第3話 見学先決定、教師の不審な動き
アルドさんは約束を守ってくれたみたいで一安心した。反故にすることは無いと思ってたが、実際に居るとホッとする。少し疑ってしまってた心を恥ずかしく思っていた。彼はいくつかの場所を聞いてくれたみたいで、酒場、鍛冶屋、宿屋、門番と冒険者と関わり深い所を当たったみたいだ。時間は充分にあったのだからもっと多くの場所を聞いて欲しかったし、私も断られた職場もある。思わず腕を組んでしまう。
自分の話した結果を伝える。
「私も10件ほど当たりましたが、全て断られてしまいました。」
互いにどのような理由や会話をしたのかを報告し合う。彼の話を聞くとその濃さや各所との親密さに驚かされる。ただただ断られた私と違い、その改善案や次の機会に繋げられるようなものであった。次回以降の職場見学は王城以外に目を向けても良いのかもしれない。親しみを感じられる青年であることには変わりないが、こうも関係性に差があると少し自信を無くしてしまう。教師は生徒や保護者と関係性を深めることも重要なことだ。彼が教師になったらと想像し、うつむいてしまう。
「いい場所があるぞ!」
そんな声で妄想はリセットされた。なぜ彼は断られないなんて確証があるのだろうか。彼は私の手を引き門近くにある馬車に乗り込む。この先は国立劇場だ。劇場にまで繋がりがあるのか。彼には驚かされるばかりである。
このような経緯で私は今、劇場の支配人と彼の3人で話をしている。
思いついたことにテンションが上がってしまい、つい強引に連れてきてしまった。彼女は劇場にいきなり連れてられたことに驚いているようだ。人気が出てきたとはいえ、まだ人でごった返すほどではない。
「劇場とも交流があるんですね。」
「お世話になっているというか、お世話をしたというべきか…。まあ、互いにお世話をしてるんだ。」
「は、はぁ。」
困惑されたが仕方が無い。自分もこの劇場との関係性にふさわしい言葉を知らないのだ。劇場の中に入ると、この関係性を作り出した張本人である支配人が居た。
「ああ、君たちか。どうだ、舞台に出てくれるか?」
「え?舞台ですか?」
「たまに演じさせてもらっているんだ。いや、今日は別の頼み事があって来たんだ。そうだよな?」
彼女にパスを出して、一旦引き下がる。彼女の口から伝えた方が誤解も生まないだろうし、支配人も無茶は言わないだろう。
「ほう、お嬢さん。頼み事とはいったい何ですかな?」
自分と話す時よりも丁寧で気取った支配人を見て苦笑いをしてしまう。
「はい!子供たちの職場見学先にここを使わせてもらいたいんです!元々はミグランス城の予定だったんですが、魔獣の襲撃によって中止になりました!その為、ここの職場見学をさせて頂きたいんです!子供たちの為にもご協力をお願いします!」
「ん-、そういうこ…」
「子供たちの為にもご協力をお願します!子供たちを悲しませたくないんです!出来るんですよね?!さあ、どんなプランにしましょうか!」
凄い勢いでまくしたて始めた事にもだが、あの支配人が押されていることに対する衝撃も大きい。支配人の機嫌が少し悪くなっているようにも感じる。
これは彼女を落ち着かせないと、出来るものも出来なくなってしまう。
「おい!落ち着けって。」
彼女の肩を掴んでそう言うと少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。心なしか少し顔が青くなっている。
「どうした?体調が悪いのか?」
「アルド君、職場見学をここでしたいってことでいいのかね?」
「ああ、そういうことだな。ここは人手や時間、場所にも余裕があるだろ?」
「いや、確かにそうなのだが…。いきなりあの態度で頼まれてもね…。」
支配人が彼女を一瞥する。彼女は落ち込んでおり、先ほどよりも顔が青く見える。
「いや、少し熱が入り込んでしまったみたいでさ。」
職場見学先が変更になった経緯を改めて支配人に話す。自身が訪れた他の職場での話も交えた。幸い、支配人もじっくりと聞いてくれている。更に、自分は支配人が弱い言葉を知っている。
「職場見学をすることで、子供たちやその家族へと知名度が上がるんじゃないか?それに、大衆に長く利用してもらうには地域への親しみや貢献は重要だと思うんだけどな。」
「!?確かに…。」
支配人は驚き、考えこみ、顔を上げる。口よりも先に、その眼から返事は伝わって来た。
「いいでしょう!職場見学を許可しましょう!」
「やったな!」
「ええ!」
教師と向かい合う、彼女も喜んではいるが喜びとは別の感情が湧いているようにも見えた。支配人は続ける!
「ただし!職場見学後に特別講演を行い、生徒達にも鑑賞してもらいましょう。宣伝をして一般のお客様にも鑑賞して頂く演目にはなりますがね。」
「特別講演、中々いいんじゃないか?」
「そして、その主役はアルド君!君に演じてもらう。」
「ええ!?構わないけど、どんな演目をやるんだ?」
「いや、演目そのものは子供人気が高い“ミグランス城の戦い”を基本に、さすらいの剣士が城へたどり着くまでを加えたものにするつもりだ。これなら君の負担も少ないだろ?」
「確かにそれだったらオレの負担も少ないな。もっとド派手な演目にするかと思ってたよ。」
「何も新しい演目の追加だけが、マンネリ化解消というわけでは無いのさ。既存の物に変化を加えることも重要なのだよ。」
支配人が大声で笑う。教師の返事がないので、彼女に声をかけた。
「特別講演も入れて良いか?」
「えっ!ええ、もちろんよ。きっと思い出にもなるわ。」
「アルド君、脚本は当日に渡すから生徒達と一緒に来て欲しい。大きく変更もないし、君ならばすぐにものにするだろう。」
「おう!子供たちの為にも頑張るよ。職場見学先が決まって良かったな。」
「え、ええ…。」
彼女と一緒に劇場を後にしようとする。
「ああ。少し話をしたいことがあるから、彼女には残って頂きたい。」
「オレも一緒に居ようか?」
彼女の顔は依然として暗さが残っている。このまま離れてよいものか悩む。
「い、いえ。大丈夫です。」
支配人を一瞥する。その眼を見て彼女を任せる事にする。頼れる大人の眼、今まで見たことが無かった支配人の一面に彼女を任せることにした。
支配人さんに呼び止められてしまった。先程の態度の事を怒られるのか、見学料でも要求されるのか、体がこわばってしまう。
「貴方はもしかして『……………』なんて思っているのではありませんか?」
驚いて支配人の方に目を向ける。支配人はその雰囲気を崩すことなく、私の方へ顔を向ける。心が見透かされているような感覚になる。
「そう思ってしまうのも無理はありません。しかし、私はそう思いません。その………………………………私の提案に乗りませんか?貴女は………………、その事を……に勉強させてあげましょう。」
私の中にある大きな力に従って、私はその提案に乗った。
「待っててくれたんですね!ありがとうございます。」
1人で外を待っていると、彼女が出てきた。その顔は明るくなっているように見えた、言葉には強い意志が感じられる。支配人を信じてよかった。馬車に乗り、ユニガンで別れた。
次に会う時は職場見学だ。大成功だと胸を張れるような演技をしよう。そう決意を固めた。
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