【第11話:今度こそ街へ】

 翌朝、羊たちを放牧して厩舎の掃除を済ませると、すぐに家を出る事にしました。


 小さな鞄一つでケルベロスモードフィナンシェの背に乗って、クーヘンの街へと出発です。

 フィナンシェのホーム設定を厩舎横の空き地に変更してあるので、サンプルの羊毛を少しだけ持って、残りの荷物はすべて厩舎横の小屋に置いたままです。


 今日は街に着いたら商業ギルドに行って、まずは羊毛の値段交渉です。

 それでもし高値で買い取って貰えそうなら、そのお金で誰か人を雇おうかと思ってたりします。


 なぜ、急に人を雇おうと思ったかと言うと……。


 一つ、羊毛刈り取り後、数時間で元の毛量へと戻る能力。


 実は、どうやらこの能力のお陰で、昨日毛を刈り取ったはずの羊の毛が、みんな元通りになっていたのよね。


「もし、本当に毎日羊毛を刈り取れるのなら、かなり収入も安定するわ」


 ただ、家が壊れてしまっているので、住み込みの人を雇うなら、まずは先に家を直さないといけないですいし、家を修理している間に誰か見つかれば……という感じです。


 ちなみに、ここは街から離れていて通いは無理なので、雇うなら住み込みで働いてくれる人になります。

 こんな辺鄙なところにある牧場で、しかも給金もあまり出せない状況で住み込みで働いてくれる人がいるのか?

 普通に考えると中々厳しいと条件だと思うのだけど、でも私は、案外簡単に見つかるのではないかと思っていたりします。


 実はこの世界のあまり裕福でない家庭では、一〇歳から一五歳の間に年季奉公に出るのが一般的らしいのです。

 情報源は祖父だけなので絶対とは言えませんが、そういう若い子なら、きっとこんな牧場でも衣食住さえ保証すれば、一人ぐらいは見つかるはずです!


 ……見つかるといいなぁ……。


「あ、もう街道が見えたわ! フィナンシェ、ここからは歩いていくわよ」


「「がう!」」」


 ケルベロスモードフィナンシェに乗っての移動もだいぶん慣れてきたので、それに応じてスピードも上がり、前回よりも更に早く街道に着いた気がします。


 そして、それから程なくしてクーヘンの街へと辿り着きました。


「今日はイベント発生しなかったわね」


 私は顔見知りの門衛のおじさんと挨拶を交わすと、そのまま街の中へと入っていきます。


『地方都市クーヘン』


 この世界全体のことはわかりませんが、この国『トリトリス王国』では、比較的小規模な地方都市だそうです。


 最近の私の魔物との遭遇率を考えると、ちょっと疑いたくなるところですが、この辺りは魔物の数は比較的少なく、それに応じて街を囲む城壁もそこまで立派なものではありません。


 ですが、そこまで小さな街といった感じでもなく、住んでる人もたくさんいますし、経済活動も活発に思えます。


 えぇ、街の外に住む羊飼いなので、細かいことはわかりませんけどね。


「さって♪ さっそく商業ギルドに向かいましょうか」


 私は何度もこの街に来ているのですが、前世の記憶が戻ってからは初めてなので、見るものすべてが新鮮に感じ、歩くだけで何だか楽しいです♪


 街並みは中世ヨーロッパっぽいですが、前世の中世と比べると、生活水準はかなり高いのではないでしょうか。この世界はギフトのお陰で色々進んでいますからね。


 実際、いま歩いている道などは石畳が整備されており、等間隔で魔道具で作られた街灯が設置されていますし、町は清潔感に溢れ、とても綺麗に見えます。


 えぇ、街の外に住む羊飼いなので、外から見た感想ですけどね。


 そんな街を、ちょっとした観光気分で歩いていると、少し先のお店の前で、何か言い争いをしている人の姿が目に飛び込んできました。


「もう~、せっかく気分良く歩いてたのに……」


 商業ギルドはもう目と鼻の先なので、別の道を使うとなると、かなり戻らないといけません。

 私は仕方なく、巻き込まれないように、素知らぬ顔をして横を通り過ぎることにしました。


 しかし、店の人と言い争いをしている人物に視線を向けたその時、私は思わず呟いてしまいました。


「あ、ドワーフだわ!?」


 うん。叫んじゃったとも言う。


「なんじゃお主は?」


 髭もじゃもじゃのずんぐりむっくり。

 まるで絵にかいたようなドワーフのおじさんです。


 この世界にはエルフやドワーフ、獣人といった存在がいる事は知っていましたが、この国『トリトリス王国』は人間の国なので、他種族はほとんど見かけません。


 それでも、今世の羊飼いとしての私の記憶しかなければ、ただ珍しいだけなのでそこまで驚くようなことはなかったと思うのですが、前世でアニメやゲームなどでファンタジー作品に触れてきた記憶があると、やっぱり興奮しちゃうじゃないですか?


 だって、生ドワーフですよ?

 髭面ですよ? ずんぐりむっくりですよ?


 ん? なにかドワーフの横にいる女の子に凄い睨まれている気が?


「見世物じゃないのですよ? シメますよ?」


 こわっ!? この子こわっ!?


「あ、いや!? 何でもないです!」


「あぁん? 何もないなら見るなよ? あぁん?」


 うわっ!? 目つきわるっ!? ヤンキーですか!? ヤンキーですよね!?

 見た感じ私と同じか、私よりちょっと幼いぐらいのカワイイ系美幼女なのに!


「こら! レミオロッコ! やめんか!」


 ん? この独特な名前の感じは、この子もドワーフなのかな?


「だ、だって叔父さん……」


「だってではない! 嬢ちゃん、すまんな。どうにもこの子は口が悪くてな」


 レミオロッコが怖いってのもあるけど、私も思わず叫んじゃったのは悪かったし、ちゃんと謝っておこう。


「い、いえ! 私の方こそすみません。普段街の外に住んでて、他の種族の方を見るのが初めてだったもので……」


 しかし、私が謝った事でもうそっちは終わっただろうとばかりに、店側の人が話に割って入ってきました。


「ちょっと! それで話の続き、いいですかね? こっちも時間ないんですよ? せっかくあなたの頼みだからと引き受けたのに」


 やはりこのドワーフたちは、この店の人と何やら揉めているようですね。

 私は仕方なく、その場を退散したのでした。

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