カッコよく
S級会議の見学を切り上げることにして、そうっと会議室から出ることにしたウィンディとノマルは腰を椅子から持ち上げた。今度は目線が2人に多く注がれることになった。新人たちを採掘プロジェクトに参加させるという方向で決まりそうな状況なのでそれは当然のことだった。
「失礼しました」
そう言って逃げるようにドアを閉めた。2人はドアを閉めるや否やそのドアに寄りかかるようにしながらその場に座り込んでしまった。なんとか気を保っていられるほどのプレッシャーがあの場にはあったのだ。それよりも恐ろしいことは、2人にいかなる感情が向けられているわけでもないのに会議中に充満していた重圧感を2人が感じ取ったことだ。
「……はぁ……絶対格上の格上ぐらいだよ、あの人たち……なんかもう……」
「そうですね……全員が恐ろしく洗練されている……心体どちらにおいても……」
あの場にいたトップ層の氷鉱夫たちはそれぞれ会議を見る限り性格も、喋り方も振る舞いも違っていた。しかし共通して同じなのはその場にいるだけで他のものを圧倒する存在感だ。2人は会議を見ながらそれに耐えていた。実の所内容をギリギリ覚えている程度だ。
2人はため息をついて立ち上がった。2人が目指す氷鉱夫像は真逆と言っても過言ではない。しかし氷鉱夫として上を目指すことは避けられない。カッコいい氷鉱夫になるにも、キュートな氷鉱夫を目指すにも、トップ層に近づかなくてはいけないのだ。前途多難、2人の脳裏に刻み込まれた言葉だった。しかしだからといって諦める2人ではない。
ウィンディは会議室から離れていく途中、ノマルの目を見ずに、流れるツララタワーの廊下の景色の中、真正面を見据えてつぶやいた。
「……ねぇノマル」
「……はい?」
「私は新人が集められる発電所採掘で……もっと成長するよ!」
「では……僕もご一緒させていただきますね」
ノマルが皺を寄せて笑う。ウィンディの目には確かな希望と目的が宿っていた。カッコイイ氷鉱夫になるため、絶対に発電所採掘プロジェクトを成功させると心に決めた、もちろんそれはノマルも一緒だった。2人の氷鉱夫のルーキーはそれぞれ想いを胸に、それぞれの採掘氷場でプロジェクトまで仕事を続けた。
ウィンディがドクリから声がかけられたのはS級会議を見学してから1週間後のことだった。採掘氷場でちょうど冷蔵庫を氷の中から取り出したときドクリは手招きしてウィンディを呼んだ。知ってると思うが、そう前置きしてからドクリは話し出す。
「……アイシクル地区に発電所が見つかった。掘り出せれば発展になるんじゃないかってことだ。問題は掘り出すための人選だ。俺みたいなベテランを採掘氷場のいつもの作業から外すと通常業務に差し支える。だから業務に差し支えない新人に任せることになった。だが新人だけってわけでもない。隣の採掘氷場のキールってやつがリーダーをやってくれる」
「キールさん……あの長髪をまとめてた人でしょ?」
「そうだ。頼りにはなる」
「には?」
含みのある言い方にウィンディは首を傾げる。ドクリはめんどくさそうにガシガシと頭の後ろをかいてウィンディから目線を外した。何かあるのだろうか、そうウィンディは勘づいたのだ。
「……キールは……まぁ頼れるんだが……せっかちなんだ。あいつのペースに新人たちがついていけるかどうか……」
「せっかち……いいよ!私ついてく!」
ドクリが不安要素を告げてもなお気丈なウィンディに彼は呆れたように首を振る。カッコいいを目指して成長して前進していくウィンディをドクリは嫌いというわけではない。しかしいつものようにだらけている彼にとっては呆れてしまうことが多々あるのだ。
「……ったく、お前らしい。まぁいい、キールはいいやつだ。もっとかっこよくなって戻ってこいよな」
「はい!……そういえば、なんだドクリさんが新人をプロジェクトに使うことを提案してたの?積極的に発言する方じゃないかと思ってた……」
ウィンディ若干失礼なことをのたまっていることを意識して伏し目方にそう尋ねる。ウィンディにとってドクリはスカウトによって氷鉱夫に引き入れてくれた人なのでフランクに絡んでいでも最低限の恩義は感じている。氷鉱夫として楽しく氷の中から毎日資源や電化製品を取り出すことができているのはドクリのおかげだった。
ドクリはあごの輪郭を撫でるようにしながら考える。そしてまた前置きを置いて話し出す。
「まぁ……強いて言えば、全体の底上げだ。新人がもっと活躍して、作業面でも戦闘面でも成長してくれりゃ……俺の負担が少なくなるだろ?」
ウィンディは目を丸くした。そしてすぐに呆れたようにため息を吐いた。ドクリさんらしい、と。
「いいよ、もっと負担少なくしてあげるよ」
「はは、期待しとくぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます