3人

 マインズと共にウィンディがドアを開けること3つ目。その部屋はウィンディにとっては見慣れていると言っても過言ではなかった。似たような部屋が多く、印をつけないと迷ってしまいそうなほどだ。


「また似たような部屋……」


 流石のウィンディもここまで同じような部屋が続いていると辟易してくる。少しため息をついた後、嫌な気分を振り払うように頭を振った。同じような部屋であってももしかしたら地図があるかもしれない。淡い期待を胸にウィンディはマインズと共に部屋に足を踏み入れた。


「またまた埃っぽいなぁ……」


「……そして用紙の山……こりゃ骨が折れるぜ」


 2人は目の前の机に高く積まれた用紙の一枚目を捲る。そこからは流れ作業だ。地図のようなものが見つかるまで傍に用紙を避け続けるのだ。たまに地図かと思えるものも見つかるのだが大抵それらは機器の図解だったりする。寒さに指がかじかむ中で薄い用紙を一枚一枚捲るのは骨が折れるが2人は折れずに黙々と作業を続けていく。

 すると静寂を破るように突如マインズの声がウィンディの耳に届く。


「おい……これ地図じゃね⁈」


 ウィンディが作業の手を止め声のする方に目線を送ると一枚の用紙を手に歓喜の表情を浮かべているマインズが目に入る。ウィンディがマインズの方へ駆け寄ってその用紙を覗き込むとたしかにそれは地図だった。キールがルーキー達に探すように言った発電所内の地図そのものだ。ウィンディはそれを見て地図だと認識するや否やペタンと座り込んだ。


「ど、どうしたウィンディ!どっか体調でも悪いのか?」


「ちがう……やっと見つかったと思って。すごいねマインズ」


 ウィンディがそう言うとマインズは首を横に振った。そして地図を広げてウィンディに見せつけるように突き出す。


「これは!ウィンディが俺を助けてくれたから見つけられたんだ!……ありがとう」


 マインズがウィンディの顔を突き出した地図越しにチラリと見る。そこにはすこし恥ずかしそうに笑う少女の顔があった。


「……ふふ。どういたしまして」


「よし!キールさん達に報告しようぜ」


 マインズはへたり込むウィンディに手を差し伸べた。ウィンディがその手を取ると釣りのように力強くマインズが手を引いた。半ば強引に持ち上げられたウィンディは彼の力の強さに驚く。マインズはそんな驚きもつゆ知らず、歯を見せて笑いながらドアに向かい彼女の手を引いた。


「いやぁ。こんな用紙の山に紛れているとはな」


 マインズは地図をぺらぺらと振り回し、半ば乱雑に扱う。やっとのことで地図を見つけて気が抜けたようで完全に顔が緩んでいた。


「……もうちょっと丁寧に……」


 突如ベリ、という用紙をくしゃくしゃにした時のような音がする。そして続け様に何かが羽ばたくようなパタパタという音。

 マインズがその羽音に気づく頃には彼の手の中に地図はなかった。その羽音の正体が流れるように彼の手から地図を奪い取っていったのだ。


「……やっべえ!」


「だから丁寧にって言ったのに……」


 ウィンディはある可能性を放棄していなかった。それは守護者が発電所の中に潜んでいるのではないかという可能性である。そして案の定氷の中から出てきたであろう小型の守護者アイスバットが現れた。その上でマインズから地図を奪い取っていったのだ。

 マインズは一瞬遅れて地図を持ち去った犯人目掛けて駆け出した。ウィンディはそれを追う形となった。彼女は走りながら早口で説明を試みる。


「あれはアイスバット!とにかく早い!そして氷の弾を撃ってくるよ!」


「サンキュー!」


 マインズはそう言うとさらなる加速を見せる。とっくにウィンディは置いてけぼりだ。2人の間は5、6メートルは離れていた。

 追いかけるマインズとウィンディ。それを嘲笑うかのようにアイスバットはUターンする。マインズは止まりきれず勢いそのまま廊下のT字路の壁に正面衝突した。


「いってぇ!」


 Uターンしてウィンディの方へと羽ばたくアイスバット。小型ゆえに天井ギリギリを飛ばれるとウィンディが手を伸ばしても地図には届かない。進路を逆戻りするようにウィンディはかけ戻りアイスバットを追いかける。


「待って!大事なものなの!」


 ウィンディのことを知らぬ存ぜぬと言うようにアイスバットは地図を持って跳び続ける。しかしアイスバットが右に通路を折れた時希望が見えた。目の前に一つの部屋から出てきたノマルが見えたのだ。ウィンディは咄嗟に叫んだ。


「ノマル!ジャンプしてジャンプ!!それか地図とって!」


 いきなり現れたウィンディに驚くノマル。目の前にいきなり現れた少女が息を切らしながら叫んでいる内容が彼にとって意味がわからなかった。しかしものは試しだと言うようにノマルは沈み込むような動作をしてから飛び上がった。アイスバットの視界の中に突如飛び出すノマル。ノマルもアイスバットを視認する。そして彼はすぐさま状況を理解した。


「……なるほど!」


 ジャンプしてアイスバットの視界にノマルが立ちはだかった。そしてアイスバットはウィンディの読み通りUターンをする。ウィンディは機を逃さずにスピードの落ちた瞬間を狙って床を蹴った。そして次の瞬間、伸び上がるウィンディの腕が地図を正確に捉えた。


「やった……!」


 着地したウィンディの手には少し破けた地図が握られていた。一方のアイスバットはおもちゃが取られたのに一瞬遅れて気づき、取り返すのが難しいと見るや否や廊下の向こうへと飛び去っていった。

 マインズはアイスバットと入れ替わるように廊下の向こうからやってくる。彼もまた息を切らして2人の元へ駆け寄ってきた。


「ウィンディ……おお、すげぇ!地図取り返せたんだな!」


 ウィンディは見せつけるように地図を突き出すとにこりと笑う。


「2人のおかげだよ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る