第15話「ぎもん」

 その翌日も、圭介はやってきた。

 今日はUNOを持参している。カードゲームの定番だし、みんなで楽しめるゲームだからだ。

 驚くことに、姉妹はUNOを持っていなかった。家にあるカードゲームはトランプだけで、それもあまりやることはないらしい。

 というわけで、姉妹は色とりどりのカードに興味津々だった。圭介がルールを教えるとすぐに覚え、3人で対戦することになった。

 まえから思っていたのだが、花恋と月乃はゲームが上手だ。ふたりの家には最新型のゲーム機があるし、ソフトも充実している。それで繰り返し遊んでいたためだとは思うのだが、なんとなくプライドが傷付く圭介だった。

 ただ、今回ばかりは違う。UNOはカード運もある程度絡むので、強力なカードがなかなか出ないことも多い。裏を返すと、運があれば実力は関係ないといえる。

 そして今日の圭介はツイていた。強いカードがどんどん手札に舞い込むのだ。お陰で今日に限っては圭介の独壇場だった。

 

 ちなみに、その後テレビゲームをしたらあっさり負けた。運が絡まないゲームではコイツらに勝てないなと思った圭介だった。


   *   *   *


 ある程度ゲームで遊んだあとは、お互いの話をすることが恒例になりつつあった。

 今日の話題は圭介の悪友についてだった。彼はクレイジーな問題児で、イタズラ好きだった。まだ中学生なのに色々なことに詳しく、その知識を暴走させて圭介やクラスメイト振り回すような男だった。

 若干脚色したものの、ほとんど事実に近い話を身振り手振り交えて話す圭介。ふたりは腹を抑えて笑っていた。花恋は笑い過ぎてソファから転げ落ち、月乃はいつもの無口で無表情な様子とは裏腹に声を上げて笑っていた。

 ひとしきり笑い終えると、次はふたりの番だ。といっても単調な生活が続いているため、話せることは少ないのだが……圭介は興味深くきいていた。

 今日の話題は、花恋達が1ヶ月に1回飲む薬のことだった。飲むと眠くなり、しばらく寝てしまう薬。なんのために飲むのかは分からないが、そういう薬があるのだということを話した。

 話をきいた圭介はしばらく考え込む素振りを見せたあと、


「……その薬って、どういう名前?」

「え? うーん、分からないなぁ」

「…………」


 花恋は首を捻るが、月乃は無表情で圭介を見たあと、薬の名前を言った。


「月乃ちゃん、なんで分かるの!?」

「……はかせが取り出すのを見たことがある」

「花恋は注意力がないからなぁ……」

「むぅ。どうせわたしは注意力がないですよーだ!」


 言葉とは裏腹に、悔しそうな表情を浮かべる花恋。それに苦笑しつつ、圭介は頭のなかであることを考えていた。


(ふたりは成長補助剤……って言っていたよな。でも、飲んでいる割には成長してなくないか?)


 もしかしたら、ふたりはなんらかの病気を患っているのかもしれない。そのために薬を飲んでいるのだと考えれば辻褄が合う。学校に行っていないのも、そのせいかもしれない。

 プライバシーに関わることだということは理解している。だが、圭介は純粋にふたりのことを知りたかった。それでなんらかの事情を抱えているのだとしたら、自分にできることをしてあげたかった。

 森の奥で出会ったちいさな友達のことを、圭介は気に入っていたのだ。


(家に帰ったら調べてみるか)


 そう思いつつ、圭介はふたりの話に耳を傾けた。



   *   *   *


 家に帰ると、圭介は携帯端末で薬のことを調べた。

 といってもネット検索くらいしか方法がないので、とりあえず検索してみる。市販の薬なら情報がヒットするだろうと思っての行動だった。

 そして、そこで圭介が目にしたのはふたりの成長を補助する為の薬ではなく……


「……え?」


 予想外の、知りたくなかった事実だった。

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