第12話「けいたい」

 姉妹は圭介が話す外の世界のことに興味津々だった。一目見たときから悪いヤツらではないなということは感じていたが、ここまで目をキラキラさせて話をきいているところを見るに、本当に悪いヤツらではないらしい。

 きくところによると、ふたりはずっとここから出なかったらしい。姉妹からしてみれば、初めて耳にすることばかりなのだろう。圭介が都会に住んでいるということもあり、話すネタには事欠かなかった。

 それにしても……と、都会にあるゲームセンターの話をしながら圭介は思う。


(コイツら、見た目が幼すぎないか?)


 ふたりは圭介と同じく14歳らしい。だが、その見た目はどう高く見積もっても10歳以上には見えない。圭介自身も躰が小さく童顔なので実年齢よりも幼く見られることは多々あったが、その圭介ですら幼い見た目だと思うほどなのだ。ひとが多く個性豊かな連中ばかりの都会の学校にも、こんな見た目の同級生はいなかったように思う。

 不意に、悪友が言っていた「合法ロリ」なる言葉を思い出した。慌ててそれを封じ込め、脳裏でニヤニヤ笑う悪友をぶん殴っておいた。


(なに考えてんだ、オレは……)


 ふたりの純粋無垢な瞳を見ると、ますます申し訳なさが込み上げてくる。圭介の笑顔は途中から引きつったものに変わっていたが、ふたりがそれに気付くことはなかった。

 そんな感じで話していると、ポケットのなかにしまっていた携帯端末が振動した。ふたりに断ってから取り出し、見てみると兄からのメッセージが届いていた。


『いまどこにいるんだ? みんな心配してるぞ?』


 そんな文章のあとに、犬が不安そうな顔をしているスタンプが送られてきていた。

 圭介は『日が暮れる前には戻る』と送ると、顔を上げる。と、ふたりが携帯端末に興味津々なことに気付いた。


「これが気になるのか?」

「うん。あんまり見たことがなかったから」


 花恋の答えに圭介は少し驚いた。この時代に携帯端末を見たことがないというヤツがいるとは……。


「……でも、タブレットは持ってる」

「なんだ、そうなのか。これもタブレットと変わらないよ」

「そうなの?」


 花恋が目を丸くしてきいた。圭介は頷くと、「よければ使ってみるか?」とふたりに携帯端末を差し出した。


「いいの?」

「まあ、たいしたことはできないけど……そうだ、なにかゲームでもやってみろよ」


 まさか、ゲームもやったことがないのだろうか。圭介がきいてみると、「流石にゲームはやったことあるよぅ!」と膨れ面で返された。


「ならいいじゃないか。ほら、これやってみろ」


 アプリを開いて、ふたりに渡す。ボールを操ってゴールまで運ぶというシンプルなゲームだ。ただし道中にはトラップがあり、それに当たるとゲームオーバーになる。

 ふたりは早速ゲームをやり始めた。端末が一台しかないため、交代でやっている。最初はすぐにゲームオーバーになっていたが、そのうちに上達していき……遂には、圭介のハイスコアを更新してしまった。


「おま……」


 圭介は絶句した。かなり自信があるスコアだったのに……。


「ご、ごめんね?」

「……ごめんなさい」

「ああいや、謝らなくてもいいけど……それより、楽しかったか?」


 圭介がきくと、ふたりは笑顔で頷いた。


「ならよかった……っと、そろそろ帰らないと」


 携帯端末に表示された時間を見て圭介は呟く。そろそろ帰らないと怒られる。

 月乃が持っていた携帯端末を返してもらい、圭介はまた薮のなかに入っていく。道は辛うじて分かるし、たぶん大丈夫だろう。


「ねえ!」


 振り返ると、花恋が笑顔で、


「明日も遊ばない?」


 月乃もうんうんと頷く。圭介は「ああ」と言うと、ニッと笑った。


「また、明日な!」


 そう言い残して、圭介は薮のなかに飛び込んでいった。

 ふたりの連絡先をきいておけば良かったなと、あとで思った。


   *   *   *


「ふたりとも、なにかいいことでもあったのかい?」


 夕飯を食べているさなか、はかせがふたりにきいた。


「嬉しそうな顔をしているけれど」

「うん、あったよ!」

「……楽しかった」


 花恋は満面の笑みで、月乃は微笑みを浮かべて頷く。

 ふたりの様子にはかせは微笑みながら、「どんなことがあったのか、僕にも教えてくれるかな?」ときいた。

 ふたりは顔を見合わせたあと、声を揃えて言った。


『内緒!』


 ……なんとなく、今日できた友達のことはまだ秘密にしておこう―─そう思った。

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