文章作法は守りましょう

るうね

文章作法は守りましょう

「由紀子さん!」

 去っていく由紀子の背中に、沖彦は声をぶつけた。

 一瞬、由紀子の足が止まる。

「待っているから、あなたが日本に帰ってくるまで! いつまでも、あの場所で!」

 沖彦は人目もはばからず、声を張り上げた。

 だが、由紀子は振り返らず、そのまま霧の中に消えていった。

「由紀子さん……」

 沖彦は、ただそれを見送るしかなかった。



 なんだよこれ。

「編集長が、原稿を投げ返してくる」

 とてつもなく、読みにくいじゃないか。

 そうですかね。

「僕は首を傾げた」

 そんなに読みにくいですか?

 読みにくいよ、地の文が鍵括弧でくくられてないなんて、読みにくいを通り越して読んでて気持ち悪いよ。

 そうですかねぇ……。

「原稿を読み返す僕に、編集長は肩をすくめて、」

 そりゃ、三百年ぐらい前はそういう文章作法もあったらしいけどさ。いまは、地の文は鍵括弧でくくる、台詞はくくらない、ってのが基本の文章作法なんだから守ってもらわなきゃあ。

 斬新だと思ったんですがねぇ。

 斬新ならいいってもんじゃないよ。まず読者が読みやすいものを書く。小説家として、それは当たり前のことだろうに。

「そう言って、編集長はため息をついた」

 奇をてらった作品を書くのもいいけど、もうちょっと基本を大事にした方がいいよ、君は。

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