ウィンディ

 グルルと猛犬のように唸るブリザード。氷鉱夫界隈ではルーキーに取っての第一関門とされていた。その所以は計算能力の高さと体に起因する。どんな行動からでもカウンターに繋げるような一連の動きを瞬時に計算する力、そしてツルハシが胴体に当たらないと言う特徴もその強さに大きく寄与していた。

 ブリザードに向かっていくルーキーたちは攻めあぐねている。胴体が吹雪が渦巻いていると言う性質上ブリザードの周りには突風に近い風力が撒き散らされている。だからといって風のみに注意を取られていればナイフのように鋭い氷の爪の餌食だ。そんな中唯一ルーキーではないキールはまとめた長髪を靡かせてブリザードの攻撃を一心に受け持っていた。


「俺が引きつける!側面から狙え!」


 振りかざす爪の軌道を読んではツルハシで弾き、爪自体を破ろうとするように攻撃を加えながらキールは言う。

 ウィンディはそう言われてノマルの元から駆け出した。


「ウィンディさん!」


「もう平気!」


 ウィンディはツルハシを振りかぶりながら素直にまっすぐ走った。ツルハシを足の爪に振るう。今度はヒットするがそもそもの強度が高すぎて大したダメージは与えることにできない。ならばとウィンディは再び斬りかかる。ツルハシをいつものように振りかぶる。

 しかし妙なことが起こった。ツルハシが何かに引っ張られているようで満足に震えないのだ。ウィンディが真後ろのツルハシに目線をやると他のルーキーが振りかぶっていたツルハシと衝突し絡み合ってしまっていた。


「え」


「な……!」


 ツルハシに連動するように足がもつれ転倒するウィンディとそのルーキー。

 キールは必死で彼女らにブリザードの目線が行かないように応戦するが、健闘虚しくブリザードは真横で転ぶ少女に目線を送った。チャンスとばかりに爪を振るうブリザード。

 その時「こっちだ」と叫ぶ声が2つ。一つはキールが自分に敵意を向けさせようと叫んだ一言だ。しかしその一言は使命を達成することはできなかった。もう一つの声はノマルのものだ。

 ノマルはブリザードから10数メートル離れた位置まで駆け、ツルハシを振るった。ノマルの鉱技である飛ぶ衝撃が砂埃を立てながら直進する。そしてブリザードの吹雪が渦巻く胴体に直撃する。そう、直撃したのである。吹雪で形成された体に。大きくぐらつくブリザードを見て、ひとりのルーキーとウィンディはその場からぎりぎりで離脱することに成功した。ウィンディは歯軋りした。2回も助けられてしまったのだ。

 一方不定形な体に当てられた攻撃にキールは目を見開いた。遠くでツルハシを振り抜いたノマルの方に目線を送る。


「確か君はノマルだったな!君の飛ぶ攻撃は吹雪の体にも効くようだ!撃ちまくれ!!」


「はい!」


 ノマルはスナイパーのように狙いを定め、ツルハシを3回振り抜いた。透明な衝撃の弾丸がブリザードの胴体を三度撃ち抜いた。今度はぐらつくに留まらない。ブリザードの体が持ち上がった。


「ナイスだ!」


 キールはニヤリと口元を釣り上げた。キールはツルハシをクルクルと回し、逆手持ちに持ち替えた。そして地を蹴るキール。空中で二回転、思い切り勢いをつけてツルハシを振り抜いた。2度の金属音に似た渇いた音が鳴り響く。早いこと限りなく、音が重なってウィンディには聞こえた。

 ブリザードの体制が崩れたことで、攻めあぐねていたルーキー達が畳み掛ける形となった。吹雪の体には攻撃が当たらないので手足の爪を狙うルーキーたち。ウィンディもそれに参加すべく立ちあがろうとするが、彼女が向かおうとするとキールが檄を飛ばす。


「ウィンディ!休んでいなさい!」


 ウィンディはその声に縛られたように動けなくなった。物理的には動くことができるがあまりの迫力に恐怖したときに近い後退を見せた。

 ルーキー達が体制の崩れたブリザードにたたみかけるのをみたキールは続けてツルハシを逆手持ちから通常持ちに切り替えた。彼のツルハシが震え出す。


「ルーキー達、よくやった!!離れていろ!」


 一斉に弾かれるように散るルーキー達。ブリザードは久方ぶりに自由を取り戻した。ブリザードが自由を取り戻し一番最初に経験したのはキールの追撃であった。キールの一撃は重く鋭い。一撃で爪を削りとり、二撃目で爪を砕いた。

 唸り声をあげるブリザードは体を大きく広げた。直後ブリザードを中心に吹雪の竜巻が発生する。地面を薙ぐ突風はルーキーとキールのそれ以上の侵入を許さない。


「……なるほど……さすがはブリザード……ならば」


 キールは目を瞑る。そして視覚以外の感覚を使いブリザードの位置を感じ取る。吹雪く突風が彼の頬を撫でるのを感じ、土埃が巻き上げられるのを匂いで感じ取る。そしてブリザードの作り出した竜巻に存在するか否かと言う間隙、吹雪に浮かぶ氷片のの隙間を縫ってキールは直進した。そのスピードはルーキー達には目で追えないほどだった。


「……フルヒット!!」


 鉱技を発動し、桁違いの威力で振られるツルハシがブリザードに直撃する。すると先程の竜巻が信じられないほどの凪が到来した。すなわち決着の時だ。

キールは凄まじい技量とスピードを見せつけて、倒れ込むブリザードを前にツルハシを掲げる。それを見たルーキー達は堰を切ったように勝鬨の声を上げた。

 そんな中浮かない顔をしているウィンディに気づいたのはノマルだった。


 


 

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