仲間

 発表から1週間、コウク採掘氷場に姿を見せたウィンディは口を真一文字に結んでいた。いよいよ今日彼女はドクリと共に違う採掘氷場にヘルプに行くのだ。ウィンディは腰にくくりつけたツルハシを優しく撫でる。そんなことをしても緊張が収まるわけはないが少しでも高鳴る鼓動をを静かにさせようといろんなところを触っていた。

 しばらくドクリはいつも通り寝癖のついたまま採掘氷場にやってきた。


「なんだウィンディ。緊張してんのか」


「そ、そりゃするよ!でも……カッコいい氷鉱夫になるための通過点だよ」


 ウィンディは手でほおを引っ叩いた。寒さも相まってヒリヒリとした痛みが続く。しかしそれが彼女をを一層奮い立たせた。

 しばらくすると採掘氷場の入り口の方から足音が聞こえた。霜を踏む音がどんどんと近づいてくるにつれてウィンディの鼓動は早くなっていった。そして現れたノマルはにこやかに挨拶をした。


「ウィンディさん、ドクリさん。コンポ採掘氷場のノマル、お迎えにあがりました」


 白い髪を風に靡かせる彼はまっすぐウィンディとドクリを見据えた。ウィンディ唾を飲み、彼に近づいた。


「今日はよろしく」


「はい、よろしくお願いします」


「ところで今日はどこのヘルプに行くの?」


 ノマルはにこりと笑った。ドクリとウィンディは目を細めた。何か嫌な予感がしたのだ。


「僕の職場である採掘氷場、コンポ採掘氷場の戦闘を手伝っていただきます」


 ウィンディは目を丸くした。彼女はまさか採掘成績が一番いいところに行くとは思いもよらなかった。にこりと笑う少年にやはり底知れぬものを感じ取った。

 それでは、と言って彼はついてきてくださいと手でサインをした。ドクリが欠伸をしながらついていくのにワンテンポ遅れてウィンディもついていく。移動中間がもたないと感じたのかノマルが2人に話しかけた。


「お二人にとって理想の氷鉱夫ってなんです?」


「稼げるやつ」


ドクリはさらりと言った。ウィンディから見てもドクリはかなりドライだったがここまでドライだとは思っても見なかった。いくらスカウトして氷鉱夫にしてくれた恩人だからと言っても若干引かざるを得なかった。


「なるほど、ウィンディさんは?」


 特にドクリの事を気にもとめないようにノマルはにこりとウィンディの方に目線を向ける。

ウィンディは待ってましたとばかりに言葉を放った。


「カッコいい人!」


 ウィンディの理想はカッコいい氷鉱夫、これに尽きる。だからいちいちツルハシを振るたびに技名を叫んだりするのだ。15歳にもなって何やってるんだとよく皆は彼女に言うが気にしていなかった。ノマルはそれを聞くと目を見開いた。そしてウィンディの方に駆け寄りいきなり手を握った。


「ふぇ?な、なに?!」


「似たような理想をお持ちの方がいてよかったです!」


 ウィンディは彼の勢いに少しのけぞる。彼の勢いときたらそれはもう猪のような勢いだった。彼の目はキラキラと輝き、ほおが緩んで満面の笑みだ。


「僕はね!かわいい氷鉱夫を目指しているんです!」


「かわいい氷鉱夫?」


 ウィンディは首を傾げた。ウィンディにとってかわいいと氷鉱夫は結びつかないものだった。筋骨隆々の男たちが多い氷鉱夫は界隈には似つかわしくない言葉だ。しかしノマルは誇らしげに続ける。


「僕はね、氷鉱夫はもっとキュートにいくべきだと思うんです。そうすれば氷鉱夫になりたいと思ってくれる人も増えるはずです」


 歩きながらそう言う彼の横顔は立派な見えた。ウィンディと同い年だと言うのに他の人のことを、氷鉱夫界隈全体のことを考えているような発言だ。氷鉱夫は力仕事という性質上やはり筋骨隆々の男が多い。しかし社会を覆った氷を削るのは力というよりコツが必要で技術を掴めば男女、体格は関係はなかった。だから氷鉱夫のあり方をもっと界隈に入りやすいものにしたいというのが彼の目的だった。


「なるほど!いいね、応援する」


「ありがとうございます」


 お礼を言うノマルの顔は少年のように無邪気に見えた。

 会話をしているうちにコンポ採掘氷場が近づいてくる。ウィンディの目にはコンポ採掘氷場と書かれた立派な看板が見えた。ノマルの案内に従って入り口から入るとカンカンと言う氷を削る音が氷の壁の方から聞こえてきた。1人の氷鉱夫がちょうど冷蔵庫を氷の壁の中から掘り出すことに成功しているところだった。ノマルは彼女の方に手を向けた。


「あの人がコンポ採掘氷場のリーダー、ダイナさんです」


 ダイナはウィンディとドクリが来たことにに気がつくと冷蔵庫を担ぎ上げて足音を立て近づいてくる。冷蔵庫を担いでいると言うのに黒い短髪の女性は余裕のある表情を見せる。


「ノマル、案内ありがとう。さて、私がここのリーダー!ダイナだ、よろしく!」


ダイナは冷蔵庫を下ろし地面を少し鳴らす。そして手を差し出した。ウィンディはその迫力に少し身を引いたがそれはカッコいいとは程遠い行為であるためすぐに前に出て手を握った。


「私はウィンディです。よろしくお願いします!」



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