第6話 あした咲く花

草花が育ちにくい

そんなある地域の村はずれ

そこに少年が座っていた

近づいてみると地面を眺めているようだった


「何をしているんだい?」


なんとなく声をかける

すると少年が答える


「花が咲くのを待っているんだ。」


この土地で花が咲いたところなんか見たことがない

周りを見渡してもそうだ

都合よく雨が降って芽が出るだけで、咲かずに枯れる


「花が咲くかは分からないよ?」


夢を持たせることなく問いかける


「咲くよ!こんな元気なんだから、きっと明日にでも咲くはずさ!」


子どもらしいとも言える

少年は夢をまっすぐに見つめているんだろう

それか明るい未来を求めているのか

【明日】咲くことを願っていた



ある日

少女が村はずれで座り込んでいた

近寄ると地面の植物を眺めている


「何をしているんだい?」


そう問いかける


「花が咲くのか見ているの。」


似たようなことを聞いた気がする


「花が咲くかは分からないよ?」


現実を伝える

すると少女は悲しむことなく続ける


「まだ蕾だから、咲くなら明日だね。」


花が咲くまでのスピードは品種によって違う

それでも少女は【明日】と断言した

楽しみに待っているわけじゃないのか

それとも【明日】の意味を受け止めているのか



ある村はずれに佇む青年がいる


「何をしているんだい?」


そう問いかけると、こちらを見ることもなく返事が来る


「この花は明日咲くんだ。

それを待っているだけだよ。」


似たような言葉を聞いたことがあった


「そんなにこの花が咲いたことろを見たいのかい?」


花なんて探せば見れるだろうに

この花にこだわる理由があるのか、自分で育てているのか

どちらにしろ物好きな青年だ


「違うよ。僕はこの花が咲いたところは見れない。」


青年は花が咲くのを待っている

けれど咲いたところを見れないと言う

黙っているところに青年が続ける


「この蕾は枯れることがない。

そしてこの花は【明日咲く花】なんだ。」


きっとこの青年は知っているんだろう

解っているんだろう

時間は過ぎていくもの

数年後に夢を抱いても、その数年後はいつか訪れる

【明日】に夢を描く人もいれば、理解している人、受け入れている人もいる


そう、だから―――


「人は【明日】を迎えることはできても、【明日】には行けないからね」


花が咲いたころには誰もいなかった

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短編集 綾女 @crimsonrose

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