発表

 ツララタワーは約100メートルの高さをほこり、中ごろにはベランダのような突き出た部分が付いている。集まった氷鉱夫たちは何か催しがあるものと思い、ツララタワーの方をずっと向いていた。

 そこに1人の氷鉱夫が現れた。ウィンディはガタイのいい氷鉱夫たちの間から顔をのぞかせて彼を視認する。出てきた氷鉱夫は白いツンツン頭で吊り目の少年は息を吸って大声で叫んだ。拡声器を使ったような大きな声はあたりをすぐに静かにさせた。


「皆さん!お集まりいただきありがとうございます!!」


 一斉に少年に視線が注がれる。少年は少し唾を飲み、話を続けた。


「僕はノマル、コンポ採掘氷場の氷鉱夫です」


 少年が名乗った途端ざわめきがウィンディの周囲に起こった。ウィンディは首を傾げる。コンポ採掘氷場のと言う採掘氷場は聞いたことがなかった。そもそもウィンディは自分が仕事をしているコウク採掘氷場以外にほとんど無頓着だった。ウィンディは手でドクリに合図し呼び寄せた。そしてドクリに耳打ちをする。


「コンポ採掘氷場ってどこ?」


「成績が一番いいとこだよ」


 ドクリはぶっきらぼうに言う。そしてすぐにツララタワーの方を気怠げに見つめた。ツララタワーではノマルが話し始めていた。


「……近年、採掘氷場において敵意のある守護者が見つかることが多発しています。そこでツララタワーの議会では氷鉱夫派遣制度を採用することにしました」


 ざわめきが収まっていたはずの群衆に再びざわめきが起こる。氷鉱夫を派遣というと持ち場の採掘氷場から離れてしまうということだ。


「もちろん、一時的な派遣です。戦闘が行われる予定のある採掘氷場に他の採掘氷場にからヘルプを出す、というものです」


 一般的には戦闘は氷の中に守護者を見つけたらツララタワーに申請をしてから始まる。ウィンディとドクリのように間違えて氷を削りすぎて戦闘が始まってしまったなんてことはレアだ。ノマルは最後に挨拶をするとペコリとお辞儀をして、ツララタワーの中に引っ込んでいった。話し手がいなくなり、群衆がまたパーティー会場のような喧騒を取り戻した。


「集まりはこれで終わり?」


 ウィンディは物足りない気がしていた。わざわざ1時間ほどダッシュしてツララタワーにやってきたのに発表されたのは氷鉱夫をヘルプに出す制度の発表だけとは拍子抜けだった。ウィンディはため息をついて踵を返した。


「なーんだ。つまんないの」


 その時ウィンディの肩を伸びてきた手が掴んだ。彼女は反射的に声を出してしまう。驚いて振り返ると先ほどまでツララタワーの中腹で発表を行なっていたノマル、その人が立っていた。


「はじめまして」


「は、はじめまして……」


 ウィンディはドキドキしていた。いきなり肩を掴まれればそれも当然だが、もっと他のことに驚いていた。1、2分前までツララタワーの中腹にいた男が真後ろをいるのだ。その移動速度は尋常ではない。それにウィンディは気づいていたのだ。


「な、何か用……ですか?」


「ふふ。タメ語でいいよ。同い年だもの。ね、ウィンディさん」


 ウィンディは身を引いた。目の前で可愛らしく笑う少年に恐怖すら覚えた。なぜ名前を知っているのか、それが頭の中をぐるぐると駆け巡ったが、今のところ答えは出ない。今までウィンディはノマルと会話したことも、会ったことも記憶にないのだ。なのに相手は自分のことを知っている。不思議で仕方がなかった。しかしウィンディはあえて胸を張った。


「そ、そう!私はウィンディ!コウク採掘氷場氷鉱夫!パイオニアというツルハシの使い手」


 ウィンディは先手を打つことにした。カッコいい氷鉱夫になるためにはこれしきのことで怯んでいられないのだ。


「よろしく。僕はノマル。あのね君とドクリさんに、お話があるんだ」


 ノマルは優しく言った。彼の笑顔は柔らかく、ウィンディの驚きと恐怖はだんだんと薄れていった。それは彼のいうお話というのを聞く心の準備ができるくらいには。


「お話って?」


「うん、はじめての派遣はコウク採掘氷場からってことに決まったんだ。ツララタワーの議会で抽選したらしい」


 ウィンディは目を見開いた。しばらく口をパクパクさせていた。カッコいい氷鉱夫とやらはウィンディの頭の中から今は完全に消去されてしまっていた。ノマルのいうことは簡単に言えばはじめての氷鉱夫の派遣制度をウィンディとドクリにやってもらうということだ。たしかにはじめての派遣制度は誰かが受け持つことにはなるがまさか抽選とはいえ自分たちが選ばれるとは思っても見ていなかった。


「まじか、めんどいな。まぁしゃあない」


 ドクリはいつのまにか口をパクパクさせているウィンディの隣にやってきていて彼女の方に手を置いた。ウィンディはなんもか状況を飲み込みこんだ。


「な、なるほど。私でいいのかな?頑張るよ」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る