第5話 職場見学終了、笑顔と繋がりし縁

 支配人に呼ばれ、エントランスに戻る。そこには子供たちがおり、口々に劇の感想を言っている。好意的な感想が多くて、誇らしくなる。自分に気付いた生徒達が集まり、思い思いの言葉を発する。役者として出て驚いた事や、戦闘に対する感想が多かった。

「みんな、アルドさんに注目するのも良いけど、他の演者さんにもお礼を言いましょう。皆さん、来てください。」

 他の演者たちも子供たちの前に姿を現す。

「みんなは気付いているかもしれませんが、実際にユニガンで酒場のマスター、鍛冶屋の店主、宿屋の受付、衛兵の方々よ。」

 もしかしてと思っていた生徒も居たみたいで、口々にお礼や職業に興味を持ったことなどを伝えていた。元々関心があった生徒も居たみたいでその仕事の様子を間接的に見学できてうれしかったみたいだ。その様子を見て教師も安心しており、演者たちと穏やかに雑談をしている。

「今回の演目、マンネリ化解消になっていたであろう?」

「やあ、支配人。確かにあれはマンネリなんて吹き飛ばすな。しかし、本当にユニガンで働いている人を演者にするなんてよく思いついたな。」

「いえ、私じゃありませんよ。アイディアも脚本も彼女が作ったんですよ。魔獣王の部分は演じた私のアレンジですがね。」

 ミグランス王にあんな演技を出来るのは支配人ぐらいなものだ。支配人の魔獣王役は意外にも形に入っていた。支配人を見ると優しい目をしていた。

「もしかして、二人で話していたのはそういう事だったのか?」

「ええ、彼女が前に進むためにこの特別公演に一枚かんでみないかとお誘いしたのですよ。」

「彼女が悩んでたって気付いていたのか?オレには様子が変だなとしか思ってなかったよ。」

「私だから気付けたんですよ。これでも観察眼に自信がありますから。」


 支配人はあの日の会話を思い出す。

「貴女はもしかして『自分よりもアルドさんの方が教師に向いている』なんて思っているのではありませんか?」

 教師の目は図星だと物語っていた。

「そう思ってしまうのも無理はありません。しかし、私はそう思いません。その疑念を解消するためにも私の提案に乗りませんか?貴女は教師に向いている、その事を貴女に勉強させてあげましょう。」

「ぐ、具体的に何をするのでしょうか?」

「特別公演の脚本、貴女が書いてみませんか?」

「はい?」

「彼は確かに縁を繋げることに長けており、それは教師に必要です。しかし、教師に最も必要な素質は貴女の方があるんですよ。」

「え?」

「“子供たちを『善い』方向に導こうとする姿勢”そして、“その『善さ』が何なのかを探り続ける心”です。貴女が彼に触れたことで新たな『善さ』が生れかけてたのではありませんか?貴女はそれに戸惑い、焦っていたのでしょう。生徒の為にと空回りをしているようみ見えましたからね。」

「あの時はすみません。」

「いえいえ、気にしてませんよ。私の推測が当たっているのならば、特別公演の脚本としてその『善さ』を表現してみませんか?」

「アヤフヤなものは言葉や文章として形を作るに限ります。まずは口で表してみましょう。まだ生まれたばかりの新しい『善さ』を教えてください。」

「私は子供たちに―」


「オレが鈍いって言いたいのか?」

「否定はしませんが、私は昔似たような悩みを持った友人がいただけです。」

「その時も今みたいに解決できたのか?」

「悩みが軽くなったのは確かです。私は彼女を測り損ねていたんです。彼女は貴方の話を聞いてあの4人に目星をつけ、良好な関係を築き、今回の協力まで導きました。さらにミグランス王の出演も実現しました。私はこの機会の提供とほんの少しの手伝いしかしてませんからね。行動力に驚かされっぱなしでしたよ。」

「生徒の為に頑張ったんだなぁ。」

「生徒の成長を願う気持ちは彼女の大きく、確かな原動力なのだと感じました。その方向を定めればまっすぐと進むのでしょう。」

 支配人と2人で穏やかな表情で教師を眺める。

「みんな、色んな職業に興味をもってくれましたね。そんなみんなに更なるお知らせがあります!!」

 教師の明るい声に生徒達がざわめく。大人たちはニヤニヤしている。

「今度、3日間の職場体験を行う事が決まりました!一人ひとりが興味のあるところでお仕事体験できちゃいます!」

 教師の発表に生徒達が湧く。口々にどこに行きたいかを言い、アピールしている子も居る。ふと、教師と目が合う。

「アルドさん、支配人さん。ご協力ありがとうございます。お二人のご協力が無ければ、職場見学の成功に職場体験の計画なんてできませんでした。」

「あの時の話からこんに良い劇を作り出すなんてびっくりしたよ。そういう意味ではキッカケぐらいには慣れたみたいだな。でもな、一番大きいのはアンタの努力や想いなんだと思うぞ。」

「ええ、彼の言う通りです。貴女がこれだけの人の心を動かしたのです。ここに居る人だけではありません。貴女の脚本に多くのお客様が感動していました。」

「アルドさんの縁や、支配人さんの提案、後押しがあってこそです。改めまして、皆さんもご協力ありがとうございます。」

酒場のマスターや、鍛冶屋の店主、宿屋の娘、衛兵も自分と支配人にお礼を言う。5人は今回のことがきっかけで相当親しくなったようだ。

「ねえ、先生。王様の職場体験はできますかー?」

 いたずらっこの様な笑顔で生徒が尋ねる。

「王の職場体験をする為には強くならねばならない。体を鍛えるところから始めよう!」

「え!!?王様!??ぼ、僕はもうムキムキだよ~?」

 いきなり現れたミグランス王と生徒とのやりとりに、全員が大笑いしていた。

「生徒達がどんな大人になるか楽しみだな。」

「自分や繋がりを誇れる、そんな大人になって欲しいですね。」

「ん?支配人の願いか?」

「いえいえ、もっと真摯な方の願いですよ」

 その眼の先に居た女性の笑顔は輝いていた。


 どこかで、大団円を祝福する音がした。

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頑張れ先生!ユニガン学校!職場見学 @Corn-Sabotage

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