完遂
ウィンディはノマルとマインズと共にキールを探していた。地図を見つけたことを報告し、発電所から引き上げるためだ。しかしそうは言っても均質的な作りの屋内は3人を迷わせた。
「こっち……じゃない!右だ!」
ウィンディが急にブレーキをかけて逆の方向に行くこともしばしばあった。そして何よりウィンディとマインズが引っかかった張り付く氷の床ぎ厄介だった。お湯をかければ一時的には張り付く床から逃れることができるがもうお湯もない。3人は足元に注意を払って慎重に進んでいた。
しばらく歩きまわってどこから来たのか分からなくなってきた頃、冷風がウィンディのほおを撫でた。
「……出口?」
ウィンディ達が冷風の吹いてきた方向に向かってみると、そこはルーキー達が発電所に入ってきた時に通った入り口であった。
「戻ってきちゃったね。どうしようか……キールさんが出てくるまで待つ?」
ウィンディがそう口にするとノマルがそれに口を挟む。
「……いや、早いところキールさんに報告した方がいいんじゃないかな。ここで待つ組とキールさんを探して地図を見つけたことを報告する組とで別れた方が……」
ウィンディはそれを聞いてナイスなアイデアが頭のどこかから生まれてきた。自分が秀才ではないかと思うくらいにナイスなアイデアだと彼女は感じた。
「じゃあ、ノマルとマインズがお留守番ね!」
ウィンディが急転直下で結論を出す。男子2人組はポカンと口を開けた。数瞬挟んでマインズが呆然とした様子から立ち直り戸惑いながら口を開いた。
「ど、どうしてだ?」
「だってマインズとノマルさっきから話してないでしょ!仲良くなってよ、私の友達なんだから、それじゃっ!」
ウィンディは再び当惑し始めた2人を視界から外すようにくるりと振り返った。そして後ろ姿をを2人に見せて走り去る。残されたマインズとノマルの間には気まずい沈黙が流れた。マインズとノマルはさっきからウィンディを挟んでしか話をしていなかった。2人がコミュニケーションを不得手としているわけではないが、いきなり友達の友達とは話しづらいものだ。しかしウィンディが去ってから1分も満たないうちにノマルが静寂を破る。
「……ウィンディさんらしいね」
「……ウィンディらしい?」
「うん。ウィンディさんは今人のために動くことがカッコいいと考えて行動しているんだ。多分僕らが話せる環境にしてくれたんじゃないかな」
ノマルの推測は的中していた。しかしそれを言ってしまうのは野暮だとウィンディは感じたので必要最低限のことを伝えて走り去ったのだ。彼女の考えを理解したマインズはぷっと吹き出した。
「ははは。たしかにそれはカッケェな!」
マインズは壁に寄りかかり、背中を擦りながら座り込んだ。
「じゃ、ゆっくり話でもしようぜ」
「そうだね」
2人の少年が仲を深めようとしている頃、ウィンディはあたりをキョロキョロと見渡しながら発電所内の奥を巡っていた。一階は隈なく探したつもりだが残る僅かな探していない所にキールがいるかもしれない。そう考え彼女はローラーで塗りつぶすように隅々まで探していた。
「キールさーん!いますかー」
思い切って叫んでみる。他のルーキー達も発電所内にいるのだから変なやつだと思われるかもしれないがそんなことで捜索でできることをしないのはカッコよくないと言う結論に辿り着いた。大声で叫びながら歩くこと数分、2階に続く階段を通りかかった時上から誰かが駆け降りてくる連続した足音が聞こえてきた。どんどん近づいてくるその音にウィンディは思わず足を止めた。そして階段の踊り場に現れたキールと目が合うまでその硬直は続いていた。
「さっきから俺を呼んでいたのはウィンディ、君か?」
「は、はいそうです……地図、仲間と一緒に見つけたんです」
ウィンディが地図を見せるとキールの顔がパッと明るくなる。そこから事細かにマインズとノマルと地図を手に入れたことを説明しいる最中、キールはしみじみと聞き入っていた。そして聞き終わるや否やウィンディの方を強めに叩いた。
「よくやった!ありがとう!素晴らしい!仲間と協力して……ウィンディ、君何か変わったな?」
ウィンディは何かを射抜かれたような心持ちだった。何か変わった、というよりウィンディ自身が変えようとしていた、あるいは変わろうとしていた。それは事実だ。カッコいいに具体性を求めることを決めた彼女は人を助けることに具体性を見出した。だがそれだけでは足りずノマルに人を頼ることの大切さも教えられた。だから彼女は協力を重視していたのだ。しかしそれはまだ誰にも言ってはいない。それを見抜かれたとあってはウィンディも驚かざるを得ない。
「……変えようとしてます。私、カッコよくなるために!」
ウィンディはそう言いながら地図をキールに手渡した。
「……よし!これで任務は終了だ!俺が先程見つけた放送室から館内放送して皆を集める、君は仲間と共に出口で待機していてくれ!」
「はい!」
くるりと振り返りウィンディは出口へと向かう。
しばらくして出口が見えてくると和気藹々と談笑するマインズとノマルが目に入る。その2人の息の合いようときたらウィンディが帰ってきたのにも気づがないほどだった。
「ただいま!」
ウィンディは半ば大声に近い形で言った。2人は驚いたようにウィンディの方を向いた。そしてすぐに笑顔に変わった。
「おかえり」
そう言ってウィンディを2人は迎えた。
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