S級会議
反省会が終わった後、ダイナはさっさとS級会議と呼ばれる氷鉱夫の会議に出発してしまった。戦闘の片付けを終えたウィンディとノマルはそれを追う形でコンポ採掘氷場を出た。
ツララタワーまでの道のりはほとんど商店街だ。喧騒が至る所に散りばめられたその商店街がウィンディとノマルの好奇心を刺激する。寄ってみたい店が散見しているが2人の目指すところはツララタワーただ一つだ。好奇心を押し込めて2人は買い物客たちの間隙をすり抜けていく。
ツララタワーにやっとのことでついた2人は氷に囲まれた社会では珍しく汗をかいていた。道のりはさほど険しくはないが喧騒まみれ、人の多い商店街を抜けてくればそうなるのも当然だ。
「……やっと着いたよ」
ツララタワーは役所と同じような役割を担っている。なのでウィンディが扉を開けるとホールから温風が吹き抜け、2人のほおを撫でた。
「ツララタワーは暖房が効いてていいですね」
「羨ましいなぁ。うちの控え室にもつけてくれりゃいいのに」
ウィンディは愚痴をこぼしながらツララタワーのホールを抜けて右側にある廊下へと向かった。会議室のホールの場所はあらかじめダイナが教えてえてくれたので迷うことがなかった。
会議室のホールのドアの前に来ると何やら只者ではない人物たちの雰囲気がドアを突き破ってこちらまで漂ってきていた。このドアに手をかければ一斉に彼らの視線をウィンディとノマルに浴びせられることになるだろう。S級会議に出席するトップ層の氷鉱夫たちはどんな本能をかみせるのか、それが気になった。もちろん邪魔だとは言われないであろう。なぜならダイナが見学に来てもいいとら言ってくれているのだから。
「ノマル……開けるよ?」
「はい。心の準備はできてます」
ドアノブをまわし、軋むドアを半ば強引に押すようにして開けた。キィという音ともにドアが開くと案の定視線が浴びせられる、ということには意外にもならなかった。横に20歩、奥に40歩は進める大きな会議室の真ん中にはテーブルとそれを囲むように20名ほどの氷鉱夫が座っていた。その中の誰も、ウィンディとノマルが入ってきたにもかかわらず目線も送らなかった。
ウィンディはノマルに耳打ちした。
「……無視……されてるわけじゃないよね」
「はい……意に介してない……というのが正しい表現でしょうね」
2人はそうっとドアからスライドするように移動して、静かに部屋の端っこにある椅子に座った。すると他にも見学者が部屋の隅っこの方の椅子に座っていることに気づく。
「……私たちと同い年くらいかな」
「……トップを見ておきたいという気持ちは一緒のようですね」
ノマルは正面の強者たちに目線をやる。どの人もツルハシを椅子の脇に置いて話し合っている。議題はダイナが先ほど言っていた通り、氷の中に見つかった発電所をどう発掘するかである。会議の中心人物と思われる茶髪を後ろでまとめた男性が口を開いた。その言葉は不思議と胸の奥まで響くようにウィンディは感じた。ゆっくり話しているわけではない。どちらかというと早口だ。しかし響く。
「今日の議題!今のところ各々採掘氷場から1、2名氷鉱夫を送り出し即席チームを作る。ということでいいな⁈」
「キール、そうだね、すごい簡潔にまとめりゃそうね」
ダイナはこちらに目配せをしながら発言した。そして言葉を続ける。
「でもまだ色々決めなきゃいけないことがある。なにせ発電所が見つかったのはアイシクル地区、一番守護者が強いところ……無闇に新人を送り込んでも怪我人が出るだけさ。……採掘氷場から送り出すにしてもボーダーは必要だ」
キールと呼ばれた男性はそれを効いて顎に手をつけて考え始める。優秀な氷鉱夫を発電所採掘に駆り出せば本来の業務が止まってしまう。かと言って新人やら2年目の氷鉱夫をアイシクル地区という守護者が強い地区送り込むのはいただけない。
「……いいんじゃねぇの?新人と1人のベテラン……このプロジェクトで新人を育てるってことで」
聞き覚えのある声だ。ウィンディが驚いて目線を声の方にやると会議中にも関わらず椅子の前側を少し浮かせて伸びをするドクリが目に入った。ドクリがS級会議のメンバーであるとは聞き及んでなかったウィンディはしばらく口を開けてポカンとしていた。それはもう隣に座るノマルが口を塞いでくれるまで。
ドクリの発言は波紋を呼んだ。危険すぎる、無茶だ、そんな声が飛び交った。そんな声にドクリはため息をついた。ドクリが反論しようとした時、ちょうどキールが立ち上がった。
「いいじゃないか!しからば僕が出よう!S級会議メンバーとして、新人をまとめ上げて発電所を採掘して見せようじゃないか!」
今度はダイナがため息をついた。ドクリは狙い通りではなかったが自分の意見が通ったことにニヤリとする。一方でウィンディ、ノマルは完全に当惑していた。発電所採掘という国家的プロジェクトを新人が9割を占める状況で行うというのだからそれも無理はない。
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