航平が瑞希を探しに向かっている頃、瑞希は必至に男たちから逃げていた。


「なによ、あいつら。ずっと追って来るやん」


 男たちはどんどんと迫って来る。傍から見れば、制服を着た女子高生を大の男が四人掛かりで追い掛けている、何とも危険な状況だ。しかしここは人気のない路地裏、瑞希たちを目撃する者はほとんどいない。

 瑞希はその辺のゴミ箱やビール瓶のケースなどを倒し、必死で逃げる。

そして少し男たちとの差が広がった時、瑞希はビルの中へと潜り込み、身を隠した。


「ハァハァ・・・ しつこいな、あいつら・・・ ハァハァ・・・」


 男たちは瑞希のことを見失った様子で、その辺をウロウロと探している。

 それを見た瑞希はホッと気を抜き、その場にしゃがみ込んだ。


「冗談じゃない。ハァハァ・・・ 何よ、まったく・・・」


 改めて、自分が何故、男たちに追われているのかを考える。追われる理由とすれば、警察側の人間とばれたと考えるしかない。じゃあ何故、自分が警察側の人間とばれたかだ。陰で麻薬密売人を追っていることがばれたということだろうか。では梅香菜ではすでに気付かれていたか、それとも航平と出会った時、あのチンピラ風の男を尾行した時かだ。思い当たるのはこの二つだが、顔はまともに見えていないはず、それなのにあれだけの接触で、人の顔を憶えられるものだろうか? それは到底無理な気がする。

 その時、瑞希はハッと気付いた。


「そうか・・・ そうやったんか・・・」


 何故、突然お遣いのような任務を与えられたのか、しかもこんな人気のないところに。それは梅沢が密売人に瑞希の存在がばれたと認識したからだ。


「そうか・・・ 私、梅沢に切り捨てられたんや・・・」


 瑞希は梅沢に切り捨てられたのだ。そう考えれば、この意味のないお遣いのような任務も納得がいく。どこからどこまでが梅沢の仕組んだことかはわからない。けど、梅沢の企みが含まれていることには間違いない。

 最近、幸せなことが多すぎて忘れかけていた。自分は警察の駒、いつだって梅沢の捨て駒なのだということを。だとしたら今回の瑞希の任務は、殺されることだ。

 誰からの電話も取ってはいけない、誰に電話を掛けてはいけない。それは航平と連絡を取るなということ。もし連絡を取れば任務は失敗、それは瑞希の破滅を意味する。そして瑞希が死ぬだけじゃなく、母親も見殺しにするっていうことだ。


「なんや、そうやったんかぁ・・・」


 瑞希はなんだか急に力が抜けた。


「きっと私は何かで失敗したんだ。だからもう、用済みなんだ・・・」


 瑞希の存在が麻薬密売人にばれたということは、もう秘密裏には動けない。駒としては失格、使い道のない用済みな駒となったのだ。

 瑞希は、この現実を受け入れなければならない。

 雲一つない夜空には綺麗な三日月が輝いている。その綺麗な輝きを前に、瑞希の瞳から涙がこぼれ落ちる。


「お母さん・・・ ごめん・・・」


 母親を救えない。その罪悪感が胸を締め付ける。


 そんな状況でも、瑞希は母親に甘えたい、その胸に抱きしめてほしい、そう思った。

瑞希が涙ぐみ、空を眺めていると、その綺麗な夜空が大きな黒い影で覆い尽くされた。


「見~つけた」


そして野太い声が瑞希に向かって放たれる。そう、瑞希の目の前には、追って来た男の一人、黄色いサングラスの男が瑞希の顔を覗き込んでいたのだ。


「えっ!?」


瑞希は驚愕し、目を大きく見開く。


 男は両手を広げ、「じっとしとけよ」と言って、瑞希に向かって抱きつこうとしている。

 自分はもう、殺される。そう思ったら、瑞希の脳裏に母親の顔が浮かび上がった。


「やっぱり、ここでは死ねない・・・またお母さんと一緒に暮らすんだ、私は・・・」


 瑞希がそう呟く。するとサングラスの男は言葉の意味が理解できず、「はぁ?」と、眉間に皺を寄せた。


「だから、ここでは死ねないって言ってるんじゃ!」


 瑞希はそう叫ぶと、しゃがんだまま、抱き付いて来ようとする男の顔面に蹴りを入れ、そのまま押し返した。


「痛っ!」


 顔面をおさえるサングラスの男。そこへ瑞希はすかさず攻撃を仕掛ける。


「黄色いレンズのサングラス、気持ち悪いくらい似合ってないで!」


 瑞希はそう言いながら男の顔面に膝蹴りを食らわせた。それはゴンッと大きな衝撃音が鳴るほどすごく、サングラスのレンズが割れるほど。男は一発でノビてしまった。


「まずは一人」と、瑞希は一つ息を吐く。

 瑞希は警察本部に拘束されてから武術の稽古も散々やらされてきた。よって、その辺の男よりは断然強いのだ。


「何やっとんじゃい、貴様!」


 すると今度は、長髪の気持ち悪い痩せ型の男が、瑞希に向かって駆け寄って来た。やられた仲間を見て逆上している様子。

 長髪の男は右手で瑞希に殴り掛かって来る、それを左腕で払い除けると、瑞希は右肘で男の顔面を強打した。女の弱い拳で殴るより、硬い肘で殴る方が効果的であるからだ。

 男はその衝撃で顔を押さえ前屈みになる、そこで今度は男の背後にまわり込み股間を蹴り上げた。男は聞いたことのないような悲鳴を上げ、その場に蹲り、動けなくなった。


「あと二人・・・」


 瑞希は一瞬で、大人の男を二人も片づけてしまった。後はチンピラの男と小太りの男。あいつらはきっと拳銃を持っている。できるなら戦わずに逃げ出したい。


「おうおう、大の男が二人、あんな小娘にやられるなんてなぁ」


 するといつの間にか瑞希の背後に、チンピラ風の男が立っていた。


「ほんま情けないなぁ・・・」


そして前には小太りの男。


「くそっ、もう来たか・・・」


瑞希はいつの間にか、二人に囲まれていた。


「ねぇちゃん。大人しく捕まっておけや」チンピラ風の男がそう言うと、「そうそう、悪いようにはせんから」と、小太りの男がそう続いた。そして二人はじりじりと近付いて来る。

 瑞希は考える。どうしたらこの状況から逃れられるかを。太っている男は、女の瑞希の攻撃が通じるとは思えない。だとしたらチンピラ風の男。そいつならまだ攻撃が通じるかもしれない、通じなくても、逃げ出す隙ぐらいは作れるだろう。瑞希の作戦は決まる。


「誰がおまえらみたいな奴に捕まるか!」


 瑞希は言葉を放つと同時に、背後にいるチンピラの男に攻撃を仕掛けた。相手の左側にまわり込むと、右足で鋭い蹴りを打ち込む。しかし、チンピラの男はその蹴りを簡単に受け止めてしまった。


「いいねぇ~ ミニスカートで豪快な蹴り。パンチラサービス。おい、ちゃんと見たか?」とチンピラの男が小太りの男に問い掛けると、「バッチリ。純白」と言って、小太りの男は息を荒くして興奮している。

 瑞希はその気持ち悪さに、ブルブルっと体が震え寒気がした。


 するとチンピラの男は瑞希の腕をぐっと掴んで、そのまま壁に追い込んだ。そして両手首を瑞希の頭上でがっちりと掴む。


「あいつ、少女趣味がある変態やで。女子高生なんかはドストライクや、よかったなぁ」と、チンピラの男がニヤリとしながら瑞希の耳元で囁く。それを聞いて恐怖を感じたのか、より一層、抵抗を見せる瑞希。しかしその腕はまったく解けない。瑞希の力では、チンピラの男の力には敵わない。


「俺なら倒せるとでも思ったか?」と、瑞希の顔をじっと見るチンピラ男。顔と顔の距離はほんの数センチ、吐息が十分かかる距離だ。


「おいっ、俺より先に手を出すなよ!」と、小太りの男が駆け寄ってくる。


「おう、すまんすまん」


 チンピラの男はそう言って壁から瑞希の体を離すと、その背後に小太りの男がまわり込み、瑞希を後ろから抱きしめた。


「ああ~いい匂い」


 小太りの男は瑞希の髪の毛に自分の鼻をこすりつけ、匂いを嗅ぐ。


 ゾゾゾッ。小太り男の気持ち悪い行動に、全身に震えが走る瑞希。「キモいっ! やめろ!」と抵抗する。すると小太りの男は、後ろから瑞希の胸を両手で鷲掴みした。「きゃっ!」その行動に、瑞希は思わず声を上げる。


「おおっ。こいつ、かなり胸が大きい。めっちゃ気持ちいい」と、小太りの男は鼻息を荒く興奮し、瑞希の胸を荒々しく揉む。


「やめろ! 変態! キモいんじゃ!」


瑞希は小太りの男の手を剥がそうとするが、まったく放れない。


「大丈夫、そのうち気持ち良くなるから」と、小太りの男はデレッとする。


「そんなんなるわけないやろ、キモいんじゃ!」


「ちょっと頂いちゃうか?」と、チンピラの男が小太りの男を唆す。


「そ、そうやな。中須さんも見てないことやしな」


 小太りの男は興奮が絶頂。抵抗する瑞希に、更に興奮が増したようだ。


「イヤッ、嫌! ちょっと待って!」


瑞希は声を上げる。しかしそれももう、男たちを興奮させる御馳走でしかない。


「ああ、ちょっと静かにしろ!」


 ドフッ。チンピラの男が瑞希のお腹に一発、拳を入れた。「がはっ・・・」と、瑞希は痛みに顔を歪ませる。


「ああ、もう俺、我慢できひん!」


 小太りの男は、抵抗できなくなった瑞希を地面に押し倒し、覆いかぶさった。


 ――嫌だ。こんな奴らに・・・嫌! 痛みで声が出ない瑞希は心の中でそう叫ぶ。

 いつかこうなるとわかっていた、警察の駒として任務を行うと決めた時から、いつかはこんな日が来ると。そう覚悟を決めたはずなのに、いざとなると怖くて仕方ない、嫌で嫌でたまらない。これが航平の言っていた恐怖、体の自由を失くされ、好き勝手に弄ばれる恐怖なのか。初めてそれを体感し、やっとその意味を理解した瑞希。

 どうしてこうなる前に、ちゃんと逃げる方法を考えなかったのか、こんな時の対処法を考えなかったのか、梅沢の意図に気付き、それを回避する方法を考えなかったのか、瑞希はそのことを後悔する。

こんなことになるのなら、せめて、せめて初めては航平に捧げたかった。それが瑞希にとって一番悔やまれることだった。

 小太りの男の腕を掴む手に力は入っているが、もう抵抗するほどの力はない。瑞希はもう諦めている。いや、現実を受け止めたのだ。


「へへへっ、いただきま~す」


 小太りの男はよだれを垂らしながら、瑞希の胸に再び手を伸ばす。


 ゴンッ。すると突然、瑞希の上に跨っていた小太りの男の顔が大きな音と共に右へ歪んで行くと、その大きな体も右へと跳ね飛ばされた。

 男の姿が視界から消え、何が起きたのか思考回路が追いつかない瑞希。訳が分からずキョトンとしていると、目の前には見慣れた、とても大好きな人物の顔があった。


「大丈夫か? 瑞希!」


航平だ。航平は心配そうに瑞希の顔を覗き込む。


「航平・・・ 航平!」


 瑞希は航平に抱きついた。航平はその体をしっかりと受け止める。


「ごめんな、遅くなって」


「ううん。ううん・・・」


 瑞希は首を横に振りながら、涙をボロボロと流す。


「怖かったやろ?」


「うん・・・ うん」


「もう、大丈夫やから」


 もう心配ない。俺がついている。航平はそう言うように力強く、瑞希の体をぎゅっと抱きしめた。


 小太りの男は、不意打ちで、航平の強烈な膝蹴りが顔面に入りノビている。そしてチンピラの男も、その反対側の地面に倒れていた。航平が小太りの男に膝蹴りを入れる前に仕留めていたのだ。


「さぁ瑞希、帰ろう」


 航平は瑞希の体を抱き上げて、歩きはじめる。


「ちょっと待てや、兄ちゃん・・・」


 その声に航平が振り返ると、チンピラの男が足をガクガクさせながら立ち上がり、銃を航平たちに向けて構えていた。


「しぶといな、おまえ・・・」


 航平はそう言ってチンピラ男を、冷たい目で見下ろす。


「うるさいんじゃ、ボケがぁ!」


 チンピラの男は怒りを露わに、銃の引金を引き銃弾を放った。航平はチンピラの男が引金を引いた時点で瑞希を抱え横へと飛んでいた。チンピラの男が放った銃撃は誰をとらえることもなく金属に当たり音を響かせる。間一髪、もう少しかわすのが遅れていれば、瑞希か航平に弾は当たっていただろう。

 航平は瑞希をそこに寝かせ、チンピラの男に向かって行く。


「だめぇ、航平!」と、行動に出る航平を見て叫ぶ瑞希。


 チンピラの男は二発目の銃撃を放った。それは航平の左腕をかすめる。航平は痛みに少し表情を歪めるが、そのまま突進して行き、チンピラ男の顔面に拳をぶち込んだ。男はその衝撃で壁まで吹っ飛び、強く叩きつけられて気を失った。


「きゃっ!」


 航平がホッとしたのも束の間、今度は小太りの男が目を覚まし、瑞希に襲い掛かっていた。


「おいこらっ! こいつ殺すぞ!」


 小太りの男も銃を取り出し、瑞希に向けている。


「それはやめろ!」


 航平は大人しく、無抵抗だと手を上げる。


「そうそう、大人しくしてれば、この娘だけは助けてやる」


 小太りの男はニヤリとして銃を航平に向けた。


 すると瑞希は「やめて!」とジタバタと暴れる。


「おっ、おい!」


 瑞希が暴れることによって的が定まらない。小太りの男は「鬱陶しい!」と言って、瑞希を突き飛ばした。すると運悪く、そこには階段が・・・ 瑞希はその階段を転がり落ちた。


「瑞希!」と、航平が声を上げる。


 瑞希は階段の下で、ぐったりとしている。どうやら意識を失ったようだ。


「何やっとんじゃ、おまえ!」


 航平は怒りを露わにし、小太りの男に向かって行く。瑞希に気を取られていた小太り男は慌てて銃の引金を引いた。しかし一瞬遅かった、航平はその間に小太りの男の銃を持った手を掴み、それを小太りの男の足に向けた。その時、男は発砲、自分の足を撃ったのだ。航平の行動が速すぎて、小太りの男は銃を撃つ指を止められなかったのだ。


「ぐわぁ! 痛てぇ!」


小太りの男は痛みに悲鳴を上げる。


 そこで航平はすかさず小太り男の顎に、斜め下から掌底突きを入れた。男はその一撃で行動不能、その場に蹲り動けなくなった。


「瑞希!」


 航平は階段を転げ落ちた瑞希の元へと急いで駆け寄ると、体を抱き起した。


「おい、瑞希! 大丈夫か、おい!」


「こ、航平・・・」


 意識はある。なんとか致命的な怪我はないようだ。


「よかった・・・」


 航平は安心したように肩を撫で下ろし、笑みをこぼす。すると瑞希は薄っすらと開いた瞼から、少し虚ろな目で航平に笑い掛ける。

 腕や足には数か所の切り傷があり、頭からも血を流している瑞希。それでも必死に笑みを浮かべる。そんな瑞希を見て航平はいたたまれなくなり、瑞希の体をぎゅっと抱きしめた。本当に無事でよかったと、喜びを噛み締めるように。


 その時、一人の男が瑞希の学生鞄に近付いていた。航平が瑞希を介抱しているのを見ながら、鞄に入っている携帯電話と、由咲にもらったキーホルダーを鞄から引きちぎり奪ったのだ。そして男は、そのままそれを持ち去り、姿を消した。


 やがて梅沢が、捜査一課の男たちを率いて現場にやって来た。そして密売人と思われる四人、瑞希と航平が仕留めた男たちを連行して行く。


「いやぁ~ お手柄でしたねぇ」


 梅沢がそう言って、航平たちの元へと近付いて来た。


「梅沢・・・」


 航平は梅沢を睨み付ける。内密に任務を与え、瑞希一人をこんな危険な目に遭わせたこと。航平の怒りは今にも噴き出しそうだ。


「そんなに睨まないでください。これも仕事なんです。私だって辛いんですよ? 部下がこんな目に遭うのは」


 そう言って、瑞希のことを見る梅沢。


 ――何が部下だ。ゴミ同然の扱いしかしていないくせに―― 航平は腸が煮えくり返るような感情を、歯を食いしばり、必死に堪えている。


「しかし、リーダー格の男は捕まえられなかったようですね?」と、梅沢。


「リーダー格?」と、航平の眉がピクリと動く。


「そうか、光島くんは知らないんですね? 他にリーダー格の男がいるんですよ。そいつが今回、私たちが追っているホシです」


 航平にはまだ、黒スーツのインテリ風の男の情報がまわっていなかった。


「まぁ、知らなかったのなら、仕方ないですね・・・ ああ~しかし残念です。せっかく多額の保険金が入るはずだったのに・・・」と、梅沢が声を漏らす。


「保険金やと?」


 梅沢の言葉に、不快そうに眉間に皺を寄せる航平。


「いえ、こちらの話ですよ。ではまた、今日の事の報告をしに、私の部屋に来てくださいね」


 梅沢はそう言ってニヤリと笑うと、捜査一課の男たちと現場を引き上げて行った。


「保険金・・・って・・・」


「そう・・・私、殺されるはず、だったんだよ・・・」


 梅沢の話を聞いていた瑞希が弱々しい声でそう呟いた。


「殺される、はずだった・・・?」


「私が死ねば、保険金が入る・・・ お母さんに、そして梅沢にも・・・」


「梅沢にもやと・・・」


 このことで、我慢していた糸がプツリと切れた。航平の顔が、見る見るうちに鬼の形相へと変わっていく。航平は瑞希をその場に寝かせ、梅沢を追おうと立ち上がろうとする。


「待って、航平・・・」


 すると瑞希はそう言って航平の上着を掴んだ。航平は怒りに満ちた表情で、上着を掴む瑞希の方を見る。


「そのことはもう、いいから・・・」と、瑞希。


「いいわけないやろ! おまえを殺そうとしたんやぞ?」と、声を荒げる航平。


「あいつに逆らったら、航平だって・・・ ただでは済まない・・・」


「そんなんどうでもええ! おまえの命を奪おうとしたあいつを、俺は許さん!」


「航平・・・ ありがとう・・・」


瑞希は涙を浮かべながら、笑みをこぼす。


「瑞希・・・ やっぱり俺は、あいつを殴らな気が済まん!」


 感情を押し殺せない航平は本音をさらけ出す。しかしそんな航平の上着を、瑞希は残る力をすべてを使って引き寄せる。


「お願い、航平・・・ そばにいて・・・」


「瑞希・・・」


 瑞希のその言葉に、航平の動きが止まる。


 瑞希の言葉、表情を見て航平は冷静さを取り戻す。今、自分がすべきことは何か、瑞希にしてやれることは何かと。


 不安なのだ、いろんなことがあって、瑞希は今、一人にされることがとても不安なのだ。航平はそれを察し、そばにいることを選んだ。


「瑞希、帰ろうか?」


「うん・・・」


 航平はぐったりとした瑞希をしっかりと抱きかかえ、二人もこの場を後にした。



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