第4話「さかなのほね」
物凄い地響きがきこえてくる。
それから逃げようとして必死に走っているのだが、躰は思うように動かない。
後ろを振り向きたくはないが、つい振り向いてしまう。自分の背後では、人間の足が生えた巨大な魚が地面を爆走していた。
悲鳴をあげ、ひたすら逃げる。
なぜ魚に足が生えているのか、なぜ人間の足なのか、なぜ陸にいて自分を追いかけているのか──確かめたいことは色々あるのだが、とりあえず追いかけられているので逃げるしかない。
そのうちに小石に躓き、躰が宙に浮いた。あっと思った時には既に遅く、躰が地面に叩き付けられる。胸を
立ち上がろうにも、呼吸を整えるのに精一杯だし、足の痛みが酷くて立ち上がれない。そうしている間にも、後ろの魚は雄叫びを上げて迫ってくる。
ひっ、と短い悲鳴が漏れた。このままだと、食べられる!
ついに、魚が自分のすぐ後ろまで来た。側面から生えている逞しい腕で自分の躰をガッチリと掴む。せめてもの抵抗でバタバタと藻掻くが意味はない。
そして、そのまま魚の口のなかに入っていく。
生臭い匂いに包み込まれ、そして―─。
* * *
「きゃあああっ!」
悲鳴を上げて、月乃はがばりと身を起こした。
汗をかいており、呼吸も荒い。
少しの時間をおいて、先程までの光景が夢だったことを知って安堵する。
恐ろしい光景に悲鳴を上げてしまったが、はかせと花恋を起こすことはなかったようだ。花恋は隣の部屋にいるが爆睡しているだろうし、はかせの部屋は1階にあるので届かなかった可能性が高い。いずれにせよ、ありがたいことだ。
時計を見てみると午前2時だった。ほっとして、もういちど寝直そうとしたが、そこで異変に気付いた。
なんというか、喉がチクチクする。風邪かと思ったが、イガイガするという感じではない。チクチクした痛みと焼け付く様な感じがして、月乃は不快感を覚えた。
悲鳴を上げたからだろうか……いやいや、その程度ではここまで痛まないはず。
なら、なんだろう……考えてみると、思い当たることがあった。
今日の夕飯はサバの味噌煮だった。その時に取り損ねた骨が喉に刺さったに違いない。
早く取らなければ……とはいえ、どうすればいいんだろう。
頭がうまく回らない月乃は、とりあえずキッチンで水を飲むことにした。
* * *
1階にあるキッチンまで移動し、がぶがぶと水を飲む。3杯くらい飲むと、痛みが和らいだ。骨が取れたのだろう。
ほっとした月乃は部屋に戻ろうとしたが、その寸前に考え直してトイレに向かった。おねしょでもしたら大変だ。とはいえ月乃は14歳だし、するはずがないのだが……。
トイレを済ますと、今度こそ月乃は自分の部屋に向かった。
ベッドに入り、目を閉じる。
今度はあの夢を見ないようにと願った。
と、そこで思い付いたことがあった。
もしかして……魚の骨が喉に刺さったからあんな夢を見たのか?
(…………)
……とりあえず、寝よう。
しばらく目を閉じていると、眠気がやってきた。
* * *
その後、月乃は夢を見ずに目覚めることができた。喉の痛みもすっかりなくなっている。
なんであんな夢を見たのか分からないし、そもそも魚の骨が喉に刺さっていたのかどうかも分からない。
だけど、そのせいであんな悪夢を見たのなら……。
(……しばらく、魚は食べたくないな)
月乃はそう思い、ため息をついた。
ちなみに。
魚の骨が喉に刺さったときは、小さめのおにぎりを噛まずに呑み込めばいいというが、実際には危険らしい。
箸や指で取り除こうとするのも駄目。水を飲んだりうがいをしたりして取れないようだったら、素直に病院に行くのがいいようだ。
そんなことを本で読んで、水を飲んだだけで違和感がなくなってよかった……と、月乃は思った。
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