未来への

 地図を見つけたことをキールに報告し、ウィンディが仲間と合流できてから2、3時間経った頃前ルーキーたちは発電所の前に集められていた。キールは高台に立ち、地図を掲げて見せる。


「君たちのおかげで地図を見つけることができた!感謝する!ありがとう!」


 キールはウィンディ達の方に目配せしながら大声で言った。前ルーキー達は発電所ないを隈なく探していたので疲労困憊していたのでキールの話をうとうとしながら聞いているものもいる。そんな彼らを前にキールは続ける。


「今回の発電所採掘プロジェクトに当たって、諸君らの働きは限りなく大きい!この発電所は間違いなく発展のキーになると思う!……そして俺はせっかちだから言ってしまうが、報酬はもちろんある!君たちの働く採掘氷場に直接届けさせてもらった」


 ウィンディはそれを聞いてどきりとした。ウィンディの採掘氷場にはドクリしかいない。そしてドクリは仕事を終えても採掘氷場でダラダラするのが好きな男である。ダラダラされていては採掘氷場に置いてある報酬のセキュリティがマズいのではないか、そんな思いが脳裏に浮かんだ。そんなこともつゆ知らずキールはさらに言葉を続けた。このプロジェクトを完了させるべく。


「発電所採掘プロジェクトは成功だ!みんなおつかれ!」


 キールはこれまでに見せたことのないような笑顔を浮かべた。その笑顔ははつらつとしていて全員の疲労を吹き飛ばしてしまうようなものだった。キールが全員な顔を名残惜しそうに見渡してから台の上から降りると、ルーキ達はアパートに戻り始める素振りを見せる。


「ふー、終わった……疲れたな」


 マインズが腕を組んで真上に体を伸ばしながら疲労を息と共に出すように長く細く、ため息をついた。作業が終わり、ゾロゾロと戻っていくルーキー達を尻目に3人はまだ発電所の前に残っていた。どっと疲れが体を襲い、体が重くなったような気分だった。しかしウィンディはまだかここにいたい理由があった。ウィンディはそんな気分を行動で表すかのようにその場に座り込んだ。


「ウィンディさん?どうしたんです?」


 ノマルはウィンディと同じく座り込んで彼女の顔を覗き込んだ。ウィンディは心配されていることに気づき、頭を振る。


「ううん、ただ……」


「ただ?」


「採掘プロジェクト終わっちゃたの……ちょっと寂しいな……って」


 珍しくしおらしい様子を見せるウィンディにノマルは笑いかける。


「……そうですか……寂しいのは僕も同じです。でも、ここで学んだこと、得た仲間と共にまたこれから進んでいきましょう、それが多分カッコいいですよ」


 ノマルは彼女に手を差し伸べた。マインズもはいたずらっぽく笑い、同じように手を伸ばす。仲間、ノマルの言ったその言葉が頭の中でぐるぐると回る。ウィンディが採掘プロジェクトを意味あるものにできたのは仲間のおかげだ。その事実をウィンディは分かっていた。だからこそ寂しかったのだ。だがウィンディはカッコよくあるために前に進む。彼女は手を伸ばし、2人の仲間の手を取った。


「ありがとう、2人とも」


 ウィンディは仲間と共にアパートに片付けのために向かった。

 

 ウィンディが片付けを終えたアパートの一室を玄関の位置から見渡した。片付けられてしまい殺風景なその部屋をウィンディは名残惜しそうに見つめる。


「お世話になりました」


そう言って部屋から出る。途端に込み上げるものがなくもなかったがウィンディは押し込め、前を向く。隣の部屋から出てきたノマルと共に各々の採掘氷場に帰るためにアパートを出る。


「マインズは逆方向らしいですよ」


「そうなんだ……また会えるよね」


「きっと会えますよ。氷鉱夫として頑張ってればいつか」


 採掘プロジェクトが行われていたアイシクル地区から続々と氷鉱夫が出て行く。そんな一団に混じって彼らに続くウィンディとノマルはくるりと振り返って発電所を見つめた。


「いやぁ、いい仕事したよね」


「でもまだ社会には色々課題がありますよ」


 ウィンディは首を傾げる。再び歩きながらウィンディに説明をし始めるノマル。


「面積の問題がまずあります。あと飲み水の問題とか……氷鉱夫として僕らがやることはまだまだありますよ」


「そうか……じゃあ私達で解決しようね、いつか」


 理想も理想。そんな夢のようなことをのたまうウィンディにノマルは目を丸くした。しかし彼女の目は本気だった。ノマルはため息をついた。呆れではない、感心のため息だ。どこまでも前進しようとする、カッコいいを目指す目の前の氷鉱夫にどこまでも感心させられる。そんなことを考えているとウィンディがノマルの視界に入り込んでくる。


「どうしたの?」


「いいえ。僕も頑張らなければと思いまして」


「ノマルは頑張ってるよ、私のこと励ましてくれたし」


 未来への展望を語りながらウィンディとノマルはそれぞれの採掘氷場へと向かっていった。



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氷の世界に叫ぶ。カッコいいを始めよう、と キューイ @Yut2201Ag

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