ミッションコンプリート
コオリドラゴンの膝が折れ、その巨体が凍った地面と接触した。ずしんと音を立てる気絶したコオリドラゴンの体。対してウィンディは立ち続けてツルハシを掲げてドクリ、ダイナ、ノマルの方に向けて微笑んだ。
ドクリとダイナは驚愕していた。予想より遥か上をいく結果をウィンディは出して見せたのだ。それだけではない。ノマルと即興で協力して、プロの氷鉱夫でも難しい盤面からコオリドラゴンにトドメとなる一撃を与えてみせた。
驚愕して言葉も出ない2人を差し置いてノマルは彼女に駆け寄った。凍った地面をスケートのように滑り彼女に近づいて拳を突き出した。
「やりましたね、キュートな技でした」
ウィンディは少しほおを膨らませて拳を彼の拳に合わせてコツンと当てた。
「カッコいい技なの!」
ノマルは彼女に手を差し出した。ウィンディは彼の手を取り、笑顔に切り替えた。彼女は正直なところ相当疲弊していた。攻撃を一度当てただけだが何故かツルハシにエネルギーを持って行かれたような感覚に襲われていた。
氷の地面を通り抜け、ドクリとダイナの元に戻る。ダイナは半ば呆れたような、半ば驚いたような、そんな笑顔で彼女を迎えた。ウィンディは不思議がった。勝手にダイナの庇護下から飛び出して攻撃を仕掛け他のだから怒られるものだと思っていた。しかし目の前の短髪の女性は微笑んでぽんぽんと2回、ウィンディの方を叩いて彼女を労った。
「……ったく。驚かされたよ。土壇場であんな技を作り出すとはね。相手の鱗の射出も何も関係ないわけだ。相手の目の前に瞬間移動して攻撃をしちまえばね」
「そうです。でも……ノマルが相手を止めてくれなかったらその準備すらできなかった。ありがとう、ノマル」
ダイナの方から向きを変え、隣にいたノマルのに礼を言う。ノマルは急にコミュニケーションの矛先を向けられて少し慌てふためくがすぐに持ち前の淡々とした様子を取り戻す。
「い、いえ。ウィンディの機転のおかげです」
皆がウィンディのことを称賛する中、少し距離を取ってウィンディたちを見つめるドクリにダイナは声をかける。ドクリは本来なら真っ先にウィンディを称賛するべき存在だ。なぜなら同じコウク採掘氷場の氷鉱夫でウィンディを氷鉱夫に引き込んだ張本人なのだから。しかしドクリは彼らから離れて気難しそうに見つめている。そんなドクリにダイナは呆れたような目線をやった。
「ドクリ、アンタが一番ウィンディの近くに今までいたんだろ?アンタが褒めてやらなくてどうするのさ」
ドクリはそう言われると少し目線を彼女らから外し口をモゴモゴさせてから彼女らに歩み寄る。まるで本当は近づきたくないかのようにゆっくりと。やっとのことでウィンディの前に近づいてきたドクリは相変わらず気難しげに彼女に目線を下ろしていた。
ウィンディは半ばドキドキしながら彼を見返した。珍しく褒めてもらえるのだろうか、そう思って子犬のようにそれを待っていた。それを見てドクリはゆっくりと口を開く。
「よ……よくやったな」
「う、うん」
それだけ?とその場のドクリ以外が感じだがドクリは口を少しパクパクさせてまだ言いたいことがありそうだった。
「……わ、技は良かった。連携も良かった……」
ぷっとダイナが吹き出した。ドクリとウィンディがそちらに目線をやると彼女の短髪が小刻みに震えていた。
「な、何笑ってるんだ!」
「ははは!……何を恥ずかしなってるんだと思ってね。ドクリはいつも氷鉱夫の会議とかでは、だらけていて感情をあんまし出さないのに」
ドクリは目を瞑り、髪の毛をくしゃくしゃにするように頭を描かいた後、細く長く、息を吐き出した。そしてウィンディと目を合わせ、肩に手を置いた。
「か、カッコよかったぞ」
ウィンディは頬が緩んだ。一番聞きたかった言葉だ。よくやった、よりも戦術がどうとかこうとか言われるよりも彼女はカッコいい、の言葉が欲しかったのだ。
「へへ……ありがとう、ドクリさん」
「おい、待てよ⁈別に全部が全部よくよかったってわけじゃないからな⁈最初に突っ込むところでコオリドラゴンにお前近づけてないじゃないか、それに突然ダイナの後ろから危ないところに飛び出して……って聞けよ!」
注意をつらつらと、弁明するように述べるドクリの目の前にいるウィンディは頬が緩み切っていた。そしてドクリの言葉に耳を貸さないほどに嬉しがっていた。恍惚とした表情で彼の目の前にいるウィンディを見てドクリはため息をついた。
パチンと手を叩く音が響いた。コウク採掘氷場の2人の時間を区切って終わらせてしまうようなその音の出どころはダイナだった。彼女はにこりと笑って親指で控え室を指さした。
「まだまだ反省点とかはあるかもだけど、とりあえず片付けをしようじゃないか。みんな頑張ったよ、ウィンディ、ノマル、ドクリ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます