最終話 ギャルと俺


 ギャル子は、レイプされた。

 彼女が努力して隠していた陰キャだと、隠していたせいなのだ。悪魔崇拝という遊びの名の下に。


 もし、俺たち2人の間に……普通に付き合ってセックスしてできた子供ならと考えると、俺はギャル子が産んでくれた赤ん坊が、愛おしくなる。

 彼女はレイプされて、好きだった俺を慌ててセックスして証を作った。その気持ちがどんなに切羽詰まっていたのか、やりきれない。


 なら、好きになられた男の立場にも責任てものがある。ギャル子が俺のことを好きなら、その想いを全力で返してあげなければならない。


 それが男ってもんだろ。



 俺は、あるマンションの一室の前にいる。ここにギャル子がいる連中が屯している事は、彼女から聞いた。



 「はい、どちらさん?」


 「ギャル子の友達です。伝言があって伝えにきました。」



 インターホンを押してスピーカーから流れた声は、随分と怠そうな声だった。ドアの前から足音が聞こえるのを耳に入り、俺は右足を後ろに下げて、膝を曲げる。


 陰気は陰気、陽気は陽気。ギャル子に隠していたが、俺も隠し事をしていた。

 俺は話すのが苦手だ。だが、高校生活が始まり、このまま特徴のないまま生きるのは流石に不味いと焦っていたのだ。

 何か一つでも身につけたい、アイツら陽気系のグループに頭を下げるだけではない。俺たち陰気系のグループでも、やれることは限られてない。


 人は強くなれる。だから俺は、"武術"を会得していたのだ。



 「なんのよう……だっ!!」



 最後のセリフを言わせず、俺は右足に構えた足を、ドアを開けた1人の腹に目掛けて思いっきり蹴り飛ばした。

 相手は腹を押さえて倒れ込み、その隙に俺は奴の顔を目掛けて床に穴を開けるぐらいの正拳突きを食らわした。


 叫び声もあげる暇もなく、まず1人を仕留めた。物音の騒ぎに気づいたのか、奥の部屋にいた奴らが、慌てて走る音が聞こえる。

 ギャル子の話ではレイプしたグループは4人、そこで鼻と口から血を出してる奴を除けば、残りの3人はリビングの部屋にいる。


 そして、この狭い廊下での逃げ道を塞ぐ俺。まさに1対1を持ち込める絶好の空間だ。


 リビング部屋のドアから出てきた男が開けた瞬間、俺は奴の胸へと拳を連打する。

 拳が突き当てるたびに、奴は連射銃で撃たれたかのような痙攣を起こして、呼吸すらままならない状態になっている。


 俺の得意技の1つ、1秒間に5発のパンチを殴り入れることだからな。



 「オラァァあああ!!」



 10秒間、即ち50発の拳の弾丸を撃ち込んだ2人目は、膝から崩れ落ちて前のめりになって倒れた。その光景を見ていた残りの2人は、膝をガクガク震えて凍える鹿のような顔で、俺を見ていた。

 3人目が腰を抜かして床に尻餅を付いた隙に、俺は近くにあった椅子に足を引っ掛けて、壁まで椅子ごと押し付けた。



 「グェッ!!」



 背中に壁に当たる衝撃と、椅子が顎に引っかかる痛みに呻き声をあげたが、そんなもの気にしない。俺は右足を天井高く90度近くまで伸ばして、そのまま剣を振りかずすが如く、踵落とした。

 奴の頭蓋骨をかち割り、椅子をも壊して膝を伸ばしたまま足を振り落としたのだ。


 蹴り終わった後に俺は一呼吸つき、首元からダラーンと垂れて血を流してる3人目をよそに、逆さの十字架のキーホルダーを身につけてるリーダー格に向けて、俺は右足で外回し蹴りをして、4人目の左顔目掛けて足を当てた。


 膝はほとんど伸ばしたまま、外側から内側へ円を描くように足を回して当てられたリーダーは、そのまま倒れ込む。

 主犯であるこいつだけは許さないと俺は、首にぶら下がる十字架を外して、投げ捨てる。



 「おい、ギャル子をレイプした動画はどこだ」



 俺が土足で入った硬い靴だからか、こいつの左頬はかなり腫れていた。なかなか喋らないので、とりあえず服の襟首を掴んで1発だけ、拳に顔面を浴びせた。



 「どこだ」



 リーダーは口を割らない。例え口の中に血が溜まりすぎて喋りづらくても、俺はもう2発と拳を当てることにした。

 これだけでは怒りは収まらない。


 「どこだ」


 「け、携帯のスマホに入ってます!!そこだけにしか入れてません!!」


「……嘘だな」



 なぜ嘘とわかったのか。陽気な奴ほど、嘘を吐くのさ。弱味を餌に、陰気な奴を捕まえる。ギャル子をレイプするなら、奴らだってそれなりのリスクを負う覚悟はしている。

 俺は正真正銘、本気の正拳突きで奴の顔面を狙おうとした時に、こいつは慌てて両手で止めるポーズをしてきた。



 「う、嘘です!!嘘です!!本当は全員分の携帯に転送して置いてあります!!」



 やはりな、と推理通りだった。

 俺は4人のポケットから携帯を取り出して、そのまま素手で握りつぶして破壊した。これでもう、大丈夫だ。

 いや、まだ一仕事残っていた。



 「最後に伝言だ」



 リーダー格である男へ、俺がギャル子の代わりとなつてメッセージを送ることにした。



 「このことを喋ったら、殺す」


 そう吐き捨てて、俺は奴の股間を踏み潰した。






 数日後。

 俺とギャル子は、2人で登校していた。あれ以来、ギャル子は悪魔崇拝グループの輪に入っていない。

 俺が襲撃をした翌日、奴等は大怪我をしたが全員を口止めをしたお陰で、



  『ドアに挟まった』


  『悪魔にやられた』


  『神様にバチに当たった』


 『勃たなくなった』


 などとほざいてたが、気にしない。あれから、大森先生が赤ん坊を保育園に預けて面倒を見ながら、俺たちは正式に付き合うことにした。

 まだ会ったばかりの2人なのだから、俺もギャル子を惚れさせた責任てのもあるし、最後まで育児の面倒を見るつもりだ。



 「なぁ、一目惚れってもさぁ。俺に好きになる要素なんてあるのか?」


 「えー、だってさぁ」



 1つ気になることは、どうしておれのことをギャル子が好きになってたについてだ。

 それを聞かれたギャル子は、嬉しそうに俺の腕を組んで、心の底から笑顔で幸せな顔をしていた。



 「陰気なキャラのくせに、その逞しそうな腕をしてたりゃねぇ。誰だってムキムキボディに惹かれちゃうよ」


 「そ、そうか?」


 「それに私、知ってるんだよ。貴方が川辺でコッソリと体術の修行してるところ。にひひっ」



 陰気は陰気なり努力すべし、どうやら俺の修行は無駄ではなかったようだ。


 何せ、金髪から髪を落とした笑顔の"元ギャル子"が、地味な黒縁の眼鏡をかけて笑ってるんだからね。

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ギャルの赤ちゃん 龍鳥 @RyuChou

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