【第12話:副ギルド長】
せっかく出会えたドワーフに少し後ろ髪を引かれつつ、私はその後、すぐに商業ギルドへと向かい、無事に到着した。
商業ギルドは、この街の中でも一、二を争う大きな立派な建物です。
石造りの三階建てで、一階は各種受付とオープンな商談スペース。
二階は個室になっている商談スペースや来客用の会議室などがあるようですが、私は一階しか入った事がないので、上階のことはよくわかりません。
私が今まで利用していたのは、素材の買い取り依頼だけだったので、いつもは一階の受付で査定と手続きを行い、その後、裏に建っている買取用の施設の方で素材を確認してもらって、買い取ってもらっていました。
今日は、いつも通りの買い取りも行って貰うのですが、素材のランクが上がっているので再度査定をして貰う必要があるのと、人を雇いたいと思っているので、その件もあわせて相談するつもりです。
ちなみにこの世界の商人は、馬車を牽くために魔物や馬を連れている人が多いので、この商業ギルドにも隣接して厩舎が用意されています。
「じゃぁ、フィナンシェ。大人しく良い子で待っているのよ」
何か、厩舎にフィナンシェを連れて入った瞬間、馬車を牽くための馬や亜竜種の魔物たちが、一斉に一歩下がった気がしましたが、きっと気のせいでしょう。
フィナンシェ カワイイ カラ ダイジョウブ。
私はフィナンシェを厩舎に残して商業ギルドへと向かいます。
扉を開けると、一瞬私に視線が集まりますが、一〇歳なら家の手伝いで商業ギルドを訪れる子供もそれなりにいるので、すぐに私に興味を失ったようです。
これが冒険者ギルドとかだと、先輩冒険者が絡んでくるイベントとか発生するのかなと、馬鹿な事を考えながら、いつも利用している窓口に目を向けます。
「ん? ついてるわね。今日は窓口空いてるようだわ」
素材買い取り関係の受付をしている窓口には、普段なら少なくとも一組か二組は待っている人たちがいるのですが、今日は誰もいませんでした。
私は誰かに先を越されても嫌なので、ちょっと小走りで窓口に向かい……そこで初めて、窓口にいるのが、いつものギルド職員じゃないことに気付きました。
見たこと無い人だったので、ちょっと気後れしそうになりますが、前世で社会人やってた私は、仕事モードに切り替えて話しかけます。
私、こう見えて出来る女でしたので。
「すみません。素材の買取をお願……」
「なんだ~お前は?」
あれ? なんかこのおじさん、凄く怖いんですが?
丁寧に話しかけただけなのに、見下すような視線で睨まれてしまいました。
「あ、いや、その、羊毛を買い取って貰いたいのですが」
「あん? お前羊飼いのとこの餓鬼か?」
口悪っ!? 一〇歳の女の子にそんな凄まないでよ!?
というか、受付窓口にいるのに、そんな態度でいいの?
とか、思っていると、何度か対応して貰った事のあるおじさんが、窓口の奥から慌ててやってきました。
「おい! いつまで待たせるつもりだ?」
「す、すみません! 副ギルド長! 書類の方はもう纏まりますので、少しだけお待ちください!」
えっ!? この態度悪い方のおじさん、商業ギルドの副ギルド長なの!?
「早くしろ。あぁ~それから、そこの餓鬼が羊毛の買い取りらしいから対応してやれ」
「ん? キュッテか。今日も
いつも通りの買い取りだと思ったおじさんが、買い取り指示の紙を私に渡そうとしてきたのですが、今回は質の格段に上がった羊毛を買い取って貰うつもりなので、先に査定をして貰う必要があります。
ちなみに、おじさんは私の名前を覚えてくれていたみたいだけど、おじさんの名前……私全然覚えてなくてごめんなさい。
「えっと、おじさん。今日も羊毛の買い取りは買い取りなんですが、羊毛の質が大きく上がったので、再査定をしてもらいたいんです。あ、あと、人を一人雇いたいので紹介して貰えませんか?」
「羊毛の質が? いつも持ち込んでくる羊毛と違うものなのかい?」
「えっと、私のギフトで質が上がったんです」
生産系のスキルや酪農系のスキルなら、素材の質が上がるのは知られている能力なので隠さず伝えたのですが、よくよく考えると、ここまで劇的に質が上がる事ってあるのかと、言ってからちょっと不安になってきました。
「餓鬼が欲を出しやがって」
副ギルド長が後ろでわざと聞こえるような声で呟いています。
さすがにちょっと腹が立ってきましたね……。
「え、えっと、キュッテ。本当にスキルで質が上がったのなら、多少は買取価格を上げさせて貰うけど、本当にスキルのランクが上がったのか?」
「あっ……」
こんな風に疑われ、聞き返されるのには訳があることに、今気付いてしまいました。
ランクアップと共に、何故か前世の記憶を取り戻してしまったので、そちらに気を取られて忘れていました。
ギフトは生まれながらに皆に授けられますが、そのスキルのランクが上がるのは、普通成人してそのスキルに関する職に就き、それから何年も厳しい修練を積んで、ようやく一つあがるかどうかという事に。
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