ブリザード
採掘プロジェクトが初めから15日が経つ頃には発電所まであと10数メートルのところまでに氷が削られていた。毎日の作業は苛烈を極め、筋肉痛は当たり前のことだった。ルーキー達は皆アパートのベッドにつくなりすぐに眠っていた。
今日も作業が終わりウィンディは風呂を済ませてベットに飛び込んた。
「疲れた……」
ウィンディの頭には今日の作業の終わりにアパートに戻るルーキー達に向けられた言葉が反響していた。
「みんな聞いてくれ!氷の中には守護者を発見!種族名はブリザード!吹雪でできた不定形な胴体と氷の四肢を持つ、明日戦闘だ!」
ベットに寝転がるウィンディが見つめる白い天井にキールの顔が刻まれたように思い返される。キールの顔はいつものような快活さに染まってはいなかった。いたって真剣、明日の先頭に対する十分すぎる警戒ルーキー達に感じさせた。
しかしウィンディには疑問があった。ここに集まったルーキーは約100人だ。S級会議のメンバーであるキールとは実力も経験も比べることがおこがましいほどだ。だからといって100人というのは膨大な頭数であり、戦闘において不利になることは考えにくい。それにもかかわらずキールが警戒心を剥き出しにするのは分からなかった。
「ブリザード……そんなにすごい守護者なのかな?」
ウィンディに恐れという感情は今この時なかった。むしろ活躍のチャンスだと捉えていた。ブリザードが恐ろしく強いなら強いで活躍できればウィンディが引き立ち、カッコイイ氷鉱夫に近づくことができるのだ。
ウィンディはベットから起き上がり、ツルハシを手に取った。最近になって手に以前より馴染むようになってきた。このツルハシとならなんだってやれる。ウィンディは天井に腕をぐっと伸ばし拳を作った。
「……私が……やってやる……」
翌日ルーキー達の面持ちは緊張、恐れなど様々であった。ウィンディは深呼吸をしていた。冷たい空気を肺いっぱいに取り込み、吐き出す。深く長く吐き出された白い吐息が彼女の視界を覆った。視界からモヤがなくなるとアパートからツルハシを携えてノマルが出てくるのが目に入る。
「おはようございます、ウィンディさん」
「おはようノマル」
そういうウィンディの視界にはもうノマルは入っていなかった。彼女が見つめるのはただ一つ氷の中にいるブリザードのみだ。氷の中にいるブリザードは胴体は全く外側からは見えなかった。代わりに白く鋭い目つきの顔と四肢が視認できた。ブリザードの胴体は吹雪でできているが氷の中で吹雪は存在しにくい。なので氷の中から出てからあたりの冷気と氷を集めて吹雪の体を形成するのだ。
「皆、集まっているな!」
アパートの方から現れたキールにルーキー達の目線が向かった。長い髪をまとめているのは相変わらずだが、その装いは昨日までとはまるで違っていた。昨日までは茶色いコートを着てズボンは革製のものを着用していたが、今日は鎧のようなものを身につけている。胸当てと関節を保護するプロテクターを身につけた彼はルーキー達をぐるりと見渡した。
「昨日も言った通り氷の中にはブリザードがいる。胴体は吹雪が渦巻いて形成されているのでツルハシは当たらない。留意してくれよ?では、さっさと戦闘に入ろうか」
キールはポケットからスイッチを取り出した。それを出すや否やポチッと押し込んだ。直後氷の壁の方から熱風と爆音が届いた。思わず目を瞑るウィンディ。
ガラガラと崩れる氷壁。爆煙が晴れるとブリザードは氷の前にその姿を現した。氷の中から出てきたブリザードはキールの言う通り吹雪が渦巻く体を持ち、四肢は鋭い爪のような氷で形成されている。
本来爆薬は氷の社会では貴重だ。滅多なことでは使われない。いつもの採掘作業で使えば氷はスムーズに削れるが資源が傷ついてしまうのだ。だからウィンディも他のルーキーも爆発を見たことはほとんどなかった。当惑するルーキー達を前にキールは叫ぶ。
「これが一番手っ取り早いんでな!さぁ………敵意はどうだ?」
氷を取り除く爆発によるダメージはほとんどないようでブリザードはその場で威嚇するように吠えた。そして次の瞬間口を開き、極寒の冷気を球として射出する。
「ふんっ!」
予測するように前に出たキールがツルハシを振るう。冷気の弾はツルハシに当たるとその場で弾け、冷気は散り散りになる。
「敵意確認……さぁ……いくぞ!」
キールは脱兎の如く走り出した。ルーキー達もそれを追ってブリザードにつぎつぎと突撃していった。
「先手必勝!」
キールが叫ぶとツルハシを振るった。その勢いは突風の如く。ブリザードはそれに対抗するように爪を突き出した。抜き手のような形で繰り出された氷の爪とキールのツルハシがカチあたり、金属音がなり響く。
ウィンディもそれに倣ってツルハシを振るった。
「そりゃァァァ!!」
横なぎに振られたツルハシは吸い寄せられるようにブリザードの足の爪に向かっていく。しかし寸前のところで片足を引いたブリザードの機転により避けられてしまう。ウィンディはしまった、そうつぶやいて距離を取る。しかし直後キールが叫ぶ。彼の顔には焦りの色が見えた。
「距離を取るな、間合いを潰せ!」
ウィンディは当惑した。彼の言うことが全くわからなかった。戦闘中の数瞬、彼女は考えるも答えに辿りつかない。次の瞬間後ろに引かれたはずのブリザードの足が再びウィンディの直前に出現する。
「蹴り……?!」
かろうじて蹴りとウィンディの体の間にツルハシを挟み込む。しかしブリザードが回避とカウンターを一緒くたにした行動を読みきれなかったウィンディは蹴りによってふき飛ばされてしまう。
「うわぁぁっ!」
「ウィンディさん!」
滑り込むようにウィンディと地面の間に体を投げ出したノマルによってキャッチされる。彼はツルハシすら手放して彼女をキャッチしていた。
「あ、ありがとうノマル……」
「いいえ……回避とカウンターを同時に……今の数瞬でわかりました……ブリザードは今までの守護者とは格が違う……」
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