第六章 切り捨てられた少女

 チンピラ風の男を逃してから三週間が過ぎた。あれから麻薬密売人たちは梅香菜に現れず、何の音沙汰もない。警察の存在に気付いて、今は身を潜めているか、海外に逃げたのかもしれない。

 梅沢や金井はその現状に焦りを感じ、苛立っていた。そして何の情報も得られない瑞希に、金井は度々接触し、罵り手を挙げた。「この役立たずのクズが」と。

 しかしそれも今の瑞希には耐えられる。航平や直美、由咲の存在があるからだ。

 瑞希は今、普通の女の子に近い生活を暮らすようになっていた。


「ねぇ瑞希、今日どこか寄って行かない? 可愛いカフェとかさ」 


 学校帰りにカフェに寄ろうと、由咲が誘って来た。


 可愛いカフェ、行ってみたい。瑞希もずっとそう思っていた、由咲とそんな場所へ行きたいと。しかし瑞希には梅香菜のバイトがある、それにカフェに行けるお金もない。

 瑞希は航平から必要経費という態で、お小遣いのようなものを貰っていた。航平は「自由に使っていいぞ」と、友達との交際費として使えという意味でくれたのだが、瑞希はそれを使う気にはなれなかった。やはり自分の立場と状況のこともあるし、その貰ったお金は航平の自腹だったからだ、それは駄目だと瑞希は線を引いたのだ。使うなら学校内だけ、いざという時だけ使う。それでもやはり気が引けて、学校内でもまだ使っていなかった。


「ごめん、由咲。私、今日もバイトやねん」


 瑞希の申し訳なさそうな表情、そして少し訳ありな感じを察したのか、「そうか、残念。また今度行こうね」と、由咲はそれ以上、瑞希を誘わなかった。


「うん、ごめんね」


 また今度なんてない。瑞希にはそんな自由などなないのだから。

 仲良くなると、こんな風に誘われた時、断るのがすごく辛い。こんなことなら仲良くならなければよかったと思う。だからといって瑞希は、由咲を遠ざけることも出来なかった。


 瑞希はそんな後ろめたい気持ちを抱えながら由咲と別れ、バイトへと向かう。

 由咲はそんな哀愁漂う瑞希の後姿をじっと見つめていた。さっきまで瑞希に向けていたやさしい笑みではない、何の感情の読み取れない無の表情で。


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