第7話 え

 真っ暗闇が終わると外はお昼だった。

 目の前にはあちこちに人の彫像が細かく1人1人とても丁寧に彫ってある灰色の門が建っていた。どこかの入り口ではなくこの円形の広場の中心部に建っている。門は悠々と上からのし構えてるかのように高く大きく、人とはなんてちっぽけなのだろうと考えさせられる。周りをぐるりと見渡してみると広場から11…12本の道が放射状にのびている。その道には並木が青々しくある。

「…エトワール凱旋門…ね…」

 ぽつりとジャネッサさんが言った。

「じゃあ先輩方と一緒に隠れて…ください!」

 西さんのそのひと言で秋田さんに手を引っ張られた。

 随分幅広い歩道を走っていく。建物が綺麗に整列しているが走って逃げているので眺める暇などなく何の建物かも分からない。

「…ごめんね…ここ…し…知らないの」

「だ、だいじょ…です…!わ…知らない…」

 疲れたら早歩きで歩いてお互い走れるよう整え終えたら走るの繰り返し。建物がどれも大きく見えて同じように見えるから日本みたいにここなら大丈夫というのが分からない。

 左の歩行者用の道路へ走り古いお城のような、けれどもお店やマンションと言われても納得いく簡素でいてお洒落な建物の中に入った。

 入り口で突然階段があり地下と地上に別れている。地上から地下への階段へ落ちないようになのか透明な壁で囲われている。その壁に階段の所に来ると否が応でもfnacというデカデカとある文字が見える。階段の前で秋田さんは少し悩みながら

「海外…造り…分からない…ど前みたい…にさがそ……」

 そのまま手をひかれながら階段を歩いて降りていった。私は建物に詳しくなくむしろ雨風しのげたら良い、という程度にしか思っていないが日本の店とは違う造りで見てるだけでも楽しい。店の中も見たいしこんな状況がもったいない。



 50分。多分建物の中で一番時間を使った気がする。それくらいあちこち入り込んでいった。こっち開けて入って行き止まり、あっち開けて入ってまた行き止まり、所々同じ場所に入ってしまったり。ただ今回は幸いそうやって探し回ってる時に何も音が聞こえなかった。

 隠れながら逃げれる場所に隠れて時計を眺める。待っているときは本当に1分が長い。今は30秒経ったかなど考えていると地鳴りする程の音が聞こえた。

「…こんな音…知らない…知らない兵器…?」

「…私も…知らないです…」

 全く聞いたこともない音だった。音だけでもこんなに大きいということは相当大きい兵器なのだろう。この大陸ごと簡単に消してしまうのか…。

 更に耳を澄ませていく。自分の脈打つ感覚がわかる。血液が騒がしく動いて体が空中に浮きそうだ。

 また同じ音が聞こえた。数秒するとバリバリバリとヘリの音が真上から通り過ぎていった。と思ったら通りすぎてもう少し進んだ場所で物凄い音と共に建物が崩れるような音が聞こえた。

「…ヘリ…墜落かしら…」

「…こっちは兵器…ないのに…味方もろとも…ですかね…」

 ヘリは一つしか持ってきていない様でその後は突然聞こえた地鳴りのする音だけが残った。たまに何かが空から落ちているらしく崩れる音も聞こえる。

「…猫…できるなら…恐竜にもなれるんですかね…」

「…でもここまで大きな音出す恐竜居ないんじゃない…?」

 たしかに本やドラマでもこんな地面が揺れるほどの音の出せる生き物なんて出てきてない。謎なのが更に恐怖心を煽る。ひたすらにこっちに来ませんように、と祈る事しかできない。それでも動いているのかドシンと音が時折聞こえる。その音がなるたび秋田さんの手を両手で握っていく。

 大きな あまりにも大きな戦力差を見せつけられ、ただ殺される時間を伸ばすことしかできない。これがアニメなら何かに目覚めて勝利するんだろうな…それができたらいいのに。そして私達が勝った時に黒幕が私達で遊ぶのに飽きたらいいのに。

 地鳴りのする音が頻繁に聞こえる。秋田さんは私を覆うように抱きしめる。次第に地面に何かを落とす音は聞こえなくなってきた。そのかわりそういう音はしないものの何かが飛んでいるらしく、機械的なピピピ…ヒュゥンというおかしな音が聞こえ始めた。

「…大丈夫…大丈夫よ…あと3分」

 秋田さんは自分自身に暗示をかけるようにひたすらその2つの単語を呟く。

 あと3分。まるで時間が飛んでいたようだ。あの時は1分、数十秒、数秒すらが長く感じていたというのに。

 銃声も聞こえ始めた。少しこっち側に近づいてきたのだろうか。時計を見るもまだ残り3分のまま。するとまた別の場所から地鳴りのする音が聞こえた。その何かは共鳴するかのように音を交互に鳴らしていく。

「…もしかして…味方…なんかな…」

「…これが終わったら聞くことしかできないわね…生き物なのか機械なのか分からないのに賭けるのは危険よ…」

 ドッッドッッドッッドッと鳴り始めた。あまりにも音が大きすぎるので正確な位置は分からないけれども、後から出てきた大きな何かは先に出ていた何かに近づいているようだ。

 その何かに気を取られているうちに2分が過ぎていた。

 2つ目の何かは立ち止まり、1つめの何かの出す機械的なおかしな音だけになった。その中で銃声が少なくなっていった。

 最後の60秒、1秒減るのはまだか1秒はまだか。

「……大丈夫…大丈夫大丈夫大丈夫…」

 空気が漏れるだけの声だったのが段々高くなってきて蚊のなく声みたいになってきた。彼女も怖いのに私を守ってくれる。こんな状況下で、自分が生き残るよう教えられて私達に教えているというのに守ってくれる。凄い、かっこいい、勇気のある人、強いなど色々あるが人間の作った言葉では彼女の全てを愚弄する事になってしまうくらい足りない。全く足りない。

 30秒を切って、29秒、28秒と減っていく。 段々と銃声がなくなり静かになっていく。外の何かは変な音が鳴らなくなるかわりにドシンと重い体を動かしているような音が時折聞こえる。何をしているのだろうか。不審なので秋田さんも私も聞くことに専念した。

 時間は1秒ずつ減っていく。

 

 部屋中に突然の破裂音。


「…………………え…」


 一体何事か理解はできない。ただ、部屋中に響き渡る破裂音だけ頭の中に入った。背中がいきなり重くなる、という事実にそこから行き着く考えに蓋をした。少し背を低くして周りを見ると後ろに服が血にまみれた男の子がいた。

「……ぁ…ごめ…なさい…ごめん…しなきゃ……」

 何か謝っている。泣きながら怯えた表情で…なぜ向こうがそんな顔するのか全く理解できないけど…。秋田さんが私の背中からずれて床に落ちる感覚がした。一瞬その感覚に驚いて見てしまった。蓋をしていたこと、考えたくなかった事。すべてがスローモーションで過ぎていくのが辛い。あと少しなんだったらもう向こうへ戻してほしい。自然と視線がまた相手に向かう。

「……ぁ………ぅ………」

 その男の子は私に銃を構えるが一向に撃たなかった。

 真っ暗闇が来た。それでもその男の子が目の前に残像として映っている。

 あの鉄の部屋に戻っても体は動かない。だって目の前にあの男の子が目に焼き付いてしまってまだ見えるからだ。色んな人が話してるのも周りで動いてるのも見えるし聞こえるけど何も理解はできていない。

「途中凄い音が聞こえただろう。あれは俺だ。実は途中で仲間と別れて少しあの門のあった中心部近くでどうやったら動物になれるか試してたんだ。そしてなったのはドラゴンだ」

「私も最後残りわずかの時なれました。なんとなくなのですが感覚的には動物の気持ちみたいなのに少しでもなれたら変身しました」

「私もよ…私の場合動物だったわ…でもたしかに動物の気持ちみたいな動物の感覚…のようなものに理解したらなれたわ…私の場合…動物だからかしら…色々な動物に変身できたわ…」

「それはドラゴンではできませんでした。今回得られた新しい事はそれです。では皆さん黙祷して寝ましょう」

 何か周りが話さなくなったら手が暖かくなった。

「菫さん、寝ましょう。向こうでは寝てるので、あまりにも違いがあるとおかしな目覚め方して体がとてもしんどくなります…」

 目の前であの男の子が私達を見ている。目はあいつを捉えてるのに体が勝手に動いている不思議な感覚。天井を向くようになってもあいつがいる。銃を構えて。ただあの時と違うのは両脇が暖かくてお腹がぽんぽんされてたり頭撫でられている感覚がある。

 右の耳元で小さく子守唄が聞こえる。ドクドクドクと嫌に動いてる心臓は落ち着いてきた。

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