第18話 蒼太の視点

 変なやつだと思った。


 いきなり僕のことを助けるし、冷たくあしらわれてるのにわざわざ人のことに首を突っ込んで変わってるやつだなと思った。

 それでいて人の作った料理を至極美味そうに食べる。

 あんな風に音楽に例えられながら褒められたのは初めてだった。 

 なんだかこそばゆくて仏頂面になってしまったけど。

 手を伸ばして照明を切る。

 トロイメライで仕事を終えた後、こうしてベッドに横たわる数分間の微睡が一番心が落ち着く。

 でもいつもと違うのはなんだか心がふわふわとしている感覚に陥っているからだ。


「ピアノを聞いたからかもしれない……」


 あの店の片隅に忘れられたように置かれたグランドピアノ。

 確か名前がスタンウェイって言うんだっけ。

 先代から伝わってきているのだとよく祖父が自慢していたのを覚えてる。

 昔は音楽が溢れていた店だったのに、急にその音は途絶えてしまった。


「……」


 胸に苦い思いが蘇る。

 いけない。寝る前だって言うのにもやもやした気持ちを抱えたままでは上手く眠りに入る事はできない。

 久しぶりに聞いたピアノの曲は新鮮だった。

 幼い頃にトロイメライにいたときの思い出が蘇ってきたような気がした。


「矢地尾俊介……」


 祖父の話では日本を代表するピアニストの息子なんだと言う。


「それにしては下手なピアノだったけど……」


 ふとスマホを手にした。

 今の時代だったらタップ一つで検索できる。


「……」


 止めよう。

 なんだかあいつに興味を持ってる感じがしてとてもしゃくだ。


「それにしても明日本当についてくる気なんだろうか……」


 目を閉じてふうと息をつく。

 体から力が抜けてこのままならスムーズに眠りにつけそうだ。


「本当に変なやつ」


 別についてきても相手にしないでおいていけばいいのだ。

 そう一息つきながら意識は夢の中へと暗転していった。

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