【第13話:横暴】
どうしましょうか……。
どこまで正直に話すべきか悩みますね。
祖父から勉強はあまり教えて貰えませんでしたが、文字の読み書きと、牧羊に関する事だけは、沢山教わりました。
だからわかるのですが、ランクが一つ上がったとして、素材の質が、私の場合は羊毛の質が、ここまで上がるという事は絶対にないはずです。
事実、祖父も私と同じ『牧羊』のスキルを持っており、ランクは二度上がったと自慢していたのを覚えていますが、それでも、今日持ってきた羊毛の質よりはずっと低かったのを覚えています。
実際、祖父が亡くなって私が牧場を継いだあと、羊毛の質が僅かに下がったはずですが、それでもほとんど同じ値段で羊毛を買い取って貰っていました。
私の歳でランクが上がった事例は、かなり珍しいとは思いますが、無い事はないはずなので、これは伝えても驚かれるだけで済む話だと思います。
ですが、この羊毛の質は、一回のランクアップでは全く足りません。
スキルによる能力だけであがるレベルを超えており、辻褄があいません。
鍛冶スキルなどに例えるのなら、もしかすると伝説の鍛冶職人ぐらい凄いことになるかもしれません。
そんな凄い能力。それが、成人もしていない一〇歳の女の子に備わっていたら、悪い大人に狙われる未来しか見えません。
うん。悪い大人に見つからないように気を付けないと!
「なんだ? 餓鬼、お前、その歳で素材アップの能力を得たのか?」
悪そうな大人が、目の前にいたよ~!?
副ギルド長、どこからどう見ても悪人顔です!
おまけに、さっき祖父の教えを思い出している時に、ついでにとある言葉を思い出しました。
『キュッテや。商業ギルドでは副ギルド長とだけは関わり合いになるな。奴は金の亡者じゃからな』
ど、どうしましょう……?
持ってきた羊毛を見せた上で人を雇いたいとか言ったら、お金の匂いぷんぷんだよね……。
「おい。何を黙っている? 答えろ」
お爺ちゃん。どうせなら、向こうから関わってきた場合にどうすれば良いかも教えておいて欲しかったです。
「え、えっと……」
とりあえず運よく、ランクアップした事だけは伝えて、今日は鞄の中の羊毛は見せないようにしましょう。そうしましょう。
「私、運よく『牧羊』スキルがランクアップしたみたいで……」
だから、今度羊毛を持ってくるのでみて下さいと、そう言おうと思ったのですが……。
ここで副ギルド長が、また横暴極まる振る舞いに出てきました。
「どれ。儂が見てやる。見せてみろ」
と言って、私の鞄をひったくったのです!
「ちょ、ちょっと、返してください!!」
私は不味いと思い、すぐに鞄を取られまいと引っ張り返したのですが……これが失敗でした。
「きゃっ!?」
私のおんぼろ鞄は破け、羊毛がふわふわと飛び散ってしまったのです。
「誰に逆らっている! わざわざこの儂が見て……な、なんだ、この羊毛は?」
最悪です……。
飛び散った羊毛はそのまま受付のテーブルの向こう側にふわりと舞い下り、副ギルド長に無造作に拾い上げられてしまいました。
「……おい。これはなんだ?」
えぇい! もうここまで来たら隠す事も誤魔化す事もできません!
こうなったらしっかり品質を見て貰って、ちゃんとした値段で買い取って貰うしか無いわ!
「そ、それが、私の『牧羊』スキルによって刈り取った羊毛です! 見て貰ったらわかる通り、今まで買い取って頂いていたものよりもずっと品質があがっているはずです! あらためて査定をお願いします!」
「す、凄い……キュッテ、これはホントに君の能力で……?」
以前の羊毛の品質を知っているギルド職員のおじさんが驚いています。
「はい! どうですか? かなり良質なものになっていると思うのですが?」
この分だと、かなり高値で買い取って貰えそう♪
羊毛の刈り取りは毎日行えるので、そこまで高額でなくても構わないのですが、需要に合わせる形で卸せば、値崩れも防げるでしょう。
そう思っていたのですが……。
「良し。以前、お前の爺から買い取っていた額で買い取ってやる」
「え? 副ギルド長、この羊毛の品質は……」
「黙れ。それ以上の値で買い取る事を禁ずる。素材はギルド長ではなく、儂の管轄だ。何か文句があるのか?」
「い、いえ……文句など、あ、ありません……」
よわっ!? おじさん、よわっ!? もうちょっと頑張ってよ!!
「あ、あの! この羊毛、お爺ちゃんが持ち込んでいたものより、ずっと品質が良いはずです!」
それなら私が! と思って、そう反論したのですが……。
「ふん! この値に不満があるなら勝手に他の所にでも持ち込めばいい。買い取ってくれるところがあるならな!」
くっ……そう来ましたか……。
この街での素材の買い取りは、素材の買い占めや値崩れを防ぐため……という名目で、商業ギルドが一手に引き受けて行っています。
他に売れるところが無い事を知っていて、こんな横暴な態度に出たのでしょう。
「うぅ……」
悔しいです……。
「今日持ってきているのはこれだけか? 感謝しろよ? あるだけ買い取ってやるから、いつでも持ってこい」
副ギルド長はそう言い捨てると、顔見知りのギルド職員のおじさんから何かの書類をひったくり、そのまま奥へと消えていったのでした。
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