8/10:What do you think of me?
その刹那に右腕の肘がみぞおちに入り、直後に訪れた浮遊感から宙に浮いていることだけはわかった。積み立てた重力の衝撃に呻いている頃、背負い投げをした彼女はホームから線路に飛び降りて闇の中へ消えていった。
「クソッ」
想像以上の腕力は義体強化の賜物だろう。パブリックには記録がなかったし、許可された以上の出力だったことからみて、闇医者の施術なのは間違いない。
吐き捨てた言葉を乗り越え、線路の間を走って女を追う。レンズの暗視モードは捜査官に許可された機能のひとつだ。
電車の気配。
地下を巡る
鉄の冷たさが心地よかった。扉に背中を押し付ける目の前を、時速70キロをゆうに超える鉄塊が走り抜ける。
過ぎ去る電車が残す風の中へ出ると彼女の背中をとらえた。
超過密なダイヤの地下鉄では一駅ぶん走る間に4度も車両が通過した。そのたびに足を止められ、差は思うように縮まらない。
大手町のホームが見えると、彼女は手前のドアに体当たりして赤い回転灯の中へ飛び込んだ。そこへ飛び込み構えた拳銃の先が非常口を示すピクトグラムに重なる。埃が積もった排気ダクトは開いたままのドアに至り、その先に彼女の背中が見えた。
扉を抜けて階段を駆け上がり、彼女が踊り場で反転した瞬間、
「止まれ」
と叫び、引き金を引くと奥の壁に穴が空いた。弾丸がかすめて動きを止めた彼女に近づいていき、肩に手を置く。その手を払って反転し、掌底を繰り出した彼女の足を払ってマウントポジションをとる。
「同じ手を食らうかよ」
拳銃をしまい、内ポケットからテスタを取り出す。
「てこずらせやがって」
どこからか差し込むネオンが色を変えながら上半身を淡く照らす。仰向けの彼女はテスタの起動をもどかしそうに待つ俺を見上げている。
「あなたは私をアンドロイドだと思ってるの」
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