反省会
コオリドラゴンの戦闘を終えたウィンディは疲れも抜け切らないまま3人と共に控え室のホワイトボードの前に座っていた。ホワイトボードには大きく描かれた円と点が4つ、戦闘前の作戦会議と同じように書かれていた。ウィンディはすでに疲れからうとうととしてきていて、ガクリガクリと頭が四方に揺れていた。しかしパチンと手を叩くダイナによって叩き起こされる。
「反省会を始めるわよ!」
戦闘を終えてまだ元気なのはウィンディとノマル、ドクリから見ると異常だ。ましてダイナは今回の戦闘で一番きつい役目を担っていたのだ。コオリドラゴンの氷の鱗の雨のような射出攻撃からウィンディとノマルを一人で守っていた。それを踏まえて言えることはダイナの体力が人並み外れているということだ。すぐ疲れたと言って横になるドクリとはえらい違いだとウィンディは眠い目を擦ってからドクリに目線をやる。案の定ドクリは眠りこけてる。
「アンタもか、ほら起きな!ドクリ!」
ダイナの手刀が引き寄せられるようにきれいにドクリの頭を直撃した。ビクッと体を震わせてドクリは目を覚ました。
「……ん……よし始めてくれ」
「ったく……そういや氷鉱夫会議とかでもアンタたまに寝るわね……よしまずはウィンディ」
いきなり名指しされてウィンディは体に一本芯が差し込まれているようにピンと背筋を伸ばした。
「ウィンディは新しい技も完成させたしよかったわね。ただ、最初近づけず後退することになったのは痛いわ。もっと速度を上げるか、隠密性を高めるか」
「はい!」
ウィンディは先ほどの眠気が信じられないほど元気に返事をした。意地を張って先輩のいう注意を聞かないのは間違ったかっこよさだ。真にカッコいい者は自分を省みて、他の意見も取り入れて成長するというのが彼女の考えだった。気持ちのいい返事に満足げにダイナが頷く。次に名指ししたのはノマルだ。
「ノマルは飛ぶ衝撃波による攻撃を2回当てられたわね」
「はい!キュートな攻撃だったでしょう!」
「キュートかどうかわからないけど、2回当てている割にはダメージが少なかったわ。精密性と威力を両立できるようにしましょう」
なるほど、と呟いたメモを取るノマル。ノマルはウィンディ対極的と言っていいほどの目標がある。それは可愛い氷鉱夫だ。キュートであればあるほど敷居がさがり、氷鉱夫になりたいという人が増えて氷鉱夫界隈が助かるという彼の考えにはウィンディは感心させられている。
ノマルがメモを取り終えるのを見届けるとダイナは視線をドクリの方へとやる。しかしそこに彼はいなかった。
「逃げられた……まぁ、あの隠密性は接近戦において見習うべきとこだわ。じゃあ、次に私の反省点ね」
そんなものはないのではないのか、ウィンディとノマルはそう考えた。ダイナの今日の振る舞いは完璧に見えた。2人を守り、自分も大きなダメージを与えることによって攻撃にも加勢している。百点という言葉がよく似合っていた。
「私の反省点は……ノマルとウィンディの狙いを見抜けなかったことね。2人が戦闘中密談していたのはわかってたけど私はウィンディとノマルのサポートをするべきだったわ」
ウィンディとノマルは驚愕した。まだ高身を目指す彼女が遥か遠くの人に見えた。
「……すごいです!ダイナさん、そこまで自己分析するなんて!カッコいいです!」
「いえ、ダイナさんは可愛い方ですよ?」
ウィンディとノマルによる一見不思議な称賛に少し笑ったあと、ダイナはパチンとまた手を叩く。
「よし!今日の戦闘は終わり!気絶しているコオリドラゴンはツララタワーの役人さんが氷の壁の向こうに放してくれるから心配はない!私はいくところがあるからこれにて解散!」
「いくところ?」
ウィンディが首を傾げる。同じくダイナと仕事場を同じくするノマルも彼女がどこへ行こうというのかわからないようだった。彼らを見てダイナはふと思い出したように言った。
「氷鉱夫のいわゆるトップ層……S級会議があるんだけど……見に来たい?」
「行きたいです!」
ウィンディは食い気味に、叫ぶように言葉を放った。S級という言葉だけでご飯一杯を食べられるほどカッコいいからである。ウィンディは以前氷の中から取り出したゲーム機を起動してみたところ一番強いキャラクターにSランクの文字が記されていたことからSランク、S級という文字に引かれていた。もちろん氷鉱夫のS級会議が何を指すかは全く知らない。ただカッコいいから行きたいだけである。ノマルはそんな彼女に尋ねる。
「ウィンディさんはS級会議が何か知ってるのですか?」
「知らない!」
呆れたように笑うダイナとポカンと口を開けるノマル、彼らを横目にウィンディはワクワクした心持ちを目に宿してダイナを見つめていた。
「わかった。S級会議を見に来ていいわよ、2人とも。ちなみに今日の議題はこの前見つかった氷の中の発電所をどう掘り出すか……よ」
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