瑞希が男たちに追われている頃、航平は瑞希のバイト先の梅香菜に行っていた。今日は仕事が早く終わり、瑞希を迎えに行くついでに、梅香菜で一緒に食事をしようと思っていたのだ。そうしたら少しでも長く捜査も行える。これは一石二鳥だと考えて。しかし梅香菜へ行ってみると、瑞希はバイトに来ていなかった。


「休みですか?」と、航平は驚いた表情を見せる。


「はい。今日は体調が悪いから休むって連絡がありましたけど・・・」


 そう言った女性店員の言葉に航平は眉をひそめる。


 航平はそんなこと一言も聞いていない。何かある時は必ず連絡してくるはず。それなのに瑞希からは何の連絡もない。


「お兄さんは知らないんですか?」


「あっ、はい・・・」


「そうですか、おかしいですね・・・」


「おかしい?」


「休むと連絡してきたのは、男の人だったらしいんですよ。だから私はてっきりお兄さんが連絡してきたのかと思っていました」


「男から? 瑞・・・ いや、美和じゃなく、男から連絡があったんですか?」


 航平は急に血相を変え、女性店員の両腕を掴むと、声を荒げてそう尋ねた。


「は、はい・・・」


 そんな航平の勢いに、少し怯える女性店員。

 航平は考える。これは梅沢の仕業かと。梅沢に急な任務を与えられたのかと。


「どうもすいませんでした。美和の奴、何かあったのかもしれません。今日のことはまた、改めて謝罪に伺いますんで。これで失礼します」


 航平は女性定員に深く頭を下げ、急いで店を飛び出した。

 そんな航平の様子を、直美は店の奥からは心配そうに見つめていた。


 航平は再び瑞希に電話を掛ける。コールはしているが、やはり電話には出ない。


「出ない・・・ やっぱり梅沢が何かしたか?」


 そして今度は梅沢のところへ電話を掛けた。


「もしもし?」と、梅沢が電話に出る。


「梅沢本部長ですか? 光島です」


「ああ、光島くん? どうしたんですか?」


「瑞希を知りませんか? 連絡が取れないのですが・・・」


「ああ、〇二九ですか? あの子なら今、任務に向かっていますよ」


「任務?」


 航平の勘は当たっていた。


「何の任務ですか?」


「うん? それは大切な任務ですよ」


 梅沢は茶化すような口ぶりでそう話す。


「私は何も聞いていませんが?」


 航平はそんな梅沢の態度に少し苛立ちを覚え、怒りを込めた声になる。


「言ってませんからね」


「はい? どういうことですか? なんで私に何の連絡もないんですか? 私は瑞希の監視役ですよね?」


「君が一緒に行っては任務の邪魔になるからですよ」


 航平が行くと任務の邪魔になる。梅沢の答えに、やはり嫌な予感しかしない。瑞希は何かやばいことをさせられている。航平は直観的に感じた不安が確かなものだと確信した。


「それで、瑞希はどこへ行ったんですか?」


「光島くん、人の話を聞いていなかったのですか? 君が行けば邪魔になるんです、任務にならないんですよ」


「いいから教えてください!」


 本部長、偉い人、そんなこと航平には関係ない。とにかく瑞希を助けたい。その気持ちからつい声を荒げてしまう。


「まぁいいでしょう、今さら行ってももう遅いでしょうから」


 そう言って梅沢は、瑞希が向かったコーヒー豆を売っている店と喫茶店の場所を航平に教えた。 


「GPS、瑞希の携帯にGPSは付いていますよね?」と、尋ねる航平。


「そんなもの付けていませんよ」と、梅沢はそうしらばっくれる。


「そうですか、わかりました。とにかく行ってみます」


 航平はそう言って電話を切った。


 本当は、GPS機能は付いている、当然だ。瑞希は拘束人なのだから。しかし航平に邪魔をされたくない梅沢はそれを教えなかった。

 航平はすぐに梅沢から聞いた場所へと向かう。しかし、その場からもう離れているかもしれない瑞希を探すのは困難だ。


「そんなこともあろうかと、瑞希の鞄にGPS発信器を付けておいたんだよ」


 航平は梅沢が考えているようなことはすでに読んでいた。そしてあらかじめ、瑞希の学校の鞄にGPS発信器を取り付けておいたのだ。


「梅沢は俺が瑞希を情報だけで探し、結局見つけられないと思っているんだろうが甘い。俺だってアホとちゃうねんぞ」


 航平はGPSの発信器を自分の携帯画面に映し出すと、「瑞希、待ってろよ。すぐに行くからな」と言って、瑞希の元へと駆け出した。


 航平は梅沢の言った言葉が引っ掛かっていた。「今さら行ってももう遅いでしょうから」と言った、あの言葉が。


「嫌な予感がする・・・」


 とんでもなく嫌な予感に不安を感じながら、航平は瑞希の元へと急いだ。


 ――本部長室。梅沢は窓から街並みを眺めていた。そして、とんでもないことを口にする。


「今頃はもう、死んでいるかもしれませんよ・・・」


 梅沢はそう言ってニヤリと笑みを浮かべていた。


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