第6話「せつぶん」

 今日は節分だ。というわけで、3人は恵方巻きを食べていた。

 最初は花恋が「恵方巻きつくりたい!」と言ったのだが、はかせのマイルールで恵方巻きは店で買うことにしていたので花恋をなだめすかし、店で買ってきたものを食べていた。ちなみに、なぜそんなルールがあるのかは分からない。

 恵方巻きを食べているあいだは無言が基本である。すぐに食べてしまった花恋はふたりが食べているあいだ、話しかけたくてうずうずしていた。しかしふたりとも食べるのが遅く、食べ終わるまでかなりの時間を要した。

 ようやく食べ終わったと見るや、花恋はマシンガンのような勢いでふたりに話しかける。月乃は普通に受け答えをしていたがはかせはまだ口のなかに恵方巻きが入っていたため、モゴモゴ言っていた。


「もぐもぐ、ごくん……ああ、美味しかった」

「はかせ食べるの遅ーい!」

「花恋が早すぎるんだよ。さて……豆まきするかい?」

「するー!」


 花恋は元気よく返事をする。月乃も無言で頷いた。

 それを見たはかせはスーパーの袋から豆を取り出し、ふたりに役割を割り振った。


「僕が地下室をやるから、花恋は2階、月乃は1階をやってくれ。全員が終わったら庭にまこう」

『はーい!』


 この家は広すぎるため、3人でやるとなると分担することになる。

 ちなみに、地下室には花恋と月乃は入れない。はかせが固く禁じているからだ。


「よーし。それじゃ、はじめー!」


 はかせの号令で、ふたりは駆け出した。


   *   *   *


 花恋は「おにはそと! ふくはうち!」と叫びながら豆を投げていく。あまりに声がデカいので1階まできこえてくるほどだった。

 すべての部屋に豆を投げ込む……もとい、ぶち込む作業を終えた花恋は1階へと降りた。2階は部屋の数が少ないのですぐに済むのだ。ちなみに豆はあとできちんと回収している。

 1階では、月乃が「鬼は外……福は内……」と控えめに言いながら豆を投げている。それじゃ鬼は逃げないんじゃないだろうかと花恋は思ったが口にせず。妹の豆まきをじっと見守っていた。

 しばらくして月乃の豆まきが終わると、ふたりは庭に出た。2月の風がふたりの身体を冷やし、ふたりはどちらからともなくくっついて熱を確保していた。

 はかせはまだ来ない。遅いなぁと花恋は呟いて、ぶるりと身体を震わせた。


    *    *    *


 地下室。

 薄暗い場所に、はかせは佇んでいた。

 目の前にはデスクがあり、デスクトップPCのモニタとキーボードが載っている。その横には割れた写真立てが置かれていた。

 写真には花恋と月乃に良く似た男女が写っていた。はかせはその写真を見つめたあと、呟くように言う。


「鬼は外、福は内か……鬼も福も、内にいることにあの子たちは気付いていないみたいだけど」


 鬼は豆をぶつけられたくらいじゃ死なないしねとはかせは呟き、豆を食べる。

 それから踵を返し、地下室を後にした。


   *   *   *


 花恋ははかせを見つけると「遅い遅い」と騒いだ。月乃も少し震えながらはかせをジト目で見つめる。


「ごめんごめん。じゃあ、庭の豆まきしようか」


 3人は袋から豆を取り出し、思い思いに投げ付ける。


『鬼はー外! 福はー内!』


 パラパラと、豆が散らばる音が耳に届く。しばらくそれを繰り返しているうちに、豆まきは終わった。

 

「それじゃ、おしまい。寒いし温かいものでも飲もうか」

「さんせーい! わたしレモネード飲みたい!」

「……ホットミルク」

「はいはい、それじゃ戻るよー」


 三人は家のなかに入っていく。

 後には、バラバラに散らばった豆が残されているだけだった。

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