第13話「ともだち」

 次の日の午後、圭介はまた皐月日姉妹のもとにやってきた。兄や大人たちに色々と詮索されたが、それを強引に誤魔化しての来訪である。

 今日は携帯ゲーム機を持ってきた。都会育ちの圭介からしてみればあたりまえのものだが、ふたりにとっては初めての体験だったらしい。据え置き型のものは家にあるが、携帯型を見るのは初めてだとか。

 ゲーム機は一台しかない。だが、一台だけで4人が遊べるというパーティゲームを持ってきたので問題はなかった。最も、据え置き型の移植なのでしょぼいものなのだが……。

 それでもふたりは喜んでくれた。新しいゲームが嬉しいというよりは、圭介が来てくれて嬉しいという態度だった。


「ふたりとも、友達はいないのか?」


 ボウリングゲームで惨敗を喫したあと、圭介はふたりにきいてみた。

 

「……いない。というか、わたしたち以外の子供を見たのが初めて」


 月乃の言葉に圭介は驚いた。昨日はきかなかったが、どうやらふたりは学校に行っていないらしい。圭介には五体満足に見えるのだが、何か理由でもあるのだろうか。


「学校は行かないのか?」

「うん。はかせが行かなくていいって言うから」


 はかせがふたりの保護者だということは、昨日きいていた。

 お金の問題だろうかと思ったが、義務教育は学費がかからないはずなので違うと判断する。

 圭介は少し首を傾げた。それを見て、花恋が慌てて言った。


「で、でも勉強はちゃんとしてるよ?」

「本当か?」


 試しに適当な歴史の問題を出してみる。するとふたりはスラスラと答えた。中学生で習う歴史は大雑把なものなのだろうが、かといって何も勉強していないひとが答えられるほど簡単ではない。


「まあ、勉強できるならいいんじゃないのか?」

「でも、考えてみると友達がいないって少し寂しいね」


 花恋が表情を曇らせた。月乃もちいさく頷く。

 たしかに、友達がいないというのはこの年代の子にとっては酷なことだ。

 ……いや、違う。


「友達がいないって……いるじゃんか」


 圭介の言葉に、ふたりはきょとんとした目で彼を見た。

 圭介は自分を指差す。


「オレ、もうふたりの友達だぜ?」


 言ってから、自分の台詞が恥ずかしいものであることに気付いた。

 狼狽える圭介に、ふたりはしばらくポカンとしていたが、やがてその顔が綻び笑顔になる。


「……そっか、そうだよね!」

「……わたしたちは友達」

「ああ。オレたちは、友達だ」


 圭介はまだ少し赤い顔でニッと笑う。

 会ったばかりとか、そんなこと関係ない。

 3人は、もう友達なのだ。


 それから、日が暮れるまで遊んだ。

 ゲームをしたり、鬼ごっこやかくれんぼをしたり……楽しい時間を過ごした。

 夕焼けに染まる空に、3人の笑い声が響いた。


   *   *   *


「そろそろ帰るよ……っと、そうだ」


 帰る時刻になり、圭介は踵を返そうとする。そこで思い付いて、ふたりの顔を見た。


「タブレットを持ってるんだよな? なら、連絡先交換しようぜ!」

「連絡先?」

「ああ、とりあえずタブレット持ってきてくれ」


 ふたりは家に戻り、タブレット端末を持ってくる。

 圭介は元々インストールされていたメッセージアプリを開くと、そこに自分の連絡先を登録してふたりに返した。


「これで、いつでも連絡が取れるはずだ」

「ありがとう!」

「……うれしい」


 花恋は満面の笑みで、月乃は嬉しそうに微笑んでお礼を言った。

 圭介は笑顔になると、「連絡するから! またな!」と叫んで薮のなかに飛び込んでいった。

 ふたりはその姿を見送ったあと、家のなかに戻っていった。



 その後、圭介からふたりにメッセージが届いた。

 『明日も遊べるよ!』という簡素なものだったが、ふたりにとってはそれでも嬉しかった。

 横並びでタブレット端末を見ていたふたりは顔を見合わせると微笑み合う。それを見ていたはかせは怪訝そうな顔をしていた。

 ふたりはそれぞれ返信すると、明日は何して遊ぼうかなぁと、明日のことに思いを馳せたのだった。


 『了解! 明日もたくさん遊ぼうね!』

 『……待ってるから』

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