことを話した。瑞希にとって、とても幸せな時間だった。
「航平、ありがとう」
「うん。お母さん、元気でよかったな?」
「うん・・・」
瑞希は幸せそうに笑みを浮かべた。
「でも、いいのかな? 私だけこんな幸せな気持ちになって・・・」
やはり瑞希は素直に喜べない。
「暗い顔してるね? 瑞希ちゃん」
するとそこへ、加絵さんがひょこっと姿を現した。
「加絵さん! あっ、さっきはありがとうございました」
「いえいえ。それよりそんな暗い顔してていいの?」
「えっ?」
「瑞希ちゃん、今は入院していることで、すごくハンデを背負っているんだよ?」
「ハンデを背負う?」
「そう。航平争奪戦のハンデをね」
加絵はそう言うと航平に抱き付いた。
「ちょっと、加絵!」
航平は驚き、加絵を自分から離そうとする。それを見た瑞希は思わず体を乗り出した。
「今はね、航平は家に一人。私は今日も手作り料理を作りに家に行きます。そして夜は・・・」
「だめ! 絶対にだめ!」
瑞希は加絵の挑発に声を上げた。そして思わず声を上げてしまった自分に赤面する。
「瑞希ちゃん、それでいいんだよ。素直にそう言えばいい。素直に生きていいんだよ」
加絵の言葉に、瑞希の心につかえていたものが、すーっと取り除かれて行くような気がした。
「加絵さん・・・」
「瑞希ちゃん。私はアンフェアなことは好きじゃない、だから退院するまで待ってあげる。勝負はそこからだぞ」
「加絵さん・・・ はい」
「よし。じゃあ私はこれで失礼します。そして今日も加絵さんは、傷付いた女子高生に塩を送るのでした。じゃあね」
加絵はそう言って手を振り病室を出て行った。
「航平、本当にありがとうね。私、本当に幸せ者だ。航平に加絵さん、直美さん、そして由咲。私の人生最低だと思ってたけど、全然そんなことない。すごく幸せだよ」
瑞希の人生、とても幸せとはいえない。しかし悪いことばかりじゃない。そうまわりの人たちが瑞希に教えてくれたのだ。
「航平、私頑張るよ。お母さんのためにも、そして支えてくれる人たちに応えるためにも、私、頑張って生きる」
「おう」
「これからもよろしくね」
「ああ」
瑞希は加絵のおかげで、辛いことも、嬉しいことも、ちゃんと今を受け止め生きていこうと決めた。
「それと瑞希、県警で友達になったって子の話やけど、一人、見つかりそうなんや」
「えっ? 本当? 誰?」
「金子琴美、知ってるか?」
「うん」
金子琴美、それは瑞希があの麻薬密売捜査で共に行動していた女の子だった。
「まだはっきりしたことはわからんけど、俺の知ってる情報屋がとあるところで姿を見たと言ってる」
「とあるところ? 情報屋?」
「探すか?」
「うん、もちろん!」
「よし、一緒に探そう。それで連れ帰ってこよう」
「うん!」
一筋の希望が差した。琴美が生きている。瑞希の表情に生気が戻ってくる。
「じゃあその前に、ちゃんと体を治せ。万全の状態で臨むぞ」
「うん、わかった」
瑞希と航平は、また新たな任務へと向かうのだった。
END
悲壮の天使たち SHIRO @powsnow
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